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隣に越してきたクールさんの世話を焼いたら、実は甘えたがりな彼女との甘々な半同棲生活が始まった【第九章 アフターストーリー(秋)】  作者: バランスやじろべー
第七章後編 恋人初心者の二人

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第389話 恋人繋ぎ

 日の光が砂浜を照らし、潮の香りが鼻をくすぐる。

 本日二度目の尋問をされた後は、予定通りコテージの裏にある海へと繰り出すこととなった。

 空は澄み渡り、青いキャンバスに白い雲が描かれている。

 昨日に続いて絶好の海水浴日和。

 だが、先ほどキスシーンを見られてしまったのがまだ恥ずかしい怜と桜彩は顔を真っ赤にしたままだ。

 そんな二人を親友二人はニヤニヤとしながらからかってくる。


「ちょっとー、いつまで恥ずかしがってるの?」


「蕾華の言う通りだぞ。ほらほら、気持ち切り替えろって」


「元凶が何をほざくか」


 親友へとジト目を向ける。

 そもそも今こうなっているのは、この二人にも原因があるだろうに。


「もう! ほら、早くっ! 海に入れば気分も変わるって!」


「ああ。ってわけでオレ達は先に行こうぜ、蕾華」


「うんっ! レッツゴーッ!」


 そう言って親友二人は先に砂浜へと向かって駆け出していく。

 恨めしそうにその背中を見送って、怜は隣の桜彩の方へと向く。


「そ、それじゃあ桜彩、行こうか……」


「う、うん……」


 おずおずと右手を差し出すと、桜彩がそっと握り返してくる。

 いつも通りに手を繋いで歩きだそうとしたところで、怜の頭にふと、とある考えが思い浮かぶ。


「なあ、桜彩。ちょっと待って」


「え? どうしたの?」


「その、さ。ちょっと手を開いてくれないか?」


「え? こ、こう……?」


 顔に疑問符を浮かべながら、桜彩は一度握った手を離して大きく広げる。

 その上に怜は自分の手を重ね、そして、大きく開いた桜彩の指と指の間に自分の指を搦めた。

 お互いに指と指を絡ませ合う、いわゆる恋人繋ぎ。

 桜彩が驚いた顔で見上げてくる。


「あ、あの、怜、こ、これって……」


「……うん。桜彩、良かったらこれ、してみないか……?」


 緊張しながら、小さく答える。

 視線は照れ隠しに足元を向く。

 桜彩は一瞬驚いたように目を見開いたものの、すぐに顔を赤くして微笑み返した。


「えっと……うん、いいよ。怜がそうしたいなら……。あ、ううん。私もこうやって繋ぎたい……」


 桜彩がそう言うと、ほんの少しだけ重ねた手に力が加えられる。

 二人はもう恋人同士になっている。

 だが、何度も手を繋いできたにもかかわらず、『恋人繋ぎ』は初めての体験で、指と指がそっと絡み合うだけで心臓がバクバクしてしまう。

 隣にいる桜彩の緊張した表情からも、おそらくは同じ気持ちだろう。

 だが、決して嫌ではない。

 初めての恋人繋ぎが成立した瞬間、世界がふわりと柔らかく包み込むような温かさに満たされたように感じてしまう。


「ああ……なんか、すごくドキドキするね」


「ああ、俺も。こんなにも恥ずかしいのに、でも、こんなにも幸せだ」


 小声で頬を赤らめながら呟く桜彩に、怜も温かな気持ちで答える。

 二人だけの世界に浸るように、波の音がBGMになる。

 だが、そんな甘い時間はそう長くは続かなかった。


「ちょっちょっとーっ! 今度は何? 恋人繋ぎ?」


「へえー。甘酸っぱいわね」


 背後から聞こえてきたシスターズの声。

 慌てて振り向けば、シスターズがニヤニヤとこちらを、桜彩と繋いだ手を眺めていた。


「あ、こ……こ……これは…………」


 自分達の世界に入り込んでしまったことに気が付いた桜彩が、慌てて手を離そうとする。


「え……?」


 だが、その手が離れることはない。

 怜はぎゅっと桜彩の手を握り続けたままだ。


「桜彩。今はさ、初めての恋人繋ぎなんだから」


「あ……うん……」


 この初めての恋人繋ぎをこういった形で離したくはない。

 たとえからかわれようが、この幸せをずっと感じていたい。

 その思いが伝わったのか、桜彩も握った手に力を込めてくれる。


