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隣に越してきたクールさんの世話を焼いたら、実は甘えたがりな彼女との甘々な半同棲生活が始まった【第九章 アフターストーリー(秋)】  作者: バランスやじろべー
第八章後編 二人の両親

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第422話 両親に彼女の報告を② ~交際の報告~

 怜の説明に両親は納得がいったというような顔で深く頷く。


「そう。友達が……」


「そうか……。陸翔君や蕾華ちゃんといい、良い友達に恵まれたな」


「うん。本当に……」


 本当に自慢できる友を持った。

 八年前、身体を張って助けてくれた陸翔と蕾華。

 そして、せっかくできた友人に嫌われるかもしれないことを覚悟で助けてくれた桜彩。

 この三人がいなかったら、今ではまるで違う人生を送ることになっていただろう。


「そうか。それなら是非お礼をしたいわね」


「そうだな。私達の大切な息子を助けてくれた、その人に」


 優しい目を向けながらそう言ってくる二人。


「……実はさ、紹介したい人がいるんだ」


「ええ」


「なるほどな」


 伝えると、まるで分かっていたというように頷いてくれた。


「それで、いつ紹介してくれるの?」


「えっと、今から、で良いかな?」


 おずおずと告げると、二人は不思議そうに首を傾げる。


「え、今? 別に構わないけど……」


「うん。だけどこの暑い中こちらに来てもらうのは……」


「いや、すぐそこにいるから」


 宗也の言葉を遮ってそう告げる。

 チラリと隣の美玖を見ると、必死で吹き出すのを押さえていた。


「すぐそこって?」


「まあ、とりあえず良いってことだよね」


 そういってスマホで桜彩へメッセージを打ち込む。

 すぐに返事が来たので、両親に一言断って玄関へと向かう。

 直後、インターホンが鳴ったので、それと同時にドアを開けると、そこには緊張した面持ちで桜彩が立っていた。


「こ……今日は……! あ、あの、私…………」


「ちょ、桜彩、落ち着いて! 父さんも母さんもリビングだから……!」


 ドアが開くと同時に慌てながら桜彩が挨拶をしてくる。

 だが、桜彩に挨拶をして欲しい相手はリビングだ。

 怜も慌てながら桜彩を制する。


「え……? あ、ご、ごめんっ……!」


「ま、まあとにかく入ってくれ」


「う、うん……。お邪魔します…………」


 ぎこちない動作で桜彩が入ってくる。

 そのままリビングとの内扉の前で大きく深呼吸をする。


「大丈夫か?」


「う、うん、大丈夫……!」


 明らかに過剰に緊張している様子だが、両親の方も嫌な印象を持っていないので大丈夫だろう。

 いざとなれば怜の他にも美玖がいる。

 そう考えて、怜は内扉を開けた。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 怜が玄関に向かった後のリビング。

 内扉の方を見ながら若葉は先ほどの怜の言葉を思い出す。


(友達、ね……。でも、おそらくは…………)


 怜が友達と言っていた相手。

 おそらく今、リビングの様子が春に比べて色々と変わっているのはその友達の影響だろう。

 キッチンの方の痕跡もおそらくはそうであろう。

 そして、その相手とはただの友達ではなく――


「どんな友達かな。会ってみるのが楽しみだよ」


 のんびりとした宗也の声。

 その言葉につい苦笑してしまう。


「ん? どうかしたのかい?」


「ああ、ごめんなさい。でも、そうね。とても気になるわね」


 宗也の言葉に頷きながら、視線は先ほどキッチンとリビングのヘリの端に置かれていた物へと吸い寄せられる。


「ねえ、美玖。あなたは知っているのよね?」


「え? うん、まあ……」


 これまでのリアクションから、美玖が怜の友達について知っているのは想像がつく。

 でなければ、この娘のことだから根掘り葉掘り聞きだそうとするだろう。


「ん? 美玖は知っているのか? どんな子なんだ?」


「まあまあ、すぐに会えるでしょ。でも、そうね。多分――」


 美玖の代わりに若葉がそう言いながらキッチンとリビングのヘリに置かれているそれを指差すと、宗也は驚いたように口を開けたまま固まってしまう。

 一方で美玖は『あちゃー』とでも言うように頭を抱えていた。


「ふふっ。でも良いじゃないですか。その後で聞かされる話の心構えもできたでしょ?」


「ま、まあ、な……」


 そんなことを話していると、再びリビングの内扉が開いて、そこから二人が姿を現した。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 扉を開けると三人の視線が集中する。


