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隣に越してきたクールさんの世話を焼いたら、実は甘えたがりな彼女との甘々な半同棲生活が始まった【第九章 アフターストーリー(秋)】  作者: バランスやじろべー
第八章後編 二人の両親

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第415話 たこ焼きパーティー② ~いつも通りの食べさせ合い~

 たこ焼き器のプレートがじゅうじゅうと心地良い音を奏でながら、ついにたこ焼きが完成する。

 それらを一つずつ大皿へと器用に移し、皿の上にぷっくりとした黄金色のたこ焼きが並ぶ。


「うわぁ、美味しそう!」


 もう待ちきれないといった感じで桜彩が大皿を覗き込む。


「味付けやトッピングが残ってるぞ」


 言いながら鰹節をふりかけ、ソースとマヨネーズを格子模様を描くように掛けていく。


「オッケー、第一弾、完成」


「よっしゃ!」


「さっすが!」


「やった! 楽しみ!」


 完成を告げると部屋の空気が一際弾んだ。

 ふわっと広がる香ばしい香りに、四人の視線がたこ焼きの上に集まる。


「凄い……。本当にお店みたい」


 ぽつりと呟く桜彩。


「それは食べてから言ってくれ」


 桜彩の言葉に照れながらも、怜は爪楊枝を四本取り出して、それぞれたこ焼きに刺していく。


「そんなことないって。怜が作ったんだもん、絶対美味しいよ!」


「あはは、ありがと」


 何気ないその一言が本当に嬉しい。

 胸が温かくなるのは、きっと調理中の熱気のせいだけではないだろう。


「それじゃあ食べるか。火傷しないような。いただきます」


「「「いただっきまーす!」」」


 声と同時に怜はたこ焼きを持ち上げて


「ふーっ。はい、桜彩。あーん」


「ふーっ。怜もあーん」


 桜彩も同じように少しだけ冷ましてこちらへと差し出してくれた。

 お互いに揃って相手の差し出してきたたこ焼きに口を伸ばす。


「ふ、ふわっ、あっつっ……!」


「はふっ……、あつっ! でも美味しい!」


 焼き立ての熱さは残っているが、それを含めて本当に美味しい。


「うん! めちゃくちゃ美味しい! 外カリ、中トロってやつ!」


「確かに。外は軽くパリッとして、中はふんわり。タコも弾力があっていい感じだな」


 蕾華と陸翔も満足そうにたこ焼きを頬張っている。

 二人の感想を聞きながら、再びたこ焼き口元へと運ぶ。


「でもホントに上手にできたよな」


「うん……っ、あつ……けど……ん……美味しい……」


 一噛みするごとにふんわりとした生地の甘みと出汁の旨味、タコのぷりっとした食感が広がっていく。

 桜彩も瞳を細めて、しばらくじっと味を確かめていた。


「……こんなに美味しいって、思ってなかった……」


 桜彩の口からぽつりと漏れたその声が、怜の胸をやわらかく打った。


「良かった。でも桜彩が一緒に作ってくれたからだぞ。生地をこねたのは桜彩なんだしさ」


「えへへ。でもほとんど教えてもらった通りにやっただけだよ?」


「それでも充分だっての。手際も良かったし。ほんと、頼もしかった」


「ふふっ。ありがと」


 たこ焼きを食べながら桜彩を見つめる。

 桜彩も自然に目を合わせ、微笑み合う二人のあいだにそっと甘い静寂が流れていく気がする。


「ちょっとちょっと、なに見つめ合ってんの~?」


 ニヤニヤとした笑みでスマホを構えた蕾華の声に、桜彩ははっとして視線を逸らし、顔を赤く染めた。


「そ、そんなんじゃないよ……!」


「うそー、絶対良い雰囲気だったって!」


「おいおい蕾華、そういう指摘は野暮だろ?」


 当然ながら陸翔もスマホを構えて撮影していた。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 たこ焼き器の上で、生地がぷくりとふくらみ始めていた。

