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【第十章前編 クリスマス】隣に越してきたクールさんの世話を焼いたら、実は甘えたがりな彼女との甘々な半同棲生活が始まった  作者: バランスやじろべー
第八章前編 恋人になった二人の日常

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第405話 仕事終わりに彼女がお迎えに

 新キャラではないですが、一応再度簡単に紹介を

 国東 晴臣 (くにさき はるおみ):リュミエールのパティシエ 第331話にて一度だけ登場

 午後十六時の少し前。

 店内のイートインスペースから年配女性客の楽しそうな声が響いている。

 怜はレジに小銭を補充しながら、壁に飾られているアンティークな振り子時計へと目を向ける。

 この時間のリュミエールはピークを外れ、夕方の空気が店内を穏やかに包んでいた。


「怜君、もうそろそろあがりだよね。いやー、このタイミングで混雑しないで助かったよ」


 ほとんど来客がない中で、商品を補充に来た望がストック表を手にしながらそう口にする。


「そういうこと言ってると、急にどっとお客さん来たりするんですよね。まあ店としては歓迎すべき事ですけど」


「……とか言ってると、来ちゃうんじゃない? 彼女とか」


 ニヤニヤしながらちょいちょい、と脇腹を肘で突いてくる。

 彼女バレした怜を良いおもちゃだと思っているのだろうか。


「いや、それはないですって。今日は特に待ち合わせもしてないし……」


 そう、この後は普通に帰るだけ。

 恋人と過ごすのはその後だ。


「あれー? でも顔に『来て欲しい』って書いてあるよ」


「書いてません」


 毅然とした態度で受け流す。

 いや、確かに桜彩に来て欲しいと思ってしまったが。


「……っていうか、来て欲しいって思ってるの、望さんの方ですよね。その目がもうからかう気満々ですよ」


「そりゃあそうでしょ。なんたってついに怜君に彼女ができたんだから。からかわないわけないじゃない」


「さっき散々からかったじゃないですか。あ、そうだ。瑠華さんには黙ってて下さいよ。バレると面倒なので」


「まあそれは安心して。さすがにそれは理解してるって」


 年齢と彼氏いない歴がイコールの瑠華が、弟分の怜に先に彼女ができたと知れば怒り狂うことは目に見えている。

 瑠華と付き合いの長い望もそれを理解しているのか苦笑して頷いてくれる。


 カラン


 そんなことを話しているとドアベルが控えめに鳴った。


「……あれ?」


 望が口角を上げたまま、ニヤニヤとした目で怜を見る。


「……言ったそばから。ねぇ怜君。彼女、来たよね」


「……来ましたね」


 怜が顔を上げると入り口から桜彩が入って来た所だった。

 夏用のシャツに細身のカーディガン。

 レジに立つ怜を見つけてその表情がぱあっと明るく和らぐ。


「ねえねえ怜君。恋人、来たよね、マジで」


「い、いや、ほんとに約束とかしてないんです。たぶん偶然……」


「はいはい。『たまたま寄っただけです』って言いながら、彼女の方は絶対『もうすぐ終わるかな』って時間狙って来てるやつね?」


「……………………」


 そんなことを話していると、桜彩がカウンターへと到着する。

 怜の後ろで作業している望からの視線を無視しながら桜彩へと向き合う。


「桜彩」


「うん。まだ仕事中だった?」


「後もう少し。残業はなさそうだから待っててくれるか?」


「うん。それじゃあ注文良い?」


 そう言って、ショーケースの中を覗き込んでくる。

 その様子を眺めていた望が、わざとらしく声をひそめて言う。


「……付き合いたてってさあ、見てるだけで初々しいよね~」


「…………」


「怜君、さっきから『恋人が来た』モード全開だし」


「……来てくれるとは思ってなかったんです、ほんとに」


「うそつけー。ちらちら入口見てたじゃん。見てたよ、そういうの」


 くすくすと笑う望の視線の先で、桜彩はショーケースの中にディスプレイされたケーキを見つめながら、ほんのり頬を赤らめていた。


「……あ、これ、ベリーのミルフィーユって前に言ってたやつ?」


「そう。今日の売れ行きナンバーワン」


「じゃあそれにしようかな。紅茶は怜のお勧めで」


「分かった。それじゃあ会計しちゃうな」


 会話が聞こえる周囲に他の客がいないので(イートインスペースには何名かいるが)、店員と客ではなく恋人同士として応対を終える。

 お茶とケーキの載ったトレーを手渡すと、クスリと笑って桜彩はイートインスペースの方へと向かって行った。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 それを店の奥から興味深そうに眺める同僚達。


「……ちょっと、あれ、『会いたくて迎えに来ちゃった彼女』って感じでめちゃくちゃ良くない?」


「分かるそれ。すっごく初々しい」


「いやいや、初々しすぎてニヤけるわ。てか、あの子ほんと可愛い。そりゃ怜君も頑張るわけだわ」


「え、あれ怜君の彼女なん? 美人だし、感じよさそう……」


「うわ〜、制服デートとかしてそう」


「ってかそれもうしてる。先月もここに来て一緒にケーキ食べてたし」


「マジ? でも付き合い始めたのって数日前だよね? 付き合う前からそんなことしてたの?」


「これはもう詳しく聞かないとね、本人から!」


 などと、怜と桜彩を見ながらニヤニヤと話し合っていた。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「それじゃあ時間来たのでお先に失礼します」


