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隣に越してきたクールさんの世話を焼いたら、実は甘えたがりな彼女との甘々な半同棲生活が始まった【第九章 アフターストーリー(秋)】  作者: バランスやじろべー
第八章前編 恋人になった二人の日常

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第400話 朝食を買いにパン屋まで

「桜彩。今日の朝食なんだけどさ、パン屋に行って買ってこないか?」


「えっ? パン屋さん?」


 着替えを終えて再び怜の部屋へと来た桜彩にそう提案すると、首を傾げてオウム返しに問いかけてくる。


「そう、パン屋。今日はいつもより遅いしたまにはそういうことがあっても良いかなって」


 旅行の疲れも出た為に、二人が起きるのはいつもよりも遅くなってしまった。

 加えて先日まで旅行に行っていたこともあって冷蔵庫の食材も心許ない。


「パン屋さんかあ。確かにちょっと興味あるかも」


「それにさ、今から行けば開店からまだ間もないから多くの種類の焼き立てパンから選べるぞ」


「ほんと? うん、行ってみたい!」


 目を輝かせて賛同の意を示してくれる。

 さすがは食うルさんといったところか。


「どこのパン屋さんに行くの?」


「えっと、いつもジョギングしてる時に通るとこ。最近は行ってないけどさ、去年は何回か休日のランニングの時間を遅らせて、そのついでにパンを買ったこともあるんだ」


 桜彩と朝食を共にするようになってからは、桜彩の料理の練習も考えて休日にパンを買いに行くということはなくなった。

 しかし最近は桜彩も料理に慣れてきているし、たまにはこういったことがあっても良いだろう。


「そっかあ。それなら怜、おすすめのパンとか教えてね」


「ああ、任せてくれ。それにさ、やっぱり食パンとかもスーパーで買うより美味しいしな」


「ふふっ、楽しみ」


 そんなわけで、朝食を買いにパン屋へと向かうことが決定した。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 外に出ると、もう夏も真っ盛りということで、朝早いとはいえそこそこ強い日差しが照り付けてくる。

