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【第十章前編 クリスマス】隣に越してきたクールさんの世話を焼いたら、実は甘えたがりな彼女との甘々な半同棲生活が始まった  作者: バランスやじろべー
第七章中編② 恋の行方は――

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第379話 花火大会の直前

 夜のとばりが降りる頃、怜達四人は神社の裏手にある小道を歩いていく。

 昨日、神社の人に教えて貰った花火を見る為のとっておきの穴場を目指して。

 木々が生い茂っており、光源は足下を照らす懐中電灯モードにしたスマホの光だけ。


「本当にこんなとこに?」


 狭い道を先導する怜と桜彩の後を陸翔と蕾華が付いてくる。


「ああ。こっちの方だ」


「うん。道はあってるよ」


 桜彩も明るく笑う。

 道は少し傾斜しており、昇るたびに涼しい風が吹き抜けて気持ち良い。


「時間は大丈夫?」


「ああ。開始予定時刻まではまだ少しあるぞ」


 時間に余裕を持ってコテージを出発したのだが、目的地の神社を通り越して一度花火大会の会場の近くまで足を向けた。

 そこでかき氷と飲み物を購入した為に、予定していた到着時刻よりは少し遅れが発生している。

 とはいえ開始時刻までには間違いなく到着する予定だ。


「もうちょっと急ぐ?」


「いや、桜彩と蕾華は下駄だろ? 転んだら悪いからあんまり急がなくても良いって」


 怜と陸翔は草履をはいているのだが、桜彩と蕾華は下駄となっている。

 ただでさえしっかりと舗装された道ではないのだから、転ぶリスクを冒す必要はない。


「うん。ありがとね、心配してくれて」


「ああ。とはいえ足下が暗いのは確かだからな。今だってちゃんと気を付けてくれよ」


「うん。あ、転びそうになったら怜に掴まっても良い、かな?」


 いたずらっぽい笑みを浮かべて桜彩が見上げてくる。


「もちろん」


「ふふっ。ありがとね。あ、でも、それなら……」


 そう言って桜彩は繋いでいた手を離し、そして怜の手に自分の手を搦めてくる。


「こうやって、しっかりと持って、おくね……」


「あ、ああ……」


 暗闇の中でも桜彩の顔が赤くなっているのはうっすらと分かる。

 もちろん怜の顔も赤くなってしまっているだろう。


「あっ、りっくーん! 足滑っちゃったーっ!」


「大丈夫かー?」


「えへへーっ! ぎゅーっ!」


 後ろでわざとらしい演技をして抱き合っている親友二人についてはあえて突っ込まずにおくことにする。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 しばらく進んで行くと、前方の木々の切れ目から夜空が見えてくる。

 展望台のような小さな広場は、思った通り他には誰もいない。

 四人の貸し切り状態だ。

 前方下へと目を向けると、花火大会の会場が広がっているのが良く分かる。

 こうして見ているだけで活気が伝わってきそうだ。


「すご……!」


「わあ……!」


 陸翔と蕾華もその光景に目を見開く。


「ここ、本当に凄いよな」


「教えて貰って良かったよね。まさに情けは人の為ならずってことかな?」


「そうだよね。怜が優しかったからこんなに良い所を教えて貰えたわけだし」


「それを言うなら桜彩もだろ?」


 四人でクスリと笑い合う。


「それじゃあ準備しちゃおっか」


「だな。それじゃあシート引いてくぞ」


 小さな広場へとレジャーシートを引いて、その上に持ってきた荷物と共に四人で腰を下ろす。


「ふぅ……。ちょっと暑いね」


 そう言いながら、桜彩が手で顔をパタパタと仰ぐ。

 避暑地の夜とはいえ夏。

 加えて神社の階段を昇ったり山道を歩いたりということで、少しばかり汗をかいてしまった。


「桜彩」


「え? ……あ」


 懐から扇子を取り出すとそれを仰ぎ、振り向いた桜彩へゆっくりと風を送る。


「どうだ? 暑くない?」


「うん。とっても気持ち良い。ありがと」


 気持ち良さそうに怜に微笑む桜彩。

 浴衣姿の桜彩は本当に綺麗で可愛くて。

 扇子を一仰ぎするたびに、桜彩の綺麗な髪がふわりと舞ってうなじが姿を現して。

 その珠のような肌の上には、うっすらと汗が滲んでいて。

 それら全てが大好きな人のただでさえ素晴らしい魅力を底上げして。


(やっぱ、反則だよな)


