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隣に越してきたクールさんの世話を焼いたら、実は甘えたがりな彼女との甘々な半同棲生活が始まった【第九章 アフターストーリー(秋)】  作者: バランスやじろべー
第八章後編 二人の両親

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第421話 両親に彼女の報告を① ~やって来た両親~

 新キャラです

 光瀬 宗也 (みつせ そうや):怜の父親

 光瀬 若葉 (みつせ わかば):怜の母親

 真夏の陽射しがアパートの壁を照らす午後、インターホンが鳴った。

 リビングでエントランスを確認すると、そこには両親と美玖がカメラに顔を向けている。

 エントランスの解錠操作をして、一度大きく深呼吸する。


(……よし! ちゃんと伝えよう!)


 少しすると玄関のインターホンが鳴った。

 玄関を開けると、そこには先日ぶりの姉の姿と、春休みぶりの両親の姿。


「久しぶりね。元気してた?」


 美玖が先頭で手を振り、その後ろでは怜と美玖の父と母、光瀬宗也(そうや)と光瀬若葉(わかば)もにこやかに立っている。


「いらっしゃい。暑かったでしょ、上がって」


「ただいまー……。って、違った。こんにちは、か」


 美玖が軽く冗談を交えながら玄関をくぐり、その後に続いて宗也と若葉が怜の部屋へと足を踏み入れる。

 内扉を開けてリビングへと入ると、座るよりも早く両親の目がリビング全体を軽く眺める。


「おぉ……これは……」


「また随分と……」


 宗也が感嘆ともつかぬ声を漏らし、若葉も目を見開いた。

 この部屋を訪れたのがゴールデンウィーク以来の美玖も、室内の様子に驚いている。

 三人のリアクションは怜にも分かる。

 以前にこの部屋を訪れた時とは明らかに違っている。

 ガーランドが壁に渡され、窓際には季節の花のタペストリー。

 テーブルの上にはガラスの器に入ったドライフラワーが飾られ、クッションの数が増えている。

 歯ブラシ等、桜彩がここで(夜以外は)過ごしている痕跡は一応隠しているものの、そういった所にはあえて手を付けていない。


「以前とはずいぶん変わったのね」


「そうだなあ。前よりも良い感じに暮らしてるんじゃないか?」


 両親の言葉に、怜は少し照れたように肩をすくめた。


「まあ、ぼちぼちね。少し前に、ちょっと模様替えしたんだ」


「へぇ~? ちょっとって割には、凄く手が込んでない?」


 美玖が椅子の背に寄りかかりながら言うと、怜は目を逸らす。

 それを見て美玖はにやりと意味深な笑みを浮かべるが、何も言わなかった。

 知っているからこそ、余計なことは言わない。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 一通りリビング全体に視線を送った後、若葉は手にしていたバッグをソファに置き、深く座って一息ついた。


「ふう……。冷房、効いてて気持ちいいわね」


「全くだ。車の中も冷房が効いていたが、駐車場からここまでくる間に汗をかいてしまったよ」


「最近の猛暑は凄いからね。麦茶、用意するから手を洗って来てて」


「ええ。ありがとうね」


 怜の言葉に素直に甘えて洗面所へと向かう。

 戻って来ると、怜はキッチンで麦茶を注いでいた。


「怜。ちょっと中、見せてもらっていい?」


 宗也と美玖が戻って来るまでにはまだ少し時間があるので、キッチンの様子を確認することにする。

 怜が普段どのように使っているのか気になるところだ。

 まあ春休みに確認した時と大差なく、何の問題もなく綺麗にしているであろうが。


「いいよ。好きにして」


 お茶請けを出しながら答える怜の横を通ってキッチンへと足を進める。

 まず目を向けたのは手元の収納。

 引き出しは整理されていて、調理器具も清潔に手入れされている。


「うん。ちゃんとやってるのね」


「まあ、料理は元々好きだし」


 実家暮らしの頃から怜はよく料理をしていたし、大した問題はないだろう。

 まあ、一人暮らしを始めた際は色々と勝手が違ったみたいだが。


(あれ……? これは……)


 冷蔵庫の中を確認すると、以前とは違った感じがする。


(ああ……。調味料や食材の量ね……)