「こ……こんにちは……」


 隣で精一杯声を出す桜彩。

 その声が上ずっているのは気のせいではないだろう。


「あら、桜彩ちゃん」


 美玖が優しく桜彩に声を掛ける。

 見知った顔がいるということか、多少なりとも桜彩の表情が緩む。


「美玖さん。ご無沙汰してます」


「ううん、来てくれてありがとね。ささ、立ち話もなんだから入って入って」


「ええ。遠慮なくどうぞ」


 若葉も桜彩へ笑いかけながら、座るように手招きする。

 それを受けて桜彩は丁寧に一礼し、リビングへと足を踏み入れた。

 緊張しながら怜の横の席に着く桜彩。

 テーブルの向こうでは、両親が並んで座っている。

 若葉は柔らかく目元を細め、宗也はどこか穏やかな表情で姿勢を正している。


「はじめまして、渡良瀬桜彩と申します。今日は突然お邪魔してしまって、すみません」


 緊張がわずかに滲んだ声。


「いえいえ、来てくれて嬉しいわ。怜からお話を聞いてるの。怜を助けて下さったんですってね」


 若葉が優しく微笑みながら声をかけると、桜彩は一瞬だけ驚いたような表情を浮かべ、それから再び小さく頭を下げた。


「……いえ、そんな。私の方こそ怜に……怜、さんに、とても助けていただいて……。私の方こそ感謝しています」


「怜、で良いわ。普段のように呼んであげて」


 桜彩の言葉を聞いた若葉がそう笑いかけると、桜彩は顔を赤くして俯いてしまう。


「それで、怜。桜彩さんとはどのような関係なんだ?」


 宗也の言葉に、怜と桜彩は一度顔を見合わせて頷き合う。


「実は――」


 そして怜は、桜彩と出会ってから、動物に触ることができるようになった、あの日までのことを話し始めた。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 引っ越して来た時に顔を合わせて、徐々に仲良くなっていって、一緒に料理をするようになって、そしてトラウマを解決してくれた。

 怜が話し終えると、二人でふう、と一息つく。

 すると正面に座る二人が姿勢を正し、桜彩に向かって真剣な目を向ける。


「桜彩さん」


「は、はい……!」


 宗也の言葉に緊張して答える桜彩。

 そんな桜彩に、宗也と若葉は揃って頭を下げる。


「ありがとうございます。怜を、助けてくれて」


「本当に、ありがとうございます」


 その姿を見て桜彩は慌てて首を横にぶんぶんと振る。


「い、いえ……。そ、それに、私の方こそ怜に助けていただいたので……。もし、怜がいなかったら、私は……」


「それでもお礼を言わせて下さい。本当にありがとうございました」


 再び頭を下げる宗也と若葉。

 そして顔を上げた二人に、怜と桜彩は、今日一番伝えたいことを口にする。


「あの、二人共。それで、一つ話しておきたいことがあるんだけど」


「なあに、怜?」


 そして桜彩と向き合って頷きあう。


「怜、私に言わせて」


「桜彩……。うん、分かった」


「あの……、私は怜と……お付き合いをさせていただいています」


 しん、と音が消えたような静寂が、一瞬だけ場を包む。

 それを破ったのは、若葉の柔らかな笑い声だった。


「ふふ……やっぱり、そうだったのね」


「……え?」


 桜彩が驚いたように瞬きをすると、宗也もふっと口元をゆるめた。


「なんとなくそんな気はしてたのよ。キッチンの中も、この部屋も、怜の他の子の気配が強かったし」


 さらりと言った若葉の言葉に、怜は思わず視線を逸らした。


「な、なに、それ……」


「ふふっ。それにね、あれを見せてもらったから」


 そう言って若葉が指差した先、キッチンのヘリに置かれたデジタルフォトフレーム。

 桜彩から贈られた誕生日プレゼントのそれには、仲良く過ごす怜と桜彩の写真が流れていた。


「「あ…………」」


 それを片付けるのを忘れていたことに気付き、怜と桜彩が言葉を失う。


「だから、多分そうなんだろうなって」


「あ、ありがとうございます。私……ご両親にちゃんとご挨拶するのは、ずっと緊張していて……でも、ちゃんとお伝えしたくて……」


「ええ、大事なことを言ってくれてありがとう。正直に言ってくれて嬉しいわ」


「うん。伝えてくれてありがとう」


 二人の言葉を聞いて、桜彩の緊張が解けたように見えた。


「怜のこと、よろしくお願いいたします」


「は、はいっ……!」


 宗也の言葉に桜彩が大きく頷く。


「あはは、良かったわね、二人共」


「うん。姉さんもありがと」


 優しく肩に手を置いて来る美玖にお礼を言う。


「それはそうと、美玖。あなた、話によれば桜彩さんにとても失礼なことをしたみたいね」


 先ほどの説明を思い出したのか、若葉は美玖へときつい視線を向ける。


「え、えっと……それは…………」


 初対面の時の桜彩に対する美玖の対応。

 これはもう言い訳しようがない。


「まあ、今は良いわ。でも後でちゃんと話があるからね」


「わ、分かってる……」



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 そんな二人を横目に、怜は桜彩へと視線を移すと、桜彩も涙を溜めた目でこちらを見ていた。

 その横顔を見つめながら静かに思った。

 桜彩と出会えて、本当に良かった、と。

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