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【第九章完結】隣に越してきたクールさんの世話を焼いたら、実は甘えたがりな彼女との甘々な半同棲生活が始まった  作者: バランスやじろべー
第七章中編① 旅行の始まり

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第366話 縁結びの神社にて③ ~ちょっとした手助けとささやかなお礼~

「うわあっ……!」


 そろそろ戻ろうかと考えていると、そんな驚くような声が耳へと届く。

 続いてガラガラと何かが崩れるような音が聞こえてきた。

 隣の桜彩を目を合わせると、桜彩もコクリと頷く。

 やはり考えることは一緒のようだ。

 とにかく声のした方へと足を向ける。

 角を曲がるとそこには小柄な女性が困ったようにおろおろとしており、側では二人の小さな子供が涙目になっている。

 傍らでは絵馬掛けの一つが崩れており、先ほどの音の正体はそれだったようだ。

 見たところ支柱が一本外れて、棚が傾いてしまっているらしい。


「……お手伝い、しましょうか?」


 怜が一歩前に出て声をかけると、女性は驚いたように目を見開き、それからやわらかく微笑んだ。


「まぁ、助かります。実はさっきこの子達が遊んでいてうっかり倒してしまって……」


 かなりの量の絵馬が吊るされている為に、そこそこの重さがありそうだ。

 これでは一般的な女性の力で持ち上げるのは厳しいだろう。

 とはいえ怜ならばそこまで難しいものではない。

 絵馬掛けに手を掛ければ、確かに軽いというわけではないのだが別段重すぎるというわけでもない。


「あの、大丈夫ですか?」


 持ち上げる怜に心配そうに女性が声を掛けてくる。


「はい。支えているので今のうちに戻してしまって下さい」


「は、はい。ありがとうございます」


 怜が支えている間に女性は支柱を立て直す。

 その間、桜彩は絵馬掛けから外れてしまったいくつかの絵馬を拾い集めていく。

 作業自体はすぐに終わり、女性は深々と頭を下げる。


「ありがとうございました。ほら、あなた達も」


「おにいちゃん、おねえちゃん、ありがとう」


「ありがとう」


 女性に促されて子供達も頭を下げる。


「いえ、別に大したことはしていませんし。なあ?」


「はい。お気になさらないで下さい」


 桜彩も怜の言葉に同意する。

 実際にそこまでお礼をされるような手伝いをしたわけでもない。

 困った時はお互いさまというだけのことだ。


「本当にありがとうございました。私達神社側の不手際でお手を煩わせてしまいまして。よろしければお茶でもご馳走させて下さい」


 その言葉に怜と桜彩は顔を見合わせる。

 てっきり参拝客かと思っていたのだが、神社の関係者だとは思わなかった。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 一度は断ったのだが、神社側としても恩人をそのままにして返すわけにはいかないと言われたので怜と桜彩は言葉に甘えることにした。

 敷地内のお茶屋さんで、女性を含めた三人でお茶を頂く(子供達は帰って行った)。

 避暑地とはいえやはり暑くはあるので、こうして冷房の効いた室内は心地が良い。

 お茶を飲みながらこの辺りのことを教えて貰う。


「そうだ。明日はこの辺りで花火大会があるのはご存じでしょうか?」


 女性の言葉に怜と桜彩はコクリと頷く。

 この神社から少し離れたところで行われる花火大会については事前にネットで情報を仕入れている。

 花火大会自体がかなり有名であり、その為にここを訪れる人も多いそうだ。


「はい。足を運んでみようかとも思うのですが、人混みが凄そうなので少し考えています」


 ネットで見た人混みは本当に凄かった。

 混雑が苦手な怜や桜彩にとっては辛くなるだろう。

 しかしそんな返事を聞いた女性はにこやかな笑みを浮かべる。


「そうですか。それならばとっておきの場所がありますよ」


「とっておきの場所、ですか?」


「ええ。花火は海で打ち上げることになっており、見物客の皆も海の方へと集中します。有料の観覧席は海辺に設置されていますし、それになりより花火が海に反射するその景色がまた素晴らしいのです」


