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隣に越してきたクールさんの世話を焼いたら、実は甘えたがりな彼女との甘々な半同棲生活が始まった【第九章 アフターストーリー(秋)】  作者: バランスやじろべー
第八章後編 二人の両親

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第419話 両親に彼氏の紹介を② ~交際の報告~

「分かった。すぐに行くから」


 桜彩からの連絡にそう答えて、覚悟を決めて立ち上がる。

 姿見に映った自分の顔が少しだけ引き締まって見えた。

 玄関のドアを閉め、桜彩とお互いに贈り合ったキーホルダーの付いた鍵で施錠する。

 そして隣室、桜彩の部屋の前へと立ち、一呼吸入れる。


(大丈夫、問題ない。よしっ!)


 最後に桜彩とお揃いのキーホルダーをぎゅっ、と握り締めてからチャイムを押す。


「桜彩」


『怜』


 それだけ確認して、数秒後に玄関が開き桜彩が顔をのぞかせた。

 桜彩の優しい笑みに出迎えられて、それだけで緊張が幾分か解れる。


「お邪魔します」


「うん。来てくれてありがと……。あがって」


「ああ。お邪魔します」


 桜彩の後に続いて玄関をくぐる。

 その視線の先にはリビングではなく、通路とリビングを隔てる内扉。

 内扉一枚を隔てた向こう側には、葉月と共に桜彩の両親がいるはずだ。

 前回は『隣人』や『友人』として、そして今日は『恋人』として桜彩の両親に改めて向き合う。

 扉の前に立って一度深呼吸をする。


(深く考えすぎるな。前にも会ってる。しかも、あの時は好印象だったはずだ……)


 顔を上げて桜彩に頷くと、桜彩が内扉を開ける。

 即座に注がれるリビングからの三人の視線。

 桜彩の父である空、母の舞、そして姉の葉月。

 緊張している怜とは裏腹に、三人は優しい視線で出迎えてくれる。

 それを見て怜も少しばかり安堵する。


「こんにちは、ご無沙汰しています」


 緊張を押し隠しながら一礼する。

 そして背中を伸ばしてしっかりと相手へ顔を向ける。


「いらっしゃい。暑い中ありがとう、怜君」


「桜彩がいつもお世話になっています」


 両親は穏やかに笑い、続いて葉月がふっと口元を緩める。


「中々に緊張するシチュエーションね?」


「え、まあ……少し、ですね」


「ふふっ。安心して。みんなあなたに対して悪い印象なんて抱いていないから。とりあえず座って」


 葉月の言葉に苦笑しながら席に着くと、桜彩がすっと隣に座ってくれた。


「お久しぶりね、怜さん。ふふっ。以前会った時よりも、桜彩との距離感が近いわね」


「え……、そ、そうでしょうか……?」


「お、お母さん……!


 舞の言葉に桜彩と揃って慌ててしまう。

 そんな二人を舞と空はニコニコとしながら眺めて来る。

 とはいえ怜も先ほどまでとは違い、心の方もどこか和んでいる。


「料理を一緒にしてるっていうのは、前から聞いてたけれど……、最近はどうですか?」


 恋人になったことをどう伝えようかと考えていると、舞の方から話題を振ってくれた。


「はい。毎日一緒に献立を考えたり、買い物をしたり。桜彩と一緒に作っています」


「桜彩の腕はどうですか? 上達しましたか?」


「はい。五月の時よりも更に上達しています。随分と手際も良くなりましたし、もう初心者とは思えません」


「あ、ありがと……」


 怜の言葉に隣の桜彩が顔を赤くして喜ぶ。

 目の前の空と舞、そして葉月はそんな桜彩を見て嬉しそうに微笑む。


「そうですか。ありがとうございます。料理なんてほぼ未経験の桜彩の面倒を見て下さって」


「いえ。二人で作ることで私も助かっていますから」


 怜としても桜彩が手伝ってくれることで充分に助かっている。

 今ではもう一人で作っていた時よりも大分楽だ。

 それほどまでに桜彩の腕前は上達したし、それに何より共に料理を作ること、それ自体がとても素敵に感じている。


「それに、桜彩と一緒に料理をするのは楽しいですから」


「うん。私も怜と一緒に料理をするのは楽しいよ。もちろん料理以外もね」


 隣で桜彩が笑いながら見上げてくる。

 そして、怜の袖をそっと指先で掴んできた。

 怜もその手を取って、テーブルの下で指を搦める。

 深く呼吸を整え、空いている手で自らの左胸を撫でる。

 真剣な表情を空と舞へと向けると、二人もその空気を感じ取ったのか姿勢を正して言葉を待つ。

 そして怜は桜彩と頷き合って言葉を紡ぐ。


「あの、今日は、お二人に伝えることがありまして」


 両親の視線が静かに二人へと注がれる。

 優しい笑みを浮かべ、これから何を話されるか分かっているかのように――それでいて、せかしたりせずにこちらの言葉を待ってくれている。


「以前お会いした時に、私と桜彩は付き合っていないと言いましたが……、先日、八月の上旬からお付き合いをしています」


「うん。私と怜は、恋人同士になったの。この前、旅行に行った時に、お互いに気持ちを伝えあって」


 落ち着いて、一つ一つ言葉を紡ぐ。

 桜彩も隣でしっかりと顔を上げて二人の関係を伝える。

 一度桜彩の方を向き、視線を交わす。

 伝えるべきことを伝え、再び両親に向き直ると、先ほどまでとは全く変わらず優しい笑顔を浮かべていた。


「ふふっ。やはりそうでしたか」


「うん。おめでとう、二人共」


 驚いた様子はなく、心から安心したような表情で祝福の言葉をくれる。

 認めてくれた。

 その事実に、怜は胸を大きく撫でおろす。


「以前にお会いした時から、いずれこうなると分かっていましたから」


「うん。舞さんの言う通り、二人の間にはそういった空気が流れてたから。いずれ、そうなると思っていたよ」


「ええ。それ以降も、桜彩が電話で怜さんの話をする時は、とても楽しそうに話していましたし」


 両親の言葉に桜彩の顔がぽっと赤くなる。

 一方で、二人の関係を既に知っていた葉月は肩肘をついたままにやにやとしていた。

 そして空と舞は怜の方をしっかりと見据えて


「怜君。桜彩のこと、これからもよろしく願いいたします」


「改めて、よろしくお願いいたします」


 頭を下げてそう頼まれる。

 その真摯な願いに、怜も頭を下げ


「はい」


 と、空と舞からの言葉に、しっかりと頷いた。


「ふふっ。もう緊張なさらなくて結構ですよ」


 頭を上げると、先ほどと同じように舞が微笑みかけてくれる。


「うん。もっとリラックスして欲しいな」


「あ……、はい」


 二人の言葉に、怜は一度大きく深呼吸をする。

 それでやっと緊張が晴れていく。


「良かったわね、二人共」


「ありがとうございます、葉月さん」


「ありがとう、葉月」


 桜彩と付き合っているとついに伝えることができた。

 そしてそれを認めてくれた。

 その嬉しさに怜は安堵して、目の前のお茶へと手を伸ばした。

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