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【第九章完結】隣に越してきたクールさんの世話を焼いたら、実は甘えたがりな彼女との甘々な半同棲生活が始まった  作者: バランスやじろべー
第七章中編② 恋の行方は――

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第382話 恋人同士

 夜の海風が涼しく、けれど冷たすぎず心地良い。

 波の音が絶え間なく続いている。

 満天の星空、そこに浮かぶ怜座と桜彩座の下で、二人並んで抱きしめ合う。

 砂浜の上で、ぴたりとくっついて。


「……ほんとに、言っちゃったね」


 桜彩が小さく呟いた。


「ああ。でも、ずっと言いたかったからさ」


 怜も目に涙を溜めたまま、同じく涙の溜まったままの桜彩の目を見て答える。


「私も……。ずっと言えなかった……。怖くて……」


「もう、怖くないだろ?」


「うん……」


 手で涙を拭いながら桜彩がにこりと頷く。


「でも、もう我慢しないで良いんだよね……?」


「ああ。俺ももう我慢なんてしない。何度だって言うよ。桜彩、好きだ」


「うん。私も好き。怜のことが好き」


 再び、いや、三度抱き合ってキスを交わす。


(桜彩……。俺、桜彩と恋人同士になれたんだよな……)


 かつて友人に裏切られ、そして新たにできた友人に嫌われることを覚悟でこちらのトラウマと向き合ってくれた桜彩。

 大切な、最愛の人のぬくもりを胸の中に感じる。

 これは決して夢なんかじゃない。

 胸の中の存在がそう思わせてくれる。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



(怜……。私、怜の彼女になったんだよね……?)


 困っていた自分をいつも助けてくれた、再び人を信じることができるのだと教えてくれた、そして大切にしていた絵を描くことを取り戻してくれた怜。

 大切な、最愛の人のぬくもりを胸の中に感じる。

 これは決して夢なんかじゃない。

 胸の中の存在がそう思わせてくれる。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「そろそろ帰ろうか」


「……うん」


 いつまでもこうしていたいのだが、さすがにそういうわけにもいかない。

 怜の言葉を聞いた桜彩の目は、どこか名残惜しそうで、けれど、ちゃんと温かな色をしていた。

 名残惜しさを感じながらも腕を解き、そして右手を差し出す。

 桜彩は静かに頷いて、まだ躊躇いがちに怜の手を握った。

 今だに信じられないような気持ちでいっぱいだが、桜彩が隣にいてこうして手を繋いでくれている。

 それだけで、心が満ちていく。

 星のまたたく空の下、二人の影が並んでコテージへ向けて歩き出す。

 草履と下駄の跡が砂浜へと刻まれていく

 もっと二人でいたい、その思いから無意識の内に歩みが遅くなる。

 無理に言葉を探さなくても沈黙は苦にならない。

 むしろ静かな夜の音の中に自分達の鼓動が溶け込んでいくようで、それが心地良い。


「……あのね、さっきのことなんだけど……」


 少し歩いたところで、桜彩がぽつりと呟く。

 怜も歩みを止めて桜彩の方を向く。


「うん」


「その……、さっきはいっぱいいっぱいで、うまく言えなかったかもしれないけど、ちゃんと……ちゃんと、好きだなって、ずっと思ってたから……」


「うん、ちゃんと伝わってるよ。俺も、桜彩のことが好き。この気持ちを、想いをずっと持ってた」


 言葉の後に沈黙が訪れる。

 耳に届くのは潮の音のみ。

 しかし二人の間の空気は気まずさではなく甘さで満ちていた。


「あははっ」


「ふふっ」


 歩きながらも、言葉を交わすたびにどこかくすぐったくて。

 でも、それが嬉しくてたまらない。

 もっと話したい、もっと名前を呼びたい。

 だけど恥ずかしくて声が出せない。

 そんなもどかしさを抱えながら、二人でゆっくりと並んで進んでいく。

 コテージまでの短い距離。

 ついにそれを歩ききってコテージへと到着する。

 丁度こちら側、コテージの裏手のバーベキュースペースにスイカ割りの為の木刀やビニールシートが置かれているのが目に入る。


「そういえば、あの木刀も懐かしいな」


「うん。葉月がいきなり来た時のだよね」


 不審者が来たと桜彩から連絡を受けた時、護身用の木刀を持って桜彩の元へと急いだことを思い出す。

 結果としてその正体は姉である葉月だったのだが。


「あれがあったから、俺達は一緒にご飯を作って食べるようになったんだよな」


「うん。それだけじゃなく、一緒に放課後を過ごすようになったんだよね」


 その出来事がきっかけで、桜彩の食生活について知ることになって。

 そのまま放っておけなくて、桜彩も料理を頑張りたいと言ったから料理を教えることになって。


「何だか懐かしいよね」


「まだ四か月前なんだけどな。いや、もう、か?」


「ふふっ、どっちだろうね」


 まだと言えばまだ、もうと言えばもう、桜彩と出会ってから短くもあり長くもあったこの四か月間。

 今思えば四月のあの時は加速度的に二人の距離が近づいていったようにも思える。


「明日、みんなでスイカ割りやるんだよね?」


「そりゃあやるだろ。……あ、でも俺、スイカ割り下手だからな」


「そうなの? 運動神経良い怜にしてはなんか意外だな」


「前にやった時に思い切り棒を振り下ろして地面に当たって、反動で手を痛めたことがあってな」


「ふふっ。そんなことがあったんだ。なんだか想像つかないな」


 頭の中でその光景を想像しようとして失敗したのか、桜彩がくすりと笑う。

 それがやはりとても可愛らしくて、つい怜の顔にも笑みが浮かぶ。


「怜? どうしたの?」


「……目隠しされて、変な方向に歩いていく桜彩を想像しちゃった」


 なんだか照れくさくて咄嗟に嘘をついてしまう。


「あーっ、酷いんだあ」


「ははっ。悪い悪い……ぷっ!」


「それ、想像して笑ってる?」


「ははっ。ちょっとだけな」


「むーっ」


 ぷくり、と頬を膨らませて桜彩が怒る、というか怒ったふりをする。

 普段からかわれた時とは口調も違って、それがまた別の可愛さを生み出している。

 胸がまた静かに鳴る。


「……ねえ、怜」


「どうした?」


「……明日も、ずっと一緒にいられるよね?」


「もちろん。ずっと一緒にいたいって、思ってるよ」


「そっか……良かった」


 安心する桜彩に微笑みながらコテージの玄関を開けて中に入る。


「桜彩、おかえり」


 玄関前で、そう優しく告げる。


「……ただいま」


 桜彩が小さく笑って答えてくれる。

『おかえり』と『ただいま』。

 二人が大切にしているいつもの挨拶。

『朝起きたらおはようって言って、一緒にご飯を食べて、一緒にリビングで過ごして、一日の終わりにお休みって言って。桜彩とそんな家族みたいな毎日を続けたい』

 その思いから始まった、大切な挨拶。

『言葉では定義出来ない自分達だけの特別な関係』から『恋人』へ。

 そしてその先は、『家族のような関係』から本当の『家族』へ。

 もちろんその日が来るのはまだまだ先の事になるだろうけれど。

 だが、いつかは必ずその日が訪れることになるだろう。

 それだけは確信できている。

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