 そう言って退勤準備に向かおうとした怜だったのだが、そうは問屋が卸してくれないようだ。


「怜君、ちょーっとストップ!」


 明るい声が背中に突き刺さる。

 振り返ると望達がニヤニヤ顔で並んで立っていた。


「な、なんですか……? もうシフト終わりなんですけど……」


 いや、引き留められた理由はなんとなく分かるのだが間違いであってほしい。


「それは知ってるけど。ちょっとだけ、話そっか。ね?」


 望がずいっと顔を寄せてくる。

 逃げようとするも関根が行く手を塞ぐ。

 完全に挟み撃ちだ。


「それにしてもさぁ、来たねぇ彼女さん」


「可愛かったなー。にっこり笑っちゃって」


「彼女さんに気付いた怜君、一瞬で表情変わったよね」


「ちがっ……いや、あの、そんなつもりじゃ……!」


 慌ててぶんぶんと手を横に振るのだが、そんな怜の行動を皆は無視してからかい続けてくる。


「あの空気感はもう、完全にラブラブって感じだったよ」


「そうそう。もう大好きオーラ全開で!」


「怜君、もうキスとかしてるでしょ?」


「やっぱしてるの!? ねぇ、やってるでしょ!? 絶対やってる!」


 怜は耳まで真っ赤になり、半ば諦めた表情で頭を抱えた。

 皆のからかいは容赦なく怜は顔を赤くして俯くことしかできない。

 こんな時に頼りになる光は用事とやらで店外だ。

 怜は逃げ場を探しながら視線を泳がせる。


「まあ今日の所はそのくらいで良いじゃないか。彼女さん待たせてるんだろ? 早く帰してあげなって」


 そんな怜を救ってくれたのは晴臣の一言だった。

 その言葉に他の同僚達も


「あ、そうだね。ごめんごめん。それじゃあ詳しい話はまた今度ね」


「次あった時に聞かせてねー」


「それじゃあねー、バイバイ」


「ありがとうございます、晴臣さん。それじゃあお疲れ様です……」


 やっと解放されたので更衣室の方へと足を向ける。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 着替えを終えた怜が桜彩の所へ向かおうとすると、皆がまたニヤニヤとした視線を向けて来る。


「……何か?」


「ううん。ほら、早く行きなさいな。彼女、待ってるよ~」


「そうそう。彼女さん待たせちゃダメだよ~」


 見送りを受けながら、怜はそそくさとフロアへ戻っていった。

 歩く姿勢もどこかぎこちなく、耳の赤みは引かぬまま、顔を伏せるようにして窓際のテーブルへ向かう。


「怜、おつかれ。もう終わった?」


 桜彩の声は、さっきまでの同僚の騒がしさとは対照的に柔らかくて優しかった。


「ああ、終わった。……ちょっと、最後のほうで騒がしかったけど」


「え? 裏で何かあったの?」


 フォークをもったままきょとんとした目で聞いてくる。


「……みんなに、めちゃくちゃからかわれた」


「え?」


 それを聞いた桜彩が目を丸くする。


「なんか、彼女ができたって望さんに速攻でバレて。それでラブラブすぎる、とか……」


「へぇ」


 桜彩はフォークを置いてぷっと笑った。


「でもさ、それ、事実でしょ?」


「ちょっと! だからそういうのが、からかわれる元なんだって!」


「うん。でもさ、そういうの言われるの、なんか嬉しいなって思ってた」


 怜が唖然としたまま固まると、桜彩は照れたように頬を染める。


「……だって私、怜の彼女なんだもん。可愛く見られたいし。……お迎えだって、ちゃんとそのつもりで来たんだから」


「う……」


 もう、からかわれる理由しかない。

 しかし今度は、不思議と嫌じゃなかった。


「まあ怜はこれからしばらくここで働くときにからかわれるかもしれないけどさ」


「いや、それは桜彩だってそうだろ? 望さんとは顔見知りだし」


「うん。だけどそれ以外の人とはあまり話はしないから、だから少しは恥ずかしいけど平気なんだ」


「む…………」


 ここでアルバイトしているわけではない桜彩は、怜とは違って皆にからかわれることはない。

 若干不公平だな、と思ってしまう。

 ふとレジの方へと視線を向けると、望が仕事をしながらニヤニヤとした目でこちらを見ていた。

 他にも消耗品やケーキを補充するがてら、こちらの様子を微笑ましく見てくる者もいる。


(……ま、しょうがないか)


 もうこうなってはどうしようもない。

 そう結論付けて、怜も覚悟を決める。


「それじゃあさ、今からは彼氏としてそっち側に座っていいか?」


「うん、もちろん」


 桜彩の笑顔に導かれるようにして、怜はテーブルを回り桜彩の隣に腰を下ろした。

 対面ではなく横並び。

 恋人としての距離。


「それじゃあ怜。お仕事お疲れ様。ごほうびに、はい、あーん」


「……あーん」



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 当然ながら、次回の出勤日にこれでもかというくらいからかわれることになったのだが。

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