 以前怜が購入していた調味料は、もっと少量で売っている物だった。

 一人暮らしで多めの物を買って悪くすることを防ぐ為だ。

 しかしこれはどう考えても一人で短期に使い切ることのできる量ではない。

 ふと冷蔵庫の扉に目を向けるとメモ紙が貼られていた。


『牛乳 早めに使い切る!』


 それを見て若葉は再び首を傾げる。


(これを書いたのは……どう見ても怜ではないわね……)


 明らかに怜とは違う筆跡でメモが書かれている。

 加えてこの内容は、ちょっと遊びに来た友達が書くようなものではない。


「怜。陸翔君や蕾華ちゃんはどう? 最近遊びに来てる?」


 最も可能性の高いのは、夏休みということであの二人がしょっちゅうここを訪れているということだ。

 まあ若葉としてもあの二人であれば一向に構わないと思っているし、多少なりとも羽目を外す程度であればとやかく言うつもりもない。

 怜もあの二人も、その辺りの分別はあると信じている。


「陸翔と蕾華? うん、この前も来たよ。一緒にタコパやった。まあ、あの二人も夏休みでバイト入れてるからしょっちゅうここ来てるわけじゃなく、他で遊ぶことも多いけど」


 怜の返答に若葉は首を傾げる。

 であれば、いったいこの部屋の変化やメモは何なのだろうか。


「そうなの」


「うん。まあ今度向こうの家行くんでしょ? その時に会えると思うよ」


「そうね。その時に会えれば挨拶してみるわ」


 そう言いながら、この状況を考えてみる。

 この新しい雰囲気、キッチンに残された手の痕跡、ところどころに漂う『誰か』の香り。


(これは……多分、一人分の生活じゃない。それに陸翔君や蕾華ちゃんだったら隠す必要もないだろうし……)


 とはいえ、深いところで他人を信用していない怜が、ここまで心を許すことのできる相手。

 もしかしたら――そんな思いが頭の片隅に浮かんでくる。


「母さん、お茶の準備できたよ」


 怜が冷えた麦茶の入ったグラスを差し出してくる。

 リビングには既に宗也と美玖も戻って来ていた。


「ええ。それじゃあ一度リビングに戻りましょうか」


 そう言ってキッチンに背を向け――ようとしたところで、リビングとキッチンを隔てている部分のヘリに置かれているそれが目に入った。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「はい、お茶」


 冷たいお茶の入った四つのグラスとお茶請けを載せた皿をテーブルに置いて腰掛ける。

 それを一息に飲み干した若葉が氷の入ったグラスを置いて、早速話しかけてくる。


「ありがとう。美味しいわ。……なんか、良い暮らししてるのが伝わってくる」


「うん。だいぶ落ち着いたっていうか……。暮らしって、積み重ねだなって思う」


 宗也も若葉同様に優しい目を向けて頷く。

 桜彩のことを伝えよう――

 この雰囲気のままそう口に出そうとした怜だったが、それよりも早く若葉が口を開く。


「ねえ、怜」


「ん? 何?」


「あなたが『今』こうして穏やかなら、私も宗也さんもそれで充分よ」


「そうだな。若葉さんの言う通り、大切な息子が幸せに暮らせているんなら、もう何も言うことはないよ」


 怜は少し驚いたが、すぐに小さく笑って頷いた。


「……ありがとう」


 両親の言葉はそれ以上の説明を求めてはいなかった。

 ただ、その瞳の奥には少しだけ『いつか話してくれ』という優しい期待が宿っているように感じる。


「父さん、母さん」


「ええ」


「どうかしたのか?」


 優しい目を向けてくる二人。

 隣では美玖も応援するように優しく見守ってくれている。


「前に話したでしょ? もう動物に触れるようになったって」


「ええ。良かったわね、怜」


「うん。おめでとう」


 本当に嬉しそうに頷いてくれる。

 八年前のトラウマ、それを乗り越えてついに動物に触ることができるようになった。

 それ自体は目の前の二人にもすでに伝えてはいたのだが、詳細に関してはまだ話していない。

 八年前の事件で怜が心の傷を負った時に、この二人は本当に悲しんでいた。

 それだけに今のこの状態を喜んでくれることも怜には良く分かる。

 そして、今、怜がこうしていられるのは――


「実はさ、その時、友達が助けてくれたんだ――」


 あの日、桜彩が隣で助けてくれた。

 桜彩のおかげでもう一度動物に触ることができるようになった。

 そう、怜はゆっくりと口にした。

次回投稿は月曜日を予定しています

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