「うんうん! やっぱり恋人だったらそうやって繋がなきゃね!」


「分かるわあ。普通に手を繋ぐのよりも、ずっと特別感あるんだよな」


 いつの間にかこちらへと戻って来た蕾華と陸翔が嬉しそうにうんうんと頷く。


「うう……。蕾華さんと陸翔さん、海の方へ行ったんじゃなかったの……?」


 桜彩が小さな声で呻くように呟く。


「だってさー、後ろからイチャイチャオーラが全開で出てるんだもん! そんなのもう戻るしかないでしょ!」


「いいもの見せてもらったよな!」


 と笑いながら言う親友二人。


「う、うるせえっ……!」


 怜は顔を真っ赤にしてそう言い返すが、親友二人は笑ったまま。


「え、でも前からふつーに手は繋いでたじゃん? 今さら恋人繋ぎで照れるとか、なんか……いいな~」


 蕾華は茶化すような調子ながらも、どこか楽しげで微笑ましいものを見る目を向けてくる。


「そ、それは、そうだよ……。だ、だって、今の私達は、恋人同士、なんだもん……」


 桜彩がぽつりと呟いたその声は小さく、でもはっきりと恋人の距離感だった。


「も、もう海行こうぜ! 早く!」


 恥ずかしさを隠すように、怜は桜彩の手を引いて速足で海の方へと向かう。


「そうだな。海行くか。ほら、蕾華。オレ達も恋人繋ぎしようぜ」


「うん! れーくんとサーヤみたいにぎゅっと握っちゃおっ!」


「もちろん! あーんな幸せそうなの見せられたらオレ達もやるしかないよな!」


「当然! あーあ! もう朝から何度見せつけられるんだろーねーっ!」


 そんなからかいに耐えながらも、怜と桜彩の心はただただ幸せで満ちていく。

 砂浜の波打ち際で、怜は桜彩の手をぎゅっと握り直し、二人は互いににっこりと笑う。


「それじゃあまずはどうする?」


「水掛けやろうぜ! 昨日の勝負の続きはどうだ?」


 陸翔の提案に桜彩と顔を見合わせてコクリと頷く。


「良いぜ。今日こそ決着付けてやる!」


「うん! 頑張ろうね、怜!」


 桜彩と共に闘争心をむき出しにして相手にぶつける。


「お、なんだ? オレと蕾華に勝てるとでも思ってんのか?」


「当然だ。昨日は仮カップルとか色々と言ってくれたよなあ! ほ、本物のか、カップルになった俺と桜彩の力を、み、見せてやるっ……!」


「そ、そうだよ! わ、私と怜のあ……愛の力を教えてあげるんだからっ……!」


 付き合ってはいなかった昨日までとは違う、と言ってやりたかったのだが、恥ずかしさからか二人共言葉の途中でつかえてしまう。


「顔真っ赤だぞー」


「あれあれー? そんなんで恥ずかしがっちゃう二人がアタシとりっくんに勝てると思ってるのー?」


「そんなんじゃまだまだだよなー。本物のカップルってのだどういうものか、徹底的に見せてやるぜ」


「うんうん。アタシとりっくんの愛の力を教えてあげるよ」


 ニヤニヤとこちらを見ながら挑発的な笑みを浮かべる親友二人。


「言ってろ!」


「むーっ! 負けないんだからっ!」


 そのまま四人揃って海へと駆け出していく。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 ひとしきり水を掛け合って遊んだ後は、四人とも全身びしょ濡れになり髪や体から水が滴る。


「ふう……。こ、今回も引き分けってことで……」


 息も絶え絶えに蕾華がそういうと、全員も首を縦に振る。


「でも楽しかったな」


 そう微笑む桜彩に、怜はそっと思わず手を差し出した。

 桜彩もそれに気づいて、ほのかに頬を染めながらも指を絡めてくれる。

 恋人繋ぎだ。


「……怜と、こうして手を繋ぐの、嬉しいな」


「俺も……。桜彩の手、温かい」


 二人が静かに見つめ合っていると、陸翔の声がすかさず響く。


「うわ出たよ! 二人だけの世界モード!」


「ちょっと待って、今そのモード中!? じゃあ、またからかっていいってことよね?」


「いーぞいーぞー、いちゃつけいちゃつけー!」


 陸翔と蕾華がふざけたように囃し立てる。

 怜と桜彩は顔を見合わせて、同時に吹き出した。


「……もう、ほんとに騒がしいんだから」


「だけど、それが楽しいな」


「ふふっ、そうだね」


 その言葉には、どこか嬉しさと温かさが滲んでいた。

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