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【第十章前編 クリスマス】隣に越してきたクールさんの世話を焼いたら、実は甘えたがりな彼女との甘々な半同棲生活が始まった  作者: バランスやじろべー
第七章中編① 旅行の始まり

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第368話 牛乳を(同じコップで)飲もう

「うんっ! これ凄く美味しいです!」


「でしょ? なんたって新鮮だからね!」


 洗面所から戻ると早速桜彩が牛乳を飲んでいた。

 牧場内にある工場で製造された物なので、やはり通常のスーパーに比べると抜群の鮮度を誇るそれは桜彩の口にも合ったらしい。


「あっ、怜」


 怜がリビングに戻ると桜彩が嬉しそうな笑顔を向けてくれる。


 ガチャ


「あら、二人共帰ってたのね」


 そこへ外から葉月がやって来た。


「あ、葉月」


「なに、牛乳飲んでたの?」


 桜彩の持つコップを見て、微笑みながら葉月が尋ねる。


「うんっ。牛乳、とっても美味しいね! あっ、怜は飲んだの?」


「いや、今から飲もうかなって」


「そうなんだ。ちょっと待ってね」


 怜が答えると桜彩がすぐに冷蔵庫を開けて牛乳の瓶を取り出す。

 そして今自分の飲んでいたコップへと注いで差し出してきた。


「はい、どうぞ」


 二人を見る美玖と葉月の目がニヤニヤとしているのは気のせいではないだろう。


「え、えっと……」


「ほら! 美味しいから怜も飲んで!」


 目をキラキラとさせた桜彩がずいっ、とコップを差し出してくる。

 自分のしていることにまるで気が付いていない。


「怜、早く飲みなさい」


「そうよ。飲みなさいよ」


「そうだよ。はいっ!」


 シスターズも煽るように桜彩を後押しする。


(ま、まあこのくらいならいつもやっていると言えばやっているし……)


 もう何度もあーんで食べさせ合った仲だ。

 やり始めた当初は顔から火が出そうなくらい恥ずかしかったのだが、今ではもう無意識に行っている。

 まさに今の桜彩のように。


「わ、分かった。それじゃあ貰うよ」


「うん。どうぞ」


 手を伸ばして桜彩からコップを受け取る。

 コップを見ると、縁の一部分に桜彩が飲んだ跡がくっきりと付いている。


(こ、これって……ここから飲んでも……)


 桜彩の表情を見るとその辺りのことは全く気が付いていないだろう。

 後ろにいる美玖と葉月は気付いているようだが。

 一度意識してしまえばもう目がそこから離せない。


(い、いや、気付かなかったんならともかく、気付いた以上あえてそこから飲むのはマズいだろ……!)


 欲求はあるが、とはいえやはりわざとそうするのは人としてどうなのかと自問自答する。


「――ゴク」


 結果として桜彩の口を付けた箇所を避けて牛乳を一口。

 シスターズの不満そうな視線にはあえて気付かなかったことにして牛乳を味わう。

 桜彩や美玖の言っていた通り、やはり美味しい。

 美味しいのだが、怜としては味以外のところに意識を持っていかれてしまう。


「どう? 美味しいでしょ?」


 自分のやっていることに気が付いていない桜彩が無邪気に聞いてくる。

 ついでに桜彩が手を差し出してきたので、空いたグラスを桜彩へと返す。


「うん。やっぱり新鮮なのは美味しいよな」


「だよねっ! あ、そうだ。さっきショウガとハチミツも買ってきたよね。後でハニージンジャーミルク作ってあげるね」


 桜彩の作るハニージンジャーミルクは怜にとっても大好物だ。

 何度自分でトライしても決して出せなかった味。


「楽しみに待ってるよ」


「ふふっ。任せてね」


 嬉しそうに桜彩が微笑む。


「あ、そうだ。桜彩、私にも牛乳貰える?」


「うんっ。ちょっと待ってね」


 そう言って桜彩は手に持ったコップをシンクに置いて、棚から新しいコップを取り出して牛乳を注ぐ。


「はい、葉月」


「ありがと、桜彩。っていうか、あなたねえ」


「え?」


 苦笑しながらコップを受け取る葉月に桜彩が頭に疑問符を浮かべる。

 まあ怜としては葉月の苦笑した理由は分かるのだが。


「あなた、怜に牛乳を渡す時、自分で飲んでたコップにそのまま注いで渡したでしょ?」


「……………………え?」


 ぽかん、と。

 葉月の言葉に桜彩は今しがた自分が何をしたのかを理解する。

 シンクの上に置かれたコップと怜の顔を交互に見ながらあわあわと慌ててしまう。

 あえて意識しないようにそのまま受け取った怜としても恥ずかしさで顔が赤くなる。


「そ、そ、それは、その、気付かなくて……」


「しかも私に渡す時は新しいのを取り出して注いだでしょ?」


「あぅ…………。そ、それは、その……」


「あーあ、もう私よりも怜に対しての方がそういうのを気にしないようになったのね」


「だ、だからそれは……! あ、あの、れい、そ、その……」


「わ、分かってる! お、俺も気にしてないから……」


 そう答えると、先ほどまで慌てていた桜彩の顔が少しばかり不満げなように変化する。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



(き、気にしてないんだ……)


 桜彩としてはそれはそれとして不満ではある。

 怜にも少しくらいは気にして欲しいものだ。

 これでは自分一人が慌て損のような物ではないか。

 そんな考えにより頬をぷくりと膨らませる。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「あはは。相変わらず仲良いわね」


 牛乳を飲みながら葉月がからかってくる。


「ちょ、ちょっと葉月! からかわないでよ!」


「あら、からかうのはもっと後よ。夕食の席で二人の買い物について詳しく教えて貰う予定だからね。ねえ、美玖?」


「そうね。じっくりと聞かせて貰おうかしら」


 葉月の言葉に美玖もうんうんと頷いて同意する。


「あぅ……」


 両手で顔を覆ってしゃがみこんでしまう桜彩。

 怜としては助けてあげたくはあるのだが、とはいえここで口を挟んでもシスターズにより、より泥沼にはまることは目に見えている。

 結果、夕食の席で陸翔と蕾華を含む四人に対して洗いざらい話す羽目になってしまった。


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