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【第十章前編 クリスマス】隣に越してきたクールさんの世話を焼いたら、実は甘えたがりな彼女との甘々な半同棲生活が始まった  作者: バランスやじろべー
第八章前編 恋人になった二人の日常

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第404話 リュミエールで即バレ

新キャラです 二人共モブです

三宅 (みやけ):リュミエールのパティシエの女性

関根 (せきね):リュミエールのアルバイトの女子大生

 十三時過ぎ、怜はリュミエールの休憩室の扉をそっと開ける。

 ほんのり冷えた空気と厨房からの焼き菓子の甘い香りが鼻をくすぐる。


「休憩入ります」


 怜が入ると先客の二人の女性スタッフ達が顔を上げた。

 怜自身のアルバイトは不定期であり最近はそんなに入ってはいなかったのだが、この二人はそこそこ前から在籍しており、よく話す顔見知りだ。


「あ、怜君。お疲れー」


 早速パティシエの三宅みやけがおいでおいでと手招きして来る。


「久しぶりだよね。最近怜君あんまり見なかったし」


 三年上の女子大生であり、アルバイトの関根せきねが冷たい水の入った紙コップを持って来てくれた。

 それを受け取って一息に飲み込むと、火照った体に冷たい水が染み渡っていく。

 生き返るとはこういうことを言うのだろう。


「お久しぶりです。あ、そうだ。先日旅行に行って来たのでお土産を持ってきました」


 紙袋からいくつかの箱を取り出す。

 旅行先で買った塩キャラメル、塩せんべいなど何種類かの土産の箱が、休憩室のテーブルの上に積まれていく。

 それを見た二人の顔が一気に華やいだ。


「ありがとー!」


「あ、それじゃあ今食べちゃおっか。ほら、怜君もこっちこっち」


 言いながら今度は冷えたアイスティーを準備してくれる。


(……望さんはいないか。まあ、助かったな)


