表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【第十章前編 クリスマス】隣に越してきたクールさんの世話を焼いたら、実は甘えたがりな彼女との甘々な半同棲生活が始まった  作者: バランスやじろべー
第七章中編② 恋の行方は――

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

396/489

第380話 花火鑑賞、そして花火の後

 ドン――! 


 乾いた音が夜の大気に響き渡る。

 視線の先の空に真紅の大輪がぱっと花開く。

 夜空を照らすその光に、山の中腹にあるこの場所まで一瞬だけ昼間のように明るくなった。


「始まった……!」


「わぁ……!」


 空に咲く花の数々に四人揃って見とれてしまう。

 草の香りが風に乗って鼻先をくすぐり、レジャーシートの下からは柔らかな地面の感触。

 頭上には、まるで額縁のように切り取られた満点の星空。

 そしてそこに次々と咲き誇る色とりどりの火花。


「すごい……すごい…………!」


 視界いっぱいに広がる夜空のど真ん中に、花火の光が次々と開く。

 その一つ一つが鼓動のように心に響く。

 間を空けずに放たれる花火の光が、隣に座る桜彩の顔を色とりどりに照らしていく。


(桜彩は――)


 隣にいる桜彩は、どんなことを思いながらこの花火を観ているのか。

 ふとそう思って横を向くと、同時に桜彩もこちらの方へと顔を向ける。


「「あ…………」」


 目と目が合って固まってしまう。

 何も言わずに見つめ合う二人の横顔を花火の光が彩っていく。

 そして二人揃ってクスリと笑う。

 こんな夜を一緒に過ごせていることが、ただただ嬉しい。


「怜はさ、花火って好き?」


「ああ。こうやって大掛かりな物を観るのは初めてだけど、好きだよ。桜彩は?」


「私も怜と一緒。花火大会って初めてだけど、好きだよ」


「それにさ、今日の花火は絶対に忘れられないものになる。そう思ってるよ」


「うん。私もそう思うよ」


 こうして特別な相手と一緒に観る花火。

 生涯忘れることはないだろう。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「わっ……今の、ハート型だったよ!」


「すげえな! そういうのもあるんだ!」


 蕾華と陸翔も花火に夢中になって夜空を見上げている。


「えへへーっ! アタシとりっくんにピッタリだね!」


「ああ! でもオレ達のハートはもっとでっかいけどな!」


「それってどのくらい?」


「この夜空よりも大きいくらい」


 隣でいちゃつくバカップルの声が耳に届く。


(――俺達も、ああなれるのかな)


 恋人同士でもある親友の姿を見てふと思う。

 この二人とは違い、今の怜は桜彩と恋人同士になってはいない。


『言葉で定義できない、自分達だけの特別な関係』


 ほんの少しの勇気を出せば、その関係が変わるのだろうか。

 桜彩へとこの想いを伝えれば――

 そうすれば、桜彩と過ごす今の楽しい日常が変わってしまうかもしれない。

 正直言えば、それが怖くてたまらない。

 でも――この気持ちは絶対に伝える。

 怖がってばかりでは前に進むことはできない。

 結果、この関係が終わってしまうとしても、それでも桜彩と新たな関係――恋人同士になる為にはこの想いを伝えない事には始まらない。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



(――私達も、ああなれるのかな)


 恋人同士で親友の姿を見てふと思う。

 この二人とは違い、今の怜とは恋人同士ではない。


『言葉で定義できない、自分達だけの特別な関係』


 ほんの少しの勇気を出せば、その関係が変わるのだろうか。

 怜へとこの想いを伝えれば――

 そうすれば、怜と過ごす今の楽しい日常が変わってしまうかもしれない。

 正直言えば、それが怖くてたまらない。

 でも――この気持ちは絶対に伝える。

 怖がってばかりでは前に進むことはできない。

 結果、この関係が終わってしまうとしても、それでも怜と新たな関係――恋人同士になる為にはこの想いを伝えない事には始まらない。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 花火はどんどん進んでいく。

