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隣に越してきたクールさんの世話を焼いたら、実は甘えたがりな彼女との甘々な半同棲生活が始まった【第九章 アフターストーリー(秋)】  作者: バランスやじろべー
第八章後編 二人の両親

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第414話 たこ焼きパーティー① ~タコパ開始~

 十一時、怜と桜彩はキッチンに並んでボウルに向かい合っていた。

 ボウルの中には仕込み途中のたこ焼きのタネが入っている。


「凄いしゃばしゃばしてる……。こんなに、粉が少なくて良いの?」


 桜彩がボウルの中を覗き込みながら尋ねてくる。

 泡立て器を握る手元はややおぼつかないが、その目は真剣だった。

 当然ながら怜のプレゼントしたエプロンを着用している。


「ああ。たこ焼きは生地を緩めに作るんだ。その方が焼いた時に中がトロッとして美味しい。本場だともっと緩く作るらしいんだけど、それだと返すのが難しいからな」


 怜は粉の入った計量カップを覗きながら答える。


「そうなんだ。この前作ったお好み焼きとは違うんだね」


「そうだな。でも理屈が分かると、楽しいだろ?」


 怜がそう言って笑うと、桜彩もつられるように微笑む。


「そのまま入れるとドバッといくから、こうやって……指を添えて、ゆっくり」


「あ……うん」


 追加で出汁を加える桜彩の手に怜が自分の手を添える。

 一瞬、ぴたりと空気が止まり、視線が自然と交差した。

 互いに恋人となってからも、以前と同じようにこうしてキッチンに並んで料理を作っている。

 こうして二人で料理を作る時間は本当に幸せを感じる。


「ありがとね。こんな感じ?」


「オッケー。完璧!」


「やったっ!」


 怜が答えると、桜彩は嬉しそうにはしゃぐ。

 そのまま二人で泡立て器を持ち、交代しながら混ぜていく。出汁の香りがボウルの中から立ち上り鼻へと届く。


「味見してみるか?」


「え、これ生の状態で?」


「いや、焼く前の塩加減を見るだけ。ほら」


 怜が小さなスプーンを差し出と、桜彩は少し戸惑いながらそれを口元へと運んだ。


「……ん。ほんのり塩気がある。でも、出汁の香りが強いかも?」


「うん。大丈夫だな」


 照れくさそうに笑う桜彩。

 その笑顔を見て、怜もふっと目を細めた。

 そんな静かな時間を破るように


 ピンポーン


 チャイムの音がリビングに響いた。


「来たな、二人共」


「うん。私、開けてくるね」


 桜彩がエプロンのままリビングに出て、エントランスの解錠操作を行う。

 数分後、玄関のチャイムが響き、親友二人が到着したことを伝えてくれる。

 玄関を開けると、いっぱいの材料が入った買い物袋を持つ両手を掲げた二人。


「おじゃましまーす! たこ焼き用の具材、いっぱい買ってきたよ!」


「マジでいっぱいだな。食料庫かってくらい詰まってるぞ」


 二人の持つ袋から飛び出しそうな具材を見て、呆れ半分に怜が呟く。 


「そりゃそうでしょー! だってタコパだよ! タコ以外にも色々と入れるに決まってるじゃん!」


 陸翔と蕾華は楽しそうに袋の中身をテーブルに取り出していく。


「てかさ、二人ともエプロン姿だよね。新婚さんごっこ?」


 さっそくからかってくる蕾華。

 隣では陸翔がニヤニヤとしている。


「べ、別にそんなつもりじゃ……! あ、い、嫌ってわけじゃないんだけど……」


 桜彩が蕾華の言葉を慌てながら否定し、そしてチラチラとこちらを見てくる。

 陸翔と蕾華もニヤニヤとした視線を向けて来た。


「まあ、その、俺も嫌じゃないし……」


「う、うん……。えへへ、ありがとね……」


 嬉しそうにはにかみながら呟く桜彩。

