第367話 デートはどうだった?
神社を後にしたところで時刻を確認すると、そこそこ時間が経っていた。
寄り道の時間を終わらせて買い物の為にスーパーへと向かう。
当然ながらいつも使っているスーパーとは陳列も品揃えも違う。
「ふふっ。いつもと違ってなんだか新鮮だね」
調味料のコーナーへと向かいながら桜彩がクスリと笑みを浮かべる。
「そうだな。まあこういうのも他の土地に行った醍醐味って考え方もできるけど」
「ふふっ。そうかもね」
他愛もない話をしながら商品を眺めていく。
頼まれた調味料はすぐに見つかった。
まだ少し時間がある為に二人で店内を見て回る。
「やっぱりお魚とか多いんだね」
「土産物屋の人もそう言ってたからな」
鮮魚コーナーを確認すると、やはり質の良い物が揃っている。
「どうするの? お魚とかも買っていく?」
「いや、やめとこう。姉さんが色々とこっちに送ってるから、下手に増やしても仕方ないし」
「あ、確かにそうだね」
美玖が送った食材と合わせて食べきれなくなってしまっては仕方がない。
もし買うとしても明日以降で問題ないだろう。
「でもお魚も美味しそうだよね」
「海鮮バーベキューとかな」
「あっ! それやってみたい!」
「だったら明日の朝に市場に行ってみても良いかもな」
土産物屋の店員が言っていた通り、朝の市場にはそれこそ今スーパーに並んでいる物よりも質の高いものがたくさんあるだろう。
美玖に車を出してもらえば難しくはないはずだ。
「それじゃあそろそろ帰るか」
「うん、そうだね。ふふっ、ご飯、楽しみだなあ」
夕食に期待を抱きながら、二人でコテージに戻って行く。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「「ただいまー」」
頼まれた買い物を終えてコテージへと戻って来た怜と桜彩。
入り口のドアをくぐって中へと入ると、鼻へと美味しそうな香りが届く。
その香りに誘われるようにキッチンの方へと向かうと、美玖が夕食を作っているところだった。
「おかえり、二人共」
「買ってきたよ、姉さん」
キッチンで料理をしている美玖へと声を掛け、買ってきた物を袋ごと差し出す。
「怜、冷蔵品は冷蔵庫に入れておいてね。それと、もう夕食ができるから手を洗ってきなさい」
キッチンにいた美玖が振り返りながらそう告げて来る。
「それじゃあ桜彩、先に手を洗って来て」
「うん」
買ってきた物を片付けるのは自分一人で充分。
そう考えて怜はキッチンへと向かい、買ってきた物を置いていく。
「てか姉さんが作ってたんだね」
怜としては買い物から帰って来た後で夕食を作ろうと思っていたのだが。
「……ん? ってあれ、ってか調味料ないんじゃないの?」
そもそも怜と桜彩は買い物に行ったのは、美玖に調味料などを買ってきてくれと言われたからだ。
それなのにもう夕食の支度がほぼほぼできているのはどういうことなのか。
「何もないわけじゃないからね。あるもので作ったのよ」
「ああ、そういうこと」
塩胡椒の容器を手に持ってひらひらと振る美玖に怜も頷く。
確かに怜が頼まれた物の中にそれは入ってはいなかった。
ついでに冷蔵庫の中を確認すると、何種類もの野菜や肉が入っている。
「結構入ってるね。これ全部向こうから送ったの?」
「それもあるけどね。でもあなた達が出て行った後、あたしも別件で買い物に行ったのよ。この近くに牧場があるの知ってる?」
「知ってるよ。ネットで見た」
以前桜彩と一緒にこの辺りのことを調べた時、それについても確認した。
ただ場所がコテージから少々遠かったので歩いて行くのは難しいと判断し、詳しくは調べなかったのだが。
「車なら牧場にも行けるからね。そこで美味しそうなお肉や牛乳とかを買ってきたのよ。どう、美味しそうでしょ?」
「うん。期待できるね」
美玖の言った通り、冷蔵庫の中の肉や牛乳はその辺りのスーパーで売っているようなものではない。
牧場で作られた新鮮な肉や野菜。
これは味の方にも充分に期待できそうだ。
「手洗いうがいをした後に飲んでみなさい。あたしもさっき飲んだけど美味しかったわよ」
瓶に入った牛乳を眺めている怜に美玖がそんな提案をしてくる。
「うん。後で飲んでみる……ってちょっと待った!」
「なに? どうしたのよ」
いきなり大きな声を上げた怜に美玖が怪訝な顔を向けてくる。
「車で買い物行くんだったら俺と桜彩に買い物頼まずに、姉さんがついでに買ってきたらよかったんじゃない?」
車で牧場まで買い物に行ったのなら、ついでにスーパーに寄ることもできたはずだ。
そう思って問いかけてみるが、美玖ははあ、とため息を吐き、桜彩が手を洗っている洗面所の方を見る。
「何馬鹿なこと言ってるの。桜彩ちゃんとデートできたでしょ?」
「う……。ま、まあ、それは……そうだけどさ……」
つまり美玖の目的としては買い物は二の次、本来の目的は怜と桜彩をデートされること。
怜としても美玖の提案の裏にあるものは理解していたのでバツの悪そうな表情を浮かべる。
「それで怜、どうだったの?」
「……楽しんで来たよ」
美玖から視線を外し、具体的に何があったとは言わずそれだけを告げる。
デートの内容を一つ一つ話すのは流石に恥ずかしい。
ただ、相手がこの姉であれば――
「そう。それじゃあ何があったかは後でゆっくりと聞かせてもらうわね」
「……お手柔らかに」
この姉がこの程度で終わるわけはない、その予感は正しかったようだ。
加えて葉月や陸翔、蕾華もいる為に、根掘り葉掘り聞かれるのは回避不可だろう。
怜一人だけなら何とかならないこともないのだが、その場合質問の矛先は桜彩へと向かうことになることに疑問の余地はない。
主に蕾華が桜彩を煽るだけ煽ってたくさんの情報を引き出すことは目に見えている。
頭に浮かんだその光景はおそらく間違っていないはずだ。
いや、別に買物デートについて隠すようなことはなかったのだが。
「怜。洗面所空いたよ」
すると丁度そこへ手を洗い終えた桜彩が笑顔で戻って来る。
「あ、分かった」
入れ違いで洗面所へと向かう怜。
「どうかしたの?」
「……いや、何でもないよ」
この後で質問攻めに遭うとあえて伝える必要はないだろう。
しかし桜彩からはまだ訝し気な視線を向けられたままだ。
「それより牛乳でも飲んだらどうだ? 牧場から買ってきたってことだから、きっと美味しいぞ」
「えっ、そうなんだ。それじゃあ飲んでみようかな」
「ああ。それじゃあ俺は洗面所の方に行くよ」
とりあえず食うルさんに牛乳を見せ、ひとまずこの場を離脱することにした。
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