 やがて、フィナーレの合図のように、大きな音が響いた。

 連続で打ち上がる光の束。

 夜空が金色に染まり、全てが眩しく照らし出され、そして消えて行く。


「終わっちゃったね……」


「ああ。終わっちゃったな……」


 花火が消えて星が煌めく空を眺めながら小さく呟く。

 先ほどまでの轟音が消えた今、耳に届くのは草木のこすれた音や虫の音のみ。

 隣を見ると陸翔と蕾華もまだ花火の消えた空を眺めたまま。

 そのまま何を言うでもなくしばらくの間、四人共無言で空を眺める。

 今さっきまでそこに咲いていた花の幻影を、まだ目に焼きつけてるように。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「……行こうか。片付けよう」


 いつまでもこうしているわけにはいかないのでそう言って立ち上がる。

 敷いていたレジャーシートを畳み、ごみをまとめる。


「楽しかったね」


 桜彩がぽつりと漏らす。

 その言葉が、今夜の花火と同じくらい綺麗に響いた。


「うん。……来てよかったな」


「怜とこうして花火観るの、なんだか不思議だった」


「え、なんで?」


「なんとなく、夢みたいっていうか……。ふふ、うまく言えないけど」


 そう言って笑う桜彩の横顔が、ほのかな月と星の光に照らされて、やけに近く感じた。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 けれど、それ以上は何も言わず歩き出す。

 神社へと出る帰り道は来た時よりも涼しくなっていた。

 草むらからは虫の音、夜風が頬をかすめていく。

 まだテンションの高い陸翔や蕾華と共に、先ほどの花火の感想を話しながら神社へと到着する。

 そのまま階段を降りて道へと出る。

 コテージのへと向かう道の逆、花火大会の会場からは、まだ人の声が溢れている。

 花火大会の会場が夏祭りのようになっている為に、まだまだ楽しんでいる人もいるのだろう。

 帰宅の途に就く者も多くいるはずだがほとんどの来場客の動線はコテージや別荘の並ぶエリアとは逆方向となっている為に、怜達の方へと足を向けている者はほとんどいない。


「ねえねえりっくん。アタシ達ももう少し遊んでいかない?」


「おっ、いいな! 輪投げとかあるかな?」


 会場の方を指差す蕾華に陸翔も面白そうに同意する。


「ってなわけでオレ達はもう少し遊んでから帰るわ」


「うん! それじゃあ一旦お別れだね!」


 怜と桜彩のことを誘わずに会場の方へと足を向ける親友二人。

 だがその理由は怜と桜彩が人混みが苦手だから、というわけではないだろう。

 別れ際、最後にこちらの方を向いてウインクを向けてきたことからもそれは一目瞭然だ。

 つまり、この後祭りを楽しんでくるというのはあくまでも口実。

 その目的は――


「それじゃあ桜彩。一緒に帰るか」


「うん」


 怜の右腕に桜彩が左腕を搦めてくる。

 腕を組んでコテージへの道を歩き出す。

 帰り道で話す話題は先ほどの花火。

 決してテンションが高いわけではないが、二人揃って笑みを浮かべて感想を話し合う。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



(……あっ、もうコテージか。でも、もう少し桜彩と……)


 しばらく歩くと怜の目にコテージが映る。

 隣を歩く桜彩との花火デートも終わりが近い。


「到着、だね」


「ああ。到着、だな」


 これにて花火大会デートは終わり――にはしたくない。

 もっと桜彩と一緒にいたい。

 いや、それだけではない。

 この胸に抱えた思いを桜彩に――


「あのさ――」



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



(……もうすぐコテージだよね。でも、まだ怜と……)


 しばらく歩くと桜彩の目にコテージが映る。

 隣を歩く怜との花火デートも終わりが近い。


「到着、だね」


「ああ。到着、だな」


 これにて花火大会デートは終わり――にはしたくない。

 もっと怜と一緒にいたい。

 いや、それだけではない。

 この胸に抱えた思いを怜に――


「あのさ――」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