 一方で親友二人は満足げに笑っていた。


「まあ、とはいえ、すげえ量だな」


 怜はテーブルの上の具材を改めて見まわしながら呟く。

 タコパと言うことを差し引いても、これは買い過ぎだろう。


「まぁ、蕾華が『全部味比べしたい!』って言い出したからな。オレも止める気なかったけど」


「止めろよ、そこは!」


 怜が唇を尖らせ、苦笑しながら抗議する。

 とはいえ二人の言い分も分からないではない。

 テンションが上がって買い過ぎてしまうことは怜にも経験がある。


「ほら見て、チーズだけで三種類あるんだからね。とろける、プロセス、クリームチーズ。あと、ウインナーは粗挽きと細切り。ついでにコーンと明太子と、冷凍のタコ、キムチも……!」


「いや、チーズとかウインナーは一種類で良いだろ。そこまで食べ比べせんでも」


「これ、冷蔵庫入るの……?」


「入らなかったら全部焼くしかないね!」


 困ったように問いかける桜彩に、勢いよく蕾華が即答する。


「じゃあ、今日は思いっきり、楽しもうね!」


「あ、うん。もうタネはできてるから後は焼くだけだよ」


「やった! それじゃあ早速焼いていこっ!」


「いや待て。まだ具材は切ってないだろ」


 言いながら怜はテーブルに置かれた材料をいくつか手に取りキッチンへと運んで細かく切っていく。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 たこ焼き器の電源を投入し、にぎやかなパーティーの開幕だ。

 ジュウッという音とともに、生地がたこ焼き器の丸いくぼみを満たしていく。

 熱された出汁の香りが一気に立ち上がり、リビング全体に食欲をそそる香りが広がっていく。


「よし、具材投入開始。まずはタコからだな」


 たこ焼き一つ一つにトングでタコを入れていく。

 生地の中にタコが埋まっていくのを見て、桜彩がウキウキと目を輝かせる。


「これ、テンションあがるなあ」


「そうだよな。タコパってなぜか盛り上がるよな」


 パーティーとの言葉通り、仲間内でのたこ焼きというものは何故か盛り上がっていくものだ。


「初めてだけど……楽しい」


「桜彩、丸く返すのやってみる?」


 良い感じに火が通ってきたので、そろそろ回転させるタイミングだ。


「うん……でも難しそう」


「最初は誰でもそう。ゆっくりで大丈夫」


 そう言って怜は見本を見せるようにピックを差し込み、クルリと回転させる。

 くるりと綺麗に回ったたこ焼きに、桜彩の目がぱっと輝く。


「わあっ、凄い!」


「まあ、ひっくり返し方は人それぞれだけどな。俺はタイミングを重視。これがちょうどいいくらい」


「うん。やってみるね」


 怜の手を真似て、桜彩がピックでそっと生地を持ち上げて返す。

 少し崩れたが、楕円形のようにはなった。


「おぉー! やったじゃん!」


「良い感じじゃないか?」


「うん。初めてなら充分だと思うぞ」


 蕾華と陸翔が大げさに拍手を送り、怜もうんうんと頷く。


「うん。それじゃあ他のも返しちゃうね」


 桜彩がこちらの方を見てそっと微笑む。

 そして次々とたこ焼きをひっくり返していく。


「うん。上等」


「サーヤ、初めてなのに凄い上手じゃん!」


「えへへ、ありがと」


 嬉しそうに笑う桜彩の頭へと怜はそっと手を伸ばし、優しく撫でる。


「んふふ~っ」


 すると桜彩は嬉しそうに笑いながら、まるで猫のように頭を怜の胸へとこすりつけてくる。


「私、怜になでなでってされるの好き~」


「俺もやってて楽しいよ」


 頭を撫でながら、桜彩へと微笑を返す。


「……いや、もうね」


「……言うな、蕾華」


 親友達の声は聞こえていないことにした。

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