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【第十章前編 クリスマス】隣に越してきたクールさんの世話を焼いたら、実は甘えたがりな彼女との甘々な半同棲生活が始まった  作者: バランスやじろべー
第八章後編 二人の両親

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第418話 両親に彼氏の紹介を① ~やって来た両親~

 夏の午後の陽射しが優しく差し込む桜彩のリビング。

 冷蔵庫の中には冷たい麦茶と甘い焼き菓子が準備されており、久しぶりに集まる家族を出迎える用意はできている。


 ピンポーン


 エントランスのインターホンが鳴り、桜彩に家族が来たことを伝えてくれる。

 それを聞いて、桜彩は大きく深呼吸をした。

 何故ならば、この後――

 自動ロックを解除し数分後、今度は玄関のインターホンが鳴る。

 桜彩が玄関を向けると、そこには姉の葉月と、そして三か月ぶりに顔を合わせる両親が立っていた。


「久しぶりね、桜彩」


「元気にしてたか?」


「うん。久しぶり。元気だよ」


 部屋の中へと入りながら、桜彩は笑顔でそう答える。

 電話でも話した通り食生活については全く問題はない。

 当然ながら、それは今隣の部屋で緊張しながら待機している怜によるところが大きいのだが。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 冷房の効いたリビングに戻り、準備していた麦茶と焼き菓子を冷蔵庫から取り出す。


「ふう。体に染みるわねえ」


 冷たい麦茶を飲みながら葉月が一息つく。

 車の中は冷房が効いていただろうが、駐車場からこのアパートまでは日光が降り注いでいただろう。


「そうねえ。それにしてもこの部屋も随分と変わったわね」


 カップを手にしながら、舞がゆっくりと部屋を見渡した。


「うん。前に来た時とは印象が違っているよ」


 空も舞の言葉に同意する。

 二人の言葉に桜彩は少しだけ肩をすくめて微笑んだ。

 ゴールデンウィークの時は桜彩本人から見ても殺風景だったこの部屋だが、クッションを置いたり壁に絵を飾ったりと当時に比べれば生活感が出てきた。


「最初は本当に何も分からなかったけど……、でもだんだん自分の空間って感じがしてきたかな」


「それだけ、暮らしに余裕が出てきたってことよね。表情も柔らかくなった気がするわよ」


「うん。今の生活は凄く充実してるから」


「そうでしょうね。前は生活することに一生懸命って感じだったけれど、今はちゃんと余裕を持っている感じがするわ」


 舞の言葉に、桜彩はグラスの水面を見つめた。

 それは自分でも思っていたこと。

 最初は一人暮らしをすることすら困難な生活だったのだが、怜と出会って少しずつ変わっていった。

 なんとか生活することができるようになって、そして今は――


「でもほんと。料理も掃除も、ちょっとずつ続けてるのって、えらいわよ」


「気負いすぎずに、自然にやれてるって感じよね。そこが桜彩らしい」


 空も静かに頷いて、壁の方を見る。

 先日、怜と共に画材屋で購入したスケッチブックに描いた絵が壁に飾られている。


「これ、描いたのか?」


「あ、うん。気分転換にね」


「良いじゃないか。暮らしの中に、ちゃんと桜彩らしさがあって」


「……ありがとう」


 桜彩はそう答えながら、壁越しに怜の部屋へと視線を向ける。

 この部屋が整ってきたのも、料理が楽しくなったのも、絵を取り戻すことができたのも、全ては怜と過ごすことができたから。


「……そういえばさ」


 笑いながら葉月が口を開く。


「桜彩って誰かと一緒に暮らしたら、案外上手くやっていけそうじゃない?」


「え?」


 不意を突かれた言葉に桜彩は目を見開く。

 一方で舞も笑いながらその言葉に頷いた。


「そうね。協力するのが上手というか、相手のペースに寄り添えるタイプね」


「そういう人、きっと支え合うのも自然にできると思うなー」


「……そ、そうかな」


 二人の言葉に怜と暮らす未来を思い浮かべて、顔を赤くして照れてしまう。

 熱くなった体を冷ますように、冷えた麦茶を一口口にする。


「そっちに心当たりがある感じの反応ねえ?」


「べ、別に……。い、いや、その……!」


 慌てて否定しようとしたが、否定するのもそれはそれで嫌なので言葉に詰まってしまう。

 その様子を見て、三人は目を合わせて笑った。


「料理もずいぶん頑張ってるみたいね。前に電話で言ってたでしょ? 最近は自分で献立も考えてるって」


「……うん。と言ってもあれは、まあ……。ただ食べたい物を言ったりしてるだけだけれど……」


「誰に?」


 葉月がわざとらしくクスリと笑いながら軽く問いかける。

 両親の方を見ると、二人も葉月と同じ様な笑みを浮かべていた。

 三人共分かっているだろうに、と桜彩も苦笑してしまう。


「ふふ……まあ、いいわ。あんまり深くは聞かないけど……」


「でも、きっと素敵な人なのだろうな」


 優しい笑みを浮かべながらこちらを見てくる。

 まるで、何かを期待するように。

 そして、桜彩はそれを口にする。


「……あの、ね。ちょっとだけ、挨拶してもらいたい人がいるの。その人をここに呼んでも良い……?」


 三人共、少しも驚かない様子で微笑んだ。


「もちろんよ」


「来てくれたら嬉しいな」


「ふふっ。楽しみね」


 それを受けて、この様子なら大丈夫だろうと桜彩は静かに安堵する。


「ありがと。それじゃあ呼ぶね」


 スマートフォンを持って寝室へと移動。

 そして大切な、愛しい人の名前を選択する。

 即座に繋がる電話。


『桜彩』


 聞こえてくる怜の声。

 それに桜彩はゆっくりと穏やかな声で用件を告げる。


「怜。こっちに来てもらえる?」



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 少し前に桜彩と別れてから、怜は自室のリビングでスマホを握り締めて椅子に座っている。

 テーブルの上に置かれたコーヒーはすっかりぬるくなってしまっている。

 にも拘らず、怜はカップに手を伸ばすでもなく、いつ鳴るか分からないスマホを握り締めたまま。

 カチカチという壁に掛けられた時計の音が、やけに大きくリビングに響く。


「……まだかな」


 そろそろ桜彩の両親がアパートを訪れる時刻。

 心臓の鼓動がどんどんと速くなっていく。

 桜彩の姉である葉月とはつい先日みんなで旅行に行ったばかりだが、両親と会うのはこれが二度目だ。

 最初に会ったのは三か月前で、ほんの挨拶程度。

 その時点で両親からの印象は悪くはない、むしろ客観的に考えるのであればよい方向に思われていただろう。

 とはいえ――


『あの、まさか怜さんは桜彩とお付き合いされていないのですか?』


『は、はい……! 私と桜彩はそのような関係ではありません!』


『う、うん……。私と怜はその、あくまでも友達っていうか、親友っていうか、家族みたいな関係っていうか……』


 恋人だと勘違いされたことについて、桜彩と共に否定した。

 あの時は確かに恋人同士ではなかったし、それどころか恋心を自覚してすらいなかった。

 別に嘘を吐いたわけではないのだが、とはいえそれについて考えてしまう。


(いや、だからこそ今の関係をちゃんと伝え直さないと……)


 そう、あの時とは違い、今はれっきとした恋人同士。

 それを今日伝えなければならない。

 ピロン、とスマホが震えた。

 掛けてきたのはもちろん桜彩。


「桜彩」


『怜。こっちに来てもらえる?』


「分かった。すぐに行くから」


 ついにその時――

 怜は覚悟を決めて立ち上がった。

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