 ネットで画像を見たが、確かにあれは素晴らしかった。

 できることなら直接見たいと思えるほどに。


「この神社からですと一見木々が邪魔をして上手く見ることができないのですが、実は裏手に丁度見やすいスポットがあるのですよ。よろしければご案内いたします」


「え? 良いんですか、そんなところに入って」


「ええ。助けていただいたお礼、ということで」


 その言葉を聞いて桜彩と顔を見合わせる。

 それが本当ならば、人混みの中で窮屈することなく花火を楽しむことができそうだ。


「それではお言葉に甘えてよろしいでしょうか?」


「はい。それではこれからご案内しますね」



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「うわぁっ……!」


「凄い……」


 予想以上の光景に怜と桜彩は息を飲む。

 女性から案内された場所。

 神社の裏山を少し登った所にある小さな祠。

 その僅かな広場から、花火大会の会場が良く見える。

 その奥には海が広がっており、これなら評判の海に反射した花火も楽しむことができるだろう。

 むしろ山からという角度を考えればこちらの方が絶景かもしれない。


「昔は、地元の若い子たちがこっそりとここへ登っていたものです。今じゃほとんど知られていませんが……お手伝いしてくれたあなた達には特別ですよ」


 女性はそう言って、いたずらっぽく小さなウインクを送ってくる。


「誰にも邪魔されず、風も通って静かに花火が見られますよ。……願い事も、きっと叶いやすい場所です」


「……ありがとう、ございます」


 桜彩と共に頭を下げる。

 むしろあの程度の手伝いでここまでのことをしてもらってもいいのだろうか。


「あの、ぶしつけなお願いで申し訳ないのですが、明日、友人もともに訪れてもかまわないでしょうか? その他の人にこの場所を吹聴するようなことはしませんので」


 これだけの場所であれば陸翔や蕾華とも共に鑑賞したい。

 花火を観に行くか悩んでいた怜と桜彩とは違い、親友二人は人混みを気にせず花火大会に行く予定だったので、この場所から見ることができればとても喜んでくれるだろう。


「はい、構いませんよ」


 ニコリと笑みを浮かべたまま、女性は怜のお願いを聞き入れてくれる。


「よかったね、怜」


「ああ。明日、楽しみだな」


 四人一緒にここから花火を眺める。

 絶対に素敵な思い出となるだろう。


「ふふっ。とってもロマンチックですから、お二人共楽しんでくださいね」


「あ、ありがとうございます」


「ありがとうございます……」


 そう言われるとなんだか恥ずかしい。


「実はですね、私が夫と付き合うことになったのも、ここで花火を見て、なんですよ」


「「えっ?」」


「お二人はもう恋人同士のようですけれど、恋人同士で見る花火もとっても素敵ですよ」


 二人で繋いだ手を見ながらの女性の言葉。

 これはもう完全に勘違いされているだろう。


「あ……」


「あぅ……」


 勘違いされたことにより、二人で顔を真っ赤にしてしまう。

 とはいえ否定もしたくはない。

 一方で女性の方は、そんな二人の反応を初々しいとでも思っているのかクスクスと笑っている。


「それではそろそろ戻りましょうか」


「あ……はい」


「はい……」


 もう場所は分かったので神社の方へと戻って行く。

 その間も手は繋いだまま。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「本当に良かったよな」


「うん。……誰にも見つからない場所に行けるなんて、なかなかないよね」


 そう言いながら、ちらりと横の桜彩を見る。

 その目がまっすぐで、でもどこか照れたようで。


「……じゃあ、行こっか。明日の夜、特等席」


「ああ。楽しみだな」

【後書き】

 この度、短編を投稿することにしました。

 内容としては、怜と美都をモチーフにしたラブコメです(あくまでもモチーフです)。

 詳しいことは活動報告の方をご覧ください。

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