 バックヤードにいたのがこの二人だけ、ということで怜は安堵する。

 もちろん望のことは嫌いではないし、人としては好ましく思っている。

 しかし、もし旅行に行ったということを話したら根掘り葉掘り聞かれるのは間違いない。

 そこから桜彩との関係まで勘繰られるのも確定しているだろう。

 だがこの二人だけならそのような危険はない。

 ――と考えたのがフラグだったのだろうか。

 冷蔵庫から昼食用に作って来たサンドウィッチの入った箱を取り出し、勧められるがままに椅子に腰を下ろす。

 すると休憩室への扉が開き、そこから望が姿を現した。


「あれ、怜君。こんにちは」


「……望さん、こんにちは」


 色々と勘繰られる前に退散しようか、そう考えた怜だが既に望はテーブルの上に置かれた土産に視線が向いている。


「あれ、それどうしたの?」


 テーブルの上の菓子類に目を向けて不思議そうに問いかけてくる。


「えっと……」


「怜君が旅行に行ったお土産持って来てくれたんですよー」


 何とかごまかそうかと考えるより先に、関根が事実を望へと伝える。

 それを聞いた望の目が怪しく光ったように感じたのは、きっと気のせいではないだろう。


「え、旅行って、どこ行ってたの?」


「えっと……。海の側にあるコテージへ」


「へえーっ、誰と誰と?」


 話に食いつき、目を輝かせながらぐんぐんと問いかけてくる。


「友達と一緒です。それと、保護者として姉も一緒に」


 なるべく当たり障りのない答えを選んだつもりだった。

 だが、望はやけに鋭くニヤニヤとした目を向けてくる。


「へぇ~っ、友達ねえ」


「友達ですよ」


「ふ~ん。じゃあ、あの子も?」


「…………あの子とは?」


 予想通りの望の言葉にとりあえずとぼけてみる。

 だが望は口元を歪めて怜の方へと顔を近づけて来る。


「そんなの決まってるじゃない。隣に住んでるって言ってた、あの可愛い子。桜彩ちゃん」


「あー、まあ……はい。一緒には、いましたけど」


「ふうん。一緒にはねぇ?」


 望の言葉の抑揚がじわじわと攻めてくるように感じる。


「え、何? 怜君、女の子と一緒に旅行に行ったの?」


「あ、もしかしてあの子? たまに怜君と一緒にケーキ食べてるあの可愛い子!?」


「そうそう! ほら、この前動物の絵を描いてくれたあの子よ!」


 盛り上がる三人を横目に、表情に出さないように気を配る。

 ごくりと喉を鳴らし、なんとか笑顔を作った。


「でも、別に常に二人きりってわけじゃないですし。他にも友達とか、姉とかいたので……」


「ほうほう。常にじゃないってことはつまり、逆に考えれば『二人きり』の時間もあったと」


 望が言葉尻を捉え、追い打ちをかけるように突っ込んでくる。

 しまった、と怜は心の中で叫んだ。


「いや、その……たまたま、ちょっと……時間が、できたっていうか……」


 炎天下の外とは違い室内にはちゃんと冷房が効いているのだが、背中に汗を感じてしまう。

 明らかに冷や汗の類だ。


「海の側のコテージかあ。ってことは当然お泊まりってことだよね!」


「いいなあーっ、青春!」


「花火とか、一緒に見ちゃったんじゃないの?」


 完全に図星だった。

 反応がほんの一瞬遅れただけで、三人の女性たちは同時に顔を見合わせて、そして怜に詰め寄って来る。


「ねえ怜君。前は彼女なんかじゃないって言ってたよね?」


「それで今はどうなったの? 進展した?」


「ほらほら、言っちゃいなよ!」


 女三人寄れば姦しい、とはこのことだろうか。


「……ほら、とりあえずお土産食べましょうよ。現地の名産である塩を使ったお菓子ですよ」


 とりあえず話を逸らそうとしてみたのだが、それを聞いた三人は更に盛り上がり黄色い声を上げる。


「うわ、話逸らしたー。わっかりやす~い!」


「ほら~、やっぱり! あの子の怜君を見る目、恋する乙女だったからね!」


「怜君の方もだよ。完全にあの子に恋してたの丸分かりだったし!」


「付き合ったでしょ? ねえ、言っちゃいなよ!」


「い、いえ、そんな――」


 咄嗟に否定しようとしたが、声がわずかに裏返った。

 それが致命的だった。


「声、震えてるよ?」


「目、泳いでるし」


「顔が真っ赤」


 三人の視線が一斉に集中し、怜は完全に観念した。

 背中を少し丸めながら、ぽつりと認める。


「……付き合ってます。花火大会の後に……二人で、告白して」


 部屋の中に、一拍の沈黙が落ちる。すぐに、わっと歓声が上がった。


「きゃー! ついに! やっぱりね!」


「えらーい! ちゃんと告白したんだ!」


「でもさ、隠してたでしょ? 前に聞いたとき、否定してたもんね?」


「……そ、それは……恥ずかしかったんですって……」


 怜の言い訳に三人はからかうように笑いながらも、どこか嬉しそうだった。

 関根が塩せんべいの箱を開ける横で、望が脇腹をちょいっ、と突いてくる。


「でもさ、そうやって頑張ってごまかそうとするなんて、怜君も可愛いとこあるよね」


「え、いや……。俺、可愛いってキャラじゃないんで……」


「いやいやー、もう本当に可愛かったよ」


「う…………」


 その言葉に怜はとっさに顔を押さえる。

 真っ赤になっていることは間違いがないだろう。


「それでそれで? もっと詳しく言っちゃいなよ!」


「告白の言葉は?」


「ねえ、もう手は繋いだの?」


「…………黙秘権を行使します」


 そこまで詳しく言う必要はないだろう。

 しかし三人は首を横に振って


「被告人に黙秘権はありません」


「被告人は真実を告げる義務があります」


「怜君。答えないと重労働させちゃうよ」


 と迫って来る。

 最後の発言はパワハラではないのだろうか。


「……皆さん、そろそろ休憩終わりでしょ。仕事に戻ってください。ってか望さんは休憩ってわけじゃないですよね?」


「大丈夫よー、今お客さん少ないから。ってわけで怜君、素直に吐いて楽になっちゃいなさいって」


「……光さーん。望さんがサボってますよー」


「ちょっ! それは駄目でしょ!」


 慌てた望に、三宅と関根が声を立てて笑う。

 その笑い声の中、怜の心の奥が少しだけ誇らしさで満たされた。

 彼女ができて、こんなふうに笑われても。

 ちょっと、嬉しいと思えた。

 ちなみにその後、望は光に怒られることになるのだが。

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― 新着の感想 ―
 五月蠅い。 と、言いたくなる煩わしさ。まぁ、言えないところが主人公。
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