 そんな中、桜彩へと手を差し出すと、桜彩もその手を握り返してくれる。

 先日までとは違い、お互いに指と指を搦め合う恋人繋ぎ。

 お互いににこりと笑い合い、散歩デートの始まりだ。


「もう何度もこの道を通ってるけどさ、こうして歩いてみるといつもとはちょっと違うよね」


「そうだな。いつもより少し遅い時間ってのもあるけど、ゆっくり歩いてるせいか色々と目に付くよな」


 例えばいつもよりも人通りが多く、犬の散歩をしている人とすれ違ったり。

 虫取り網を持った子供が二人の横を駆け抜けていったり。

 こういった変化を感じながら歩くのもなんだか楽しい。


「でもさ、こうして桜彩と恋人同士になったってのが一番かな」


「怜……。うん。見える景色が変わるってこういうことを言うんだよね」


 見慣れた街並み。

 これまでに何度と見て来た風景。

 それが、こうして恋人と並んで歩くことで、まるで違って見えてくる。

 新しい発見だ。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「あっ、見えてきたね」


「ああ。到着だな」


 二人の視線の先には大きな煙突のある古風な建物。

 開店時刻から三十分程度経過した店の駐車場には、既に何台かの車が停まっていた。


「朝早くから来てる人も多いんだね」


「そうだな。まあ俺達もだけどな」


 クスリと笑いながら入口へと向かう。

 この辺りのパン屋の中では大型の店舗ということもあり、幸いなことに店内はそこまで混雑しているわけでもない。

 これならば人気商品の売り切れということもないだろうし、ゆっくりとパンを物色することができそうだ。

 入口は二重扉になっており、最初の入口を通った後にアルコールで手を消毒し、トングとトレーを持つシステムとなっている。

 アルコールで手を消毒する際に繋いだ手を離す必要があったのだが、やはり少しもの悲しい。

 店内に入るとその光景を見た桜彩が目を輝かせる。


「わあっ、凄い」


 広い店内には様々な種類のパンが並べられている。

 そしてパンから漂ってくる香りが鼻をくすぐってくる。


「いい香りだねえ」


「ああ。やっぱさ、パン屋に入ってすぐにパンの香りが届くとテンション上がるよな」


「うんっ、それ分かる」


 怜の言葉に桜彩が勢い良く頷く。

 怜と同様に桜彩もテンションが上がっているようだ。


「私、こんな大きなパン屋さんに入ったの初めてだよ。地元のパン屋さんはもっと小さかったし種類も少なかったからさ」


「そっか。それなら今日は何を買うか存分に悩んでくれ」


「うん。目移りしちゃいそう」


 そう言って桜彩はきょろきょろと視線を動かして、せわしなく店内を眺める。

 総菜パンやサンドウィッチ、一風変わった物にデザート系。

 それぞれ多くの種類が並んでおりどれも美味しそうだ。


「怜のお勧めは?」


「そうだなあ。やっぱりこのカレーパンがお勧めだぞ。なんたって一番人気だし」


 ちょうど目の前にあったカレーパンをトングで取って自分のトレーへと載せる。

 ポップにも一番人気と書かれており、中に入っているのもただのカレーではなく大きめの牛肉の塊がごろっと入っている。

 まさに食べ応えのある一品だ。

 ここに来たらこのカレーパンを買わないという選択肢は怜の中ではありえない。


「あっ、それ美味しそう。私も食べよっ」


 桜彩も目を輝かせながら、お勧めのカレーパンをトレーへと載せる。


「わわっ! トレー越しにパンの暖かさが伝わってくる」


「なんたって作りたてだからな」


 作りたてと言うこともあり、カレーパンの持つ熱はトレーを越えてそれを持つ手へほんのりとした温かさを届けてくれる。

 それだけでもテンションが上がってくる。


「えっと、他にはどうしようかな……」


「俺はベーコンエピにしようかな」


「あっ、それ美味しそう」


「それじゃあシェアして食べるか」


「うんっ。ありがとね」


 ベーコンエピはその形状から手でちぎり易く分けやすい。

 シェアするにはちょうどいいパンだろう。


「それじゃあ私はキッシュにしようかな。あっ、でもジャガイモと明太子ってのも美味しそう」


「二つ買ったらどうだ?」


「うん。でもさ、あんまりたくさん買っても食べられないでしょ?」


「二人でシェアするんなら大丈夫だろ」


「うん。それじゃあ両方とも買うことにするね」


 そう言って嬉しそうに二種類のパンをトレーへと載せる桜彩。

 食うルさんならこの程度大丈夫だとも思うのだが、もちろん口には出さない。

 そんなことをしながら店内を歩くうちに、二人のトレーには更にパンが追加されていく。

 ハムとチーズのバゲットサンド、カツサンド、バターの香りが強いクロワッサン。


「あ……。気付いたらこんなに載せちゃった……」


「俺も。パン屋に来たらなんか凄く『買いたい』って気持ちが強くなるんだよなあ」


「うん。どれも美味しそうで、みんな食べたくなっちゃうよね」


 とはいえさすがにそうはいかない。

 欲望を抑えて厳選してトレーに載せていく。


「最後はやっぱり甘い系のパンが良いよな」


「うん。あっ、これ見て。猫ちゃんがいる」


 桜彩の指し示す先を見ると、小さな猫の形をした菓子パンが二種類並んでいた。

 丸い顔にちょこんと三角の耳、チョコレートで描かれた目と口が可愛らしく微笑んでいる。

 説明によると、どうやら中にはそれぞれカスタードクリームとチョコクリームが入っているようだ。


「なにこれ……。可愛すぎるよぅ……」


「本当だ。猫だ」


「どうする? 買っちゃう?」


 期待に満ちた目で桜彩が見てくる。

 当然ながら怜の答えも決まっている。


「決まってるだろ。ていうか、買わない理由がないって」


 桜彩の問いに即答する。

 猫好きの二人がこれを飼わないという選択肢はありえない。

 怜が答えると、桜彩は目を輝かせて猫パンの吟味を始める。


「だよね。じゃあ、どの子にしようかなあ……。うん、この子にする。この子、耳がちょっと曲がってて可愛い」


「それじゃあ俺はこの子だな。桜彩の方がカスタードだから、俺はチョコにするよ」


「分かった。それじゃあ取るね」


 桜彩が猫パンを慎重にトングで掴み、トレーにそっと載せる。

 次に怜の分も掴んでトレーに載せてくれた。

 トレーの上の猫パンを見て、二人で思わず微笑み合う。


「名前つけたいくらいだな、これ」


「えっと……。じゃあ、安直だけど『チョコちゃん』と『カスタードちゃん?』?」


「おっけー。いっぱい可愛がってから食べるとするか」


「うん。でも可愛すぎて食べられなくなっちゃうかも」


「じゃあ買うの止めるか?」


「…………買う」


「だと思った」


 ツン、と拗ねたように口を窄ませて答えた桜彩に怜も苦笑しながら頷く。

 他にもバゲットを一本購入して二人分まとめてレジにて会計してもらう。

 会計を終えるとコーヒーサービスとして二人分の紙コップを店員が渡してくれたので、入口の横にあるコーヒーマシンでコーヒーを貰う。


「コーヒーのサービスまであるんだね」


「ああ。外で飲んでいくか」


 店外には小さな休憩スペースがあり、木製のベンチとテーブルがいくつか並んでいる。

 いくつかのテーブルでは、たった今買ったばかりのパンとコーヒーをゆっくりと味わっている者もいる。

 そんな中の一角に二人でそっと並んで座り、手にした温かいコーヒーをゆっくりと味わう。


「このコーヒー、美味しいな」


「うん、パンの香りと合わさってね」


 怜の言葉に桜彩もにこりと微笑む。


「でもこの猫パン達、まだお預けだね」


 パンの入った袋を恨めしそうに眺めながら、桜彩がぽつりと言った。

 怜もパンが入ったトレーをそっと撫でる。


「そうだな。でもその分、家に帰ったらもっと美味しく感じると思うぞ」


「うん。頑張るよ」


「よし。コーヒーも飲み終えたし、そろそろ帰るか」


「そうだね。帰ろっか」


 立ち上がって紙コップをごみ箱へと捨てて桜彩へと手を差し出すと、桜彩も握り返してくれる。


「えへへ。このままずっと、こうしていたいな」


「俺も。パンよりも、桜彩と一緒に過ごすこの朝が一番のごちそうかも」


「ふふっ。私もだよ」


 片手にパンの入った袋、もう片手をしっかりと繋ぎ合ってアパートへの道のりを歩き出す。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 なお、この出来事は全てパン屋の店内、店外で行われたものであり、周囲にはそこそこ多くの人がいた。

 つまりは


「ああ、若いっていいなあ」


「こんな朝早くから、仲良さそうに……微笑ましいわねえ」


「見て、あの男の子と女の子。手を繋いでコーヒー飲んでるの。ほら、なんだか幸せそうね」


 等と当然のごとく注目の的になっていた。

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