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隣に越してきたクールさんの世話を焼いたら、実は甘えたがりな彼女との甘々な半同棲生活が始まった【第九章 アフターストーリー(秋)】  作者: バランスやじろべー
第七章後編 恋人初心者の二人

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第391話 バーベキュー② 周りが見えなくなって

 鉄板から立ち上る煙と香ばしい香りは時を追うごとに混ざり合って鼻をくすぐる。

 網の上のサザエの中に串を刺してくるりと引き抜くと、貝の中に投入した醤油の香りとサザエの香りが良い感じに合わさって鼻へと届く。


「桜彩は苦いの大丈夫か?」


 サザエのワタの苦みは人によって好みが分かれるところだ。


「うん。前に食べたことあるけど大丈夫だよ」


「オッケー。それじゃあはい、あーん」


「あーん」


 そんな感じで(親友やシスターズにからかわれながらも)桜彩と食べさせ合っていく。

 むろん四人もからかうだけではなく、陸翔と蕾華は一味マヨネーズを載せたイカを食べている(食べさせ合っている)。


「はいりっくん。あーん」


「あーん」


「……二人共、よくそれで俺と桜彩をからかうことができるよな」


「……ホントだよね」


 同じことをやっているのに、なぜ自分達だけがからかわれなければならないのだろうか。

 そんなことを思っていると、コテージから美玖と葉月が戻って来る。


「さあ、次は海老も焼いていくわよ!」


 美玖と葉月が持ってきた食材を、金網の上に並べていく。

 ここまで貝類が中心だった金網に新たな食材が加わった。


「わあっ!」


 並べられたのは魚に蟹に海老。

 しかも車エビに伊勢海老まで存在している。


「すっごく美味しそう~っ!」


 金網の上に置かれた、真っ二つに切られた伊勢海老に火が通っていく様を、興奮した様子で眺める桜彩。

 車エビもさっと塩を振って塩焼きとして並べる。 


「ねえ、怜。これってもう焼けてる?」


 手にトングを持ち、大きなカニの爪を持ち上げる桜彩。


「うーん、それはもうちょい。殻の色が完全にオレンジになって、縁から身がぷくっとしてきたら大丈夫だぞ」


「なるほどね……。確か蟹って、焼きすぎると固くなるんでしょ?」


「正解。料理、ちゃんと覚えてきてるな」


「えへへ。だって先生がよかったから」


 そう言って、桜彩はにこっと笑う。

 ジュウ、と音を立ててエビの殻が弾ける。

 桜彩が慌ててトングで跳ねたエビを押さえた。


「わ、わっ、なんか跳ねた……!」


「うん、それ新鮮な証拠。焼きエビはこうじゃなきゃ」


 車エビに驚く桜彩を横目で見ながら火加減を少し落とし、蟹の甲羅の上に味噌をたっぷり乗せていく。

 既に焼き始めた鯛やカマスからじゅわっと脂がにじんで、海の香りがさらに広がった。


「凄い香りだよね」


 桜彩も期待に満ちた目を向けている。


「もうちょい我慢。あと五分で蟹味噌がとろけて、極上のごちそうになる」


「五分ってのが長いんだよ……」


 桜彩がむくれた顔をする。

 そんな表情すら可愛いと思ってしまうのは、恋人補正なのだろうか。


(恋人補正ってか、好きになった相手だからだよな)


 そもそも恋人同士になる前から桜彩はこういった所があったし、怜もそれを可愛いと思っていた。


「れーくん、蟹はどんな感じ?」


「後五分弱」


 キュウリやトマトを運んできた蕾華と陸翔にそう答える。

 とりあえず追加で焼くスペースもなくなったので、ひとまず休憩することにする。

 先ほど焼いたホタテから出たエキスとバター醤油の混じった極上スープをすすりながら、塩を振りかけたトマトを齧る。


「んーっ、美味しいっ!」


「キュウリも美味しいよ!」


 隣では桜彩がキュウリに舌鼓を打っていた。


「ほら、怜も」


「ありがと。桜彩もトマト食べるか?」


「うんっ!」


 お互いにキュウリとトマトを食べさせ合う。

 そんな二人を見て、残る四人は苦笑を浮かべていた。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「そろそろ蟹も焼けてきたぞ」


