第397話 エピローグ② ~自室に戻って~
「桜彩…………」
桜彩と別れた後、怜は玄関のドアを閉めるとぽつりとつぶやく。
唇にまだ桜彩の唇の感触が残っている。
「――――っ!!」
嬉しさや恥ずかしさ、その他いろいろな感情が一気に襲ってくる。
「…………いや、とりあえず片付けだ」
疲労感たっぷりの体に鞭を入れて、廊下に置かれたボストンバッグを肩に掛ける。
リビングへと向かい旅行の片付けを終えると、その場にへたり込みたくなる気持ちを抑えつつ風呂場へと向かう。
ぬるめのお湯を頭からかぶり、この三日間のことを思い出していく。
「本当に夢のような三日間だったよなあ……」
一緒に買物デートして、神社でお揃いの恋守りを買った。
同じ部屋、同じ布団で寝た。
日焼け止めを塗り合って、一緒に海で遊んで、花火を観て。
そして、恋人同士になった。
「桜彩の水着姿も浴衣姿も、とっても綺麗だったよなあ……」
目を奪われるとはまさにあの事だろう。
恋人同士になった後は、キスをして、また一緒の布団で寝て。
翌朝は一緒に目を覚まして。
恋人同士で一緒に過ごして。
「疲れたけど、楽しかったなあ」
多大なる疲労感と、今まで感じたことのない種類の幸福。
「はあ……。桜彩、大好きだ…………」
そう言いながら怜は先ほどの桜彩とのキスを思い出す。
「桜彩…………」
無意識の内に唇へと指を伸ばす。
先ほどしたばかりなのに、またキスの欲求が高まってくる。
「うぅ…………。ヤバい、もうずっと桜彩と離れたくない…………」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「はあ……、疲れたなあ……。でも…………」
旅行の片付けを終えた桜彩は、シャワーで旅の汚れを落とした後、ベッドの上にうつぶせに倒れ込む。
顔の横には怜にプレゼントされた猫のぬいぐるみ、れっくんがある。
「怜…………」
瞼を閉じれば、そこには昨日の夜の光景が浮かんでくる。
「夢じゃないよね……。私、怜と恋人同士になったんだよね…………」
れっくんの頭をそっと撫でながら小さく呟く。
「怜……。ほんとに……あんな顔、反則すぎ……」
告白された時のまっすぐな瞳も、抱きしめ合った体温も、全部思い出せる。
あのとき感じた鼓動が、今も胸の奥で跳ねている。
そしてその後、触れ合った唇の感触も。
「うぅ…………」
横になったまま、れっくんに顔を埋めて、声を押し殺してみる。
恥ずかしさと嬉しさ、その他さまざまな感情が押し寄せてくる。
「怜……。私、怜と、キス、したんだよね…………」
唇にそっと指を当てる。
告白してキスをして。
その後にもう何度もキスを繰り返して。
そしてつい先程、別れ際にもキスをした。
誰もいない部屋だから、少しだけ素直になれる。
でも、もし隣の部屋に声が聞こえてたらとやはり恥ずかしい。
「好き……。怜、大好き…………」
ふと机の上に目を向けると、アクセサリースタンドが目に入る。
そこに飾られているのはお揃いのキーホルダーの付いた鍵、星を模したネックレス、そしてハートの半分が描かれたお守り。
「怜……。会いたいな…………」
つい先ほどまで一緒にいたのに、もう怜を求めてしまう。
その時、お守りの傍に置かれているスマホが桜彩の目に映る。
「そうだ――」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
シャワーを終えて、自室のベッドへと倒れ込む怜。
そのまま口元に指を添える。
一度意識してしまうともう駄目だ。
先ほど交わしたキスの感触が、まだ残っている気がする。
「……やば。もう疲れてるのに目が冴えて、まともに寝られねえ……」
思わず苦笑して、仰向けに体の向きを変える。
天井を見上げて、ゆっくりと目を閉じる。
「これまでに色々とあったけど、やっと距離が近づいたな……。あ、いや、元々近かったか……?」
