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隣に越してきたクールさんの世話を焼いたら、実は甘えたがりな彼女との甘々な半同棲生活が始まった【第九章 アフターストーリー(秋)】  作者: バランスやじろべー
第八章後編 二人の両親

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第424話 両家顔合わせ② ~報告後の団欒~

 笑い声が絶えない団欒の中で、テーブルの上のお茶もすっかりぬるくなっていた。

 ふと、舞が湯飲みを置いて、若葉の顔をじっと見つめた。


「……あの、失礼ですがが、若葉さん」


 やや遠慮がちに、けれど確かな確信を含んだ声に、首をかしげる若葉。


「はい?」


「もしかして……、新城若葉さん、ではありませんか?」


 その言葉に、一瞬場の空気がぴたりと止まる。

 その指摘に若葉は照れくさそうに苦笑しながら首を縦に振る。


「はい。私の旧姓は新城で間違いありません。最近はあまり頻繁ではありませんけれど、月に一度くらい、情報番組でコメントをさせていただいてます」


「やはりそうでしたか! 料理番組や情報番組で、何度もお見かけしていて……。こうしてご本人にお会いできるとは!」


 驚きに満ちた舞の声に、宗也がお茶をひと口すする。


「本人ですよ。昔から変わらない。家でも、テレビと同じ口調で味の解説をしてますから」


 舞は目を丸くしつつ、驚きと同時にどこか腑に落ちたような表情を浮かべる。


「それでは怜さんの料理が上手なのも納得ですね」


「いえいえ、家ではそんな立派な姿は見せてないんですけどね……」


 若葉は照れくさそうに肩をすくめたが、その表情には誇らしさもにじんでいた。


「強制はしなかったのですが、美玖も怜も自然と料理に興味を持ってくれて、今では私よりずっと研究熱心です」


「本当に……。葉月はともかく桜彩はすっかり影響受けています。昨夜に話した時も、毎日の晩ご飯をどう作るかって話題ばかりで」


 怜と桜彩は顔を見合わせ、小さく笑う。


「そういえば……この前、お味噌の違いを教えてもらったって話してたよね、桜彩」


「あ……うん。味がぜんぜん違うって教えてもらって。実際に飲み比べてみたら、本当にびっくりした……」


「へえ、それはなかなかいいレッスンを受けたわねえ。あ、そうだ。今度葉月もやってみる?」


 美玖がにやりと笑い、手を伸ばして葉月の肩を軽くつつく。


「わ、私は遠慮しておくかな……」


「あなたも桜彩を見習ってもっと料理の練習をしなさい」


 舞の言葉に葉月はバツが悪そうに顔を背ける。

 若葉もそのやり取りを微笑ましそうに見つめながら、ふと柔らかな声で言った。


「桜彩さんの感覚はとても鋭いですね。味を素直に言葉にできる人は、料理も上手になりますよ」


「……そうなの?」


 桜彩がこそりと袖を引いて、小さな声で問いかけてくる。


「ああ。誰かに伝える為に味を考えるってのも大事だな。現に桜彩は凄い早さで上達してるし」


「……ありがと」


 怜の言葉に、桜彩は顔を赤くして照れてしまう。


「……ほんとうに、良い関係だなあ」


「親としても、ありがたい限りです」


 宗也と空も柔らかく笑う。


「そういえば、桜彩さんの絵は舞さんから教わった物と伺いましたが」


 若葉が何気ない調子で問いかける。


「はい。私はイラストを描く仕事をしていますので、その影響もあって、幼い頃から葉月と桜彩は良く絵を描いていました」


 控えめにそう答えた舞に、若葉が目を丸くする。


「まあ、イラスト……! いったいどのような物を?」


「書籍の装画が多いです。児童書や料理本のカバーを中心に……。他には企業の販促物に使われるようなものや、メッセージアプリに使うアイコンなども少し」


「そうなのですか。あの、もしよろしければタイトル等をお伺いしても?」


 若葉の言葉に、舞は少し恥ずかしそうに頬を掻く。

 それを見た怜は、そんなところも桜彩と似ているな、などと思ってしまう。


「あの『風とスープの日々』や『木漏れ日のレシピ帳』などで表紙を描かせていただきました」


「まあっ!」


 若葉の声が急に高まり、興奮した様子で手を鳴らす。

 まるで宝物を見つけたかのように目を輝かせながら、舞に向けて身を乗り出す。


「私、本棚に並べて飾ってるくらい好きなんです、あのシリーズ。暖かくて繊細で、それでいてちょっと幻想的で……。ページをめくる手がふわっと軽くなるような……」


 舞は一瞬ぽかんとしたが、すぐに目を瞬かせて笑った。