 小さく息を吐く。


「どうしたの?」


「いや、なんでも。どうだ、涼しくなったか?」


「うん。ありがと」


 柔らかな笑みを向けて微笑む桜彩に、怜の心も揺すぶられる。


 ピトリ


「うひゃぁっ!」


「ひゃあっ!」


 いきなり頬へと冷たい感触が当てられた。

 隣の桜彩も怜と同じように驚く。


「ほらほら。せっかくラムネ買ってきたんだから飲もうぜ」


「うん! ほらこれ、サーヤの分」


 親友二人が怜と桜彩の顔に、先ほど購入したラムネの瓶を当てていた。


「もっと普通に渡せっての」


「そ、そうだよ。あー、驚いたあ」


 少し不満そうな表情で、それでいてこういったイタズラも心地好く感じながら差し出された瓶を受け取る。


「サーヤ、開け方分かる?」


「う、うん。こう、だよね?」


 恐る恐る桜彩が瓶の上部を押し込むと、ビー玉が落ちて泡が上がる。

 それを待って四人で瓶を掲げてコツリと合わせる。


「「「「乾杯」」」」


 一口飲むと炭酸のシュワシュワとした感触が喉へと到達する。

 これも夏の醍醐味というやつだろう。


「ふふっ」


 瓶から口を離した桜彩がくすりと笑った。


「ん? どうしたんだ?」


「あ、ううん。ちょっとね」


 そう言って桜彩は再びラムネを一口飲むと言葉を続ける。


「こうやって花火を観るなんて思ってもみなかったなって」


「まあな。昨日の偶然がなかったら、そもそも花火を観に行かなかったかもしれないし」


 怜も桜彩も人混みが苦手である為に、花火会場へ訪れることはなかったかもしれない。

 視線を前方下へと向けると、花火会場が人でごった返しているのが良く見える。

 いや、まあこの親友二人とシスターズにより連れ出された可能性も高いのだが。

 しかしそんな怜の言葉に桜彩はゆっくりと首を横に振る。


「ううん。それもそうなんだけど、それだけじゃなくてさ。こうして怜と一緒に花火を見るなんて、出会った当初はまるで思いもしなかったよ」


「確かになあ」


 初めて出会ったのは桜彩の引っ越し。

 スケッチブックから離れた絵を怜が取って。

 あの時はこのような関係になることはおろか、同じクラスメイトになることすら予想することはできなかった。

 クラスメイトになって、そして友人になって、トラウマを解決して友人以上の関係になって、そして恋心を抱いて。

 小さな偶然の積み重ねが、今のこの状況を作りあげた。

 陸翔と蕾華、親友二人もゆっくりと頷いている。


「あっ!」


 突然、目に入る光量が大幅に減る。

 下を見ると、花火大会の会場もその大半の照明が消されたようだ。

 ――間もなく、花火が上がる。

 そう思うと、自然と手に力が入った。

 ピト、と右手に何かが触れた感触。

 いや、何かではない。

 触れた物の正体は見なくても分かる。

 その正体、桜彩の手に自分の手を重ね合わせると、桜彩が嬉しそうな笑みを浮かべる。

 今夜、この手を離したくない。

 ずっと、ずっと、こうしていたい。

 そんな気持ちが、心の奥から溢れてくる。

 そして――


 ドン――! と、ひときわ大きな花が空に開いた。

次回投稿は月曜日を予定しています

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