そう言ってから、ふと笑ってしまう。
こうして考えてみると、恋人同士になる前から随分と距離が近かった。
「い、いや、精神的に、めちゃくちゃ近づいたってことで……」
恥ずかしさから、誰に言うわけでもなく言い訳をしてしまう。
しばらく思い出の余韻に浸ってからゆっくりと立ち上がり、キッチンへと向かう。
冷蔵庫を開けてスポーツドリンクを取り出すと、コップに移して一気に飲み込む。
冷えたドリンクを飲んで体の熱が冷めていく。
しかし心の方はまだ熱を持ったままだ。
仕方なしに歯を磨き直し、寝室へと向かう。
「今ごろ、桜彩も同じようなこと考えてるのかな?」
そっと指先で壁を叩いてみる。
もちろん返事はない。
「桜彩……。会いたい……」
その時、ふとスマホが震えた。
慌ててスマホを手に取ると、そこには予想通り、いや、希望通りの相手からメッセージが送られてきたところだった。
『怜 まだ起きてる?』
『起きてるよ』
そう返事を返すと、数秒後にスマホが震え、桜彩からの着信を知らせてくる。
「もしもし?」
『あ、怜』
声が聞けただけで心が温かくなる。
そして、声だけではなく直に会いたいという欲求も。
『そのね……、今日だけ、そっちで寝ちゃダメかな…………?』
「駄目なわけないって。俺も桜彩と一緒にいたい」
不安そうな声色で問いかけてくる桜彩に即座に返事を返す。
『えへへ、ありがと。それじゃあ今から行くね』
それだけ告げて通話が切れる。
玄関に向かい鍵を開けると、昨夜と同じく夏モードの猫耳パジャマを着た桜彩が立っていた。
「えへへ。来ちゃった」
「うん。おかえり」
「ただいま」
自然に手を伸ばして桜彩の手を取る。
指を絡めると恋人繋ぎの感覚が不安を溶かしていく。
ニコリと笑い合って桜彩と共に寝室へと向かう。
「ごめんね、迷惑掛けちゃって」
「迷惑なんかじゃないって。電話でも言った通り、俺も桜彩と一緒にいたかったからさ」
「でも、さすがに毎日はダメだよね」
「まあな。その辺りはケジメもちゃんとつけないと」
もちろんこれから毎日こうして過ごしたい。
しかし怜も桜彩もまだ高校生。
最低限のケジメというものは必要だ。
「でも、今日くらいはな」
「うん……」
二人でベッドに横になる。
「桜彩……」
「怜……」
二人で見つめ合う。
そして
「ん…………」
「ふぅ、ん…………」
唇同士が触れ合い、少しの間をおいて離れる。
「おやすみ、桜彩。好きだよ」
「おやすみ、怜。愛してる」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
夜は静かに更けていく。
思い出に包まれて眠るその夜。
きっと夢の中でも一緒に過ごしているだろう。
お読みくださりありがとうございました。
以上で第七章は完結となります。
第八章は来週月曜日から投稿予定です。
よろしければ感想等頂けたら嬉しいです。
『付き合うのが遅い』『各イベント一つ一つが長すぎる』とかでも構いません。
また、面白かった、続きが読みたい等と思っていただけたら作品や作者のフォロー、各エピソードの応援、☆での評価、レビュー等頂ける嬉しいです。
第七章についてですが、ついに恋人同士になりました。
本来であれば一年半前に投稿する予定だった告白シーンをこうして無事に投稿できてほっとしております。
第八章ですが、頭の中になんとなくあるくらいで、ほぼノープロットです。
というのも、無事に恋人同士になったのですが、恋人同士になる前から恋人のようなことをしていた為、これまでとやってること違わなくないか? と悩んでいます。
とりあえず怜をキス魔にでもしようかな、と。
ここまで読んで下さった皆様の期待に応えられるように頑張りますので、これからも応援をよろしくお願いいたします。
できれば告白シーンについての感想を頂ければ幸いです。