 コンロの様子を確認すると、予想通り蟹が良い感じに焼けてきていた。


「わあ、楽しみ!」


「だよね。あれ全部食ったら一生分の贅沢だよね」


「蕾華さんもそう思う?」


「もちろん」


 桜彩と蕾華が目をキラキラとさせながら覗き込んでくる。


「でもいいよね、こういうの。手を動かして、笑って、好きな人と並んで料理するってさ」


「ああ。こういうのが幸せってことなんだろうなあ」


 その言葉に桜彩と目が合う。

 なんだか妙に照れくさくて、怜はすぐに鉄板に視線を戻した。


「よし、そろそろ食べるか」


 甲羅の中でぐつぐつ煮えていた蟹味噌が、ふつふつと気泡を立てていた。

 桜彩に目配せして小さなスプーンで一掬い。


「ふーっ。はい、あーん」


「あ……。あーん」


 スプーンを差し出すと桜彩の目がぱっと輝いた。

 一口口に含んでその表情が崩れていく。


「……美味しっ! なにこれ……とろける……」


「蟹味噌は、炭火でやると風味が段違いなんだよなあ。パンに乗せても美味しいし」


「……このまま食べたらもったいないくらいだね」


「アヒージョ用のバゲットがあったよな。特製のバターガーリックトースト作るか。のっけて食べよ」


「待って、それ……絶対やばいやつだ……!」


 桜彩が頬を手で包み込むようにして悶絶する。

 そのリアクションが嬉しくて、思わずくすっと笑ってしまう。

 そんな幸せを感じながら後ろでアヒージョを作っていたシスターズの元へと、いくらかのバゲットを分けてもらいに向かった。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 皆で囲んだテーブルには、続々と焼き上がる海鮮が並べられていく。

 鯛の塩焼き、殻付きエビのバター醤油焼き、炭焼きカマスに、丸ごとの蟹。

 そこに、厚切りの玉ねぎやズッキーニ、とうもろこしが加わって、彩りも完璧。


「それじゃあ伊勢海老いくか」


 そう言って怜は半分に割られた伊勢海老の身を箸でほくす。

 そして海老味噌を搦めて桜彩へと差し出す。


「はい、桜彩。あーん」


「あーん……。美味しっ! なにこれ!」


 一口食べた桜彩が目を輝かせる。


「焼き立ての伊勢海老ってこんなに美味しいんだ!」


「まだまだいけるぞ。マヨネーズとか、醤油とか。レモン絞っても美味しいし」


「そうなの!? それも食べたい!」


「任せろって。……はい、あーん」


 桜彩のリクエストに応えるように怜は味変した伊勢海老を差し出すと、桜彩は美味しそうに食べていく。


「美味しーいっ! はい、今度は怜だね、あーん」


「あーん。……美味い。ってか、ちょっと……指に付いちゃったな」


「ん……。そうだね」


 桜彩の指を見ると、海老味噌が少し付着していた。

 桜彩がその指をそっと差し出してくる。


「怜……」


「ん……。ペロッ」


 以前と同じように、桜彩の指に付着したそれを舐めとる。


「……なんか、恥ずかしいね、こういうの」


「俺は嬉しいけどな。こうして触れられるし」


「えへへ、私も」


 くすりと笑い合い、怜が舐めた指に二人の視線が集中する。

 そのまま少し身を寄せ合うと、顔がぐっと近づく。


「怜……」


「桜彩……」


 キスは、指にではなく唇に。

 二人の唇が徐々に近づいていくところで

 じー

 ふと四人の視線が自分達の方へと向いていることに気が付いた。

 慌てて桜彩から距離を取る。


「え? 怜……? …………あ」


 怜の行動に桜彩もやっとこの状況に気が付く。

 そして四人に眺められていたということを理解する。


「ちょっとちょっとー! そこはそのままでしょ!?」


「あとちょっとだったのになあ」


「ほら怜! 何やってんの! 桜彩ちゃん待ってたでしょうが」


「桜彩、あなたもよ! こういう時は自分から一気にしちゃいなさい」


 四人の応援だかからかいだか分からない言葉にもうどう反応して良いか分からない。


「うぅ…………」


「ううう…………」


 自分達の世界に入ってしまったのを完全に見られていた。

 穴があったら入りたいとはこのことだろう。

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