 第二弾のたこ焼きは、タコ以外にも色々な具材を入れることにする。

 鉄板の上には、先ほど買って来た具材がテーブルいっぱいに並び、にぎやかさが一段と増している。


「じゃあ、アタシはチーズと明太子いってみる!」


 蕾華が勢いよく宣言して真っ先に具材を投入する。

 陸翔はそれを横目に見つつ、落ち着いた手つきでタコとネギ、そして大葉を入れていく。


「オレはまず徐々に変化させていく。具を増やしすぎると、味が迷子になるからな」


「あっ、そういうのも良いよね。りっくんのも後で食べさせて」


 二人のやりとりを横目に怜は黙々と準備を進める。

 細かく切ったバナナ、マシュマロ、刻んだ板チョコ、そしてバニラ風味のクリームチーズ。


「怜、それ何?」


 桜彩がコーンとウインナーを入れながら、こちらの手元を覗き込んで尋ねてくる。


「ちょっとデザートを作ってみようかなって」


 怜は自分の範囲の端にこっそりと甘い具材を落としていく。

 生地が焼けていくと、バナナの香りがふんわりと広がりはじめる。


「ん? なんだか甘い香りしない?」


 蕾華が鼻をくんくんと動かし、隣にいる怜の作業範囲を覗き込んでくる。


「れーくん、それ、もしかして……チョコ?」


「正解。スイーツたこ焼き、ちょっとだけ仕込んでみた」


「すご……! 怜、こういうのも作れるんだ」


「まあ、昔に遊びで試したことあってさ。意外と合うんだよ。食べてみろって」


 焼きあがった丸いたこ焼きの一つをそっと皿に取り、桜彩に差し出す。


「ふーっ。はい桜彩、あーん」


「あーん」


 口を開けて、ぱくりとそれを頬張る。


「……ん、これ……美味しい……!」


「だろ?」


「とろけたチョコとマシュマロが、ふわふわの生地に包まれて……。バナナの甘い香りがもう最高だよ!」


 こうして喜んでくれると、作った甲斐があるというものだ。

 桜彩は驚いたように目を丸くし、思わずもうひと口ほしくなったのか、舌でそっと唇をなぞる。

 その仕草が、どうしようもなく可愛らしくて、怜の胸がきゅっとなる。


「これ、すっごく好き。デザートみたいで、でもちゃんとたこ焼きって感じも残ってて」


 はにかむような微笑みに、怜はどこかむずがゆくなってしまい視線を逸らす。


「……良かったよ。気に入ってもらえて」


「うん。次は、私が……。はい、あーん」


 同じようにデザートのたこ焼きを桜彩が差し出してくれる。


「ほら、口開けて?」


「あーん。うん、甘くて美味しいな」


 当然ながら残る二人も眺めているだけではない。


「じゃありっくん。あーん」


 蕾華が差し出すと、当然のように陸翔が口を開ける。


「ん。……うん、美味い。入れた具チーズと明太子だったろ。組み合わせ最高!」


「でしょ~? ほらほら、今度は私の番っ」


 蕾華はくるりと身体を傾けて、陸翔が作ったたこやきに視線を向ける。


「どれにしよっかな~。この、ちょっと焦げ目ついてるやつ、絶対香ばしくて美味しいやつだよね?」


「当たり。タコとネギと大葉、バランスいいやつ」


「じゃありっくんおねがい」


 そう言って蕾華が堂々と口を開けると陸翔もは笑いながら、そのたこ焼きをそっと運ぶ。


「はい蕾華、あーん」


「あーん」


 たこ焼きを口に含むと、両手の親指を立てて見せた。


「んんっ、うんっ、めちゃうまだよこれ!」


「しゃべりながら褒めるなって。口いっぱいじゃん」


「だってほんとに美味しいんだもーん!」


 蕾華は笑いながら口を拭き、そのまま陸翔の腕に頭を預けるように寄りかかる。

 陸翔も当たり前のように、空いている左手で蕾華の背中に手を添えた。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 鉄板の上では、まだ次のたこ焼きが焼かれ続けている。

 だが作り立てのたこ焼きよりも熱い空気が二組のバカップルにより生み出され、リビングの中に漂っていた。

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