「ありがとうございます。もう何年も前ですけれど……」


「私、もう何度も手に取っているのですが、表紙を見る度に手を止めて見入ってしまって――」


 いつになく饒舌に語る若葉の姿に、怜と美玖は驚いた顔で顔を見合わせた。

 このような母の姿は本当に珍しい。


「母さん、そんなに好きだったんだ」


「ええ。だって、あれは名作よ。あのカバーと挿絵の優しさがあってこそ、レシピの世界が広がるように思えるくらいに」


 若葉の熱弁に、舞もほころぶように笑みを深くした。


「そんなふうに感じてくださる方がいらっしゃると、本当に嬉しいです。……絵って、言葉とはまた違う形で伝わるものなので」


「ええ……。絵の力って、本当に大きいと思います」


 絵は言葉とは違う形で伝えてくれる、それは怜も経験がある。

 桜彩の絵にも、母親譲りの優しさと温度が宿っている、怜はそれを誰よりも知っていた。

 若葉の言葉に怜は横で頷きながら、桜彩の方をちらりと見ると、桜彩は少し照れくさそうに俯いている。


「桜彩も絵が得意で……。先日も桜彩の描いてくれた絵を飾ってみたのですが、とても和むというか……」


「ちょ、ちょっと怜……!」


 思わず出たその言葉に、桜彩が恥ずかしそうに小声で抗議する。

 とはいえその表情に嬉しさが宿っていることも見て取れる。

 そんな姿を見た皆が、優しい視線を向けてくる。


「小さいころから、絵を描くのが好きだったの。でも、最近は別の目標ができて……それもまた、すごく大切なことだと思ってる」


「素敵ですね。好きなことがあるって、本当に幸せなことですもの」


 若葉はふんわりと頷き、すっかり打ち解けたように、舞と自然に会話を続けてる。


「そうだ。桜彩、成績の方はどうだ? 前の学校では問題なかったが、転校してから」


 空の問いに桜彩はふっ、と笑って答える。


「うん、大丈夫だよ。前期中間テストも問題なかったし」


「そうか。それなら安心だな」


 学校が変わったとはいえ桜彩の成績が維持されていることを聞き、空と舞は満足そうに頷く。


「でも、怜に色々と教わったからね。過去のテストの傾向とか、対策集とか」


「そうなの? 怜君、ありがとう」


 舞が柔らかな笑みを向けてお礼を言う。


「いえ、私は大したことはしていませんから」


 それに対して怜は首を横に振る。

 実際に桜彩は怜が教えるまでもなく授業についていけているし、怜がいなくとも充分上位に入っただろう。


「大したことだよ。凄く分かりやすかったもん。だからあれは私だけの力じゃないって」


「そんな事言ったら俺だって桜彩と一緒に勉強してるからさ。俺の成績だって桜彩のおかげってところがあるぞ」


 日頃から桜彩と一緒に勉強するようになって、昨年よりも効率が上がった。

 それに文系に関しては桜彩の方が理解が深い為、怜が教わることも多々ある。


「そんなことないって。現に怜は去年からずっと順位は一位だったんでしょ?」


「あら、そうなのですか?」


「それは凄いな」


 桜彩の言葉に舞と空が思わず目を見開く。


「いえ。ですがやはり桜彩と共に勉強するようになって、私自身も理解が深まっていますし。それに、転入してきたにもかかわらず、私と僅差の二位の桜彩の方が凄いですよ」


「あら、桜彩ちゃんも凄いのね」


「うん。驚いたよ」


 今度は若葉と宗也がその事実に驚愕した。


「ちょ、ちょっと……言うほどのことじゃ……」


 桜彩が焦ったように手を振る。


「ほんとに、たまたまです。範囲が得意だったのもあるし、それに、怜に助けてもらったおかげですよ……」


「いや、だからそれは桜彩自身の力だって」


「ううん、怜の――」


「はいはい、そのくらいにしておきなさい」


「ええ。二人共凄いってことで良いじゃない。


 そこでシスターズが割って入る。

 怜と桜彩はお互いに顔を見合わせて、恥ずかしそうに俯いてしまう。


「二人は将来のことをどう考えているんだい? もう高校二年生の夏休みなんだ。目指すべき進路の方も、徐々に決めていかなければいけないだろう?」


「うん。まだ一年以上ある、ではなく、もう一年と少ししかないのだからね。幸いなことに二人共成績は良いみたいだし、選べる道も多いとは思うけど」


 宗也と空の言葉に、怜と桜彩は視線を交わして頷き合う。

 そう、つい先日話し合った将来の夢。

 それについて、ここでしっかりと伝えておきたい。


「その件だけど……。実は、二人で将来、獣医を目指そうって話をしたんだ」

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