第365話 縁結びの神社にて② ~二つで一つの恋のお守り~
参拝を終えた後は二人で社務所へと向かう。
神社同様年季の入った建物の中へと入れば、その中の光景に桜彩が目を丸くする。
「わあ……。こんなに種類があるんだね。私、お守りとかおみくじだけだと思ってたよ」
中で販売されているのは御神矢や熊手といった定番の物から彫り物等予想外の物も多くある。
あちらこちらを見回しながら、その表情が目まぐるしく変化していく。
「お守りはここだな」
「あ、そうだね」
お守りの置かれているスペースを覗き込めば、金運・出世や健康、学業、厄除け等多くの種類に別れている。
しかしながら一際目立つのはやはり恋愛がらみの物だろう。
種類も数も、それだけで全体の半数を優に超えている。
さすがは縁結びの神社といったところだろう。
「怜も買うんだよね?」
「もちろん。桜彩もだろ?」
「うん。でもこんなにたくさんあるんだね」
二人共ここでお守りを買うのは確定している。
とはいえこう多いと何を買ったらいいのか。
「でもさ、こうやって選ぶのも怜と一緒なら楽しいな」
「俺も。こうやって桜彩と一緒に選ぶのは楽しいよ」
ニコリと笑顔を向けての桜彩の言葉に怜も笑って返す。
これも桜彩との大切な思い出になるだろう。
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二人でお守りを一つ一つゆっくりと確認していく。
その最中、ふと怜が横を向くと桜彩は手に取ったお守りを見て固まっていた。
「桜彩?」
「えっ……!?」
声を掛けると怜の予想以上に大きな声を上げて桜彩が驚く。
手に持ったお守りを勢いのまま両手でぎゅっと握り締め、慌てて首を回し顔を怜の方へと振り返る。
「どうかしたのか?」
「あ、いや……」
オロオロと狼狽えながら視線は怜を見たりお守りの方を見たり明後日の方を見たり。
挙動不審もいいところだ。
「それがどうかしたのか?」
手に持ったお守りに視線を向けて、怜は再度問いかける。
「あ、え、えっとね……」
観念したのか桜彩はきつく結んだ両手を開けてお守りを見せてくれる。
両手に包まれていたそのお守りを見て、怜も桜彩の態度に納得がいった。
そのお守りとは『安産祈願』。
普段であれば特に気にしないのだが、先ほど土産屋で言われた言葉を思い出してしまう。
『でも安心して! ちゃんと安産祈願のお守りも売ってるから!』
二人で顔を見合わせて顔を真っ赤にして固まってしまう。
「え、えっと……か、買うのか……?」
「え? う、ううん! わ、私達にはま、まだ早いと思うし!」
「あ、そ、そうだよな! うん! 俺達にはまだ早いよな!」
「そ、そうだよね!」
二人共動揺してしまい、自分が何を言っているのか分からなくなってくる。
お互いに相手から視線を逸らして一度深呼吸。
(お、俺、今なんて言った……?)
自分の発した言葉を怜は頼りない記憶より掘り起こしてみる。
なにやらもの凄いことを言ってしまった気がするが、恥ずかしさからよく思い出せない。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
(え、えっと、私、今なんて言ったっけ……?)
自分の発した言葉を桜彩は頼りない記憶より掘り起こしてみる。
なにやらもの凄いことを言ってしまった気がするが、恥ずかしさからよく思い出せない。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「……………………」
「……………………」
「……………………と、とにかくそれは置こうか!」
「そ、そうだね……!」
慌てて桜彩が持っていた安産祈願のお守りを定位置へと戻す。
「とりあえず他のを見るか……」
「う、うん……」
お互いに今の出来事は忘れて新たなお守りを手に取っていく。
一つ一つのお守りを手に取って見て、そしてそれを戻して。
それを繰り返していくと、とあるお守りに二人が同時に手を伸ばす。
「「あっ……」」
それを手に取りかけたところでお互いに伸ばした手に気付いて動きが止まってしまう。
隣を見ると相手も同じように自分の方を見て固まっていた。
「えっと……」
「う、うん……」
二人が手を伸ばしたのはとある一種類の、いや、考えようによっては二種類のお守り。
うち一つは白を基調としたお守り袋に青でハートの右半分が描かれている。
そしてもう一つの方は、同じく白を基調としたお守り袋に赤でハートの左半分が描かれている。
二つで一つ、ペアとなっている縁結びのお守り。
「……………………」
「……………………」
「えっと……」
「う、うん……」
これはもう完全にカップル用のお守りだろう。
むしろカップル以外でこれを選ぶ人がいるのだろうか。
「こ、こういうのもあるんだな……!」
「そ、そうみたいだね……!」
何もやましいことはしていないのになぜか焦ってしまう。
「ど、どうするか……」
「ど、どうしよっか……」
(こ、これ……桜彩と一緒に買ったら…………)
もしこれを桜彩と一緒に買うことが出来たのならとても素晴らしい思い出の品になるだろう。
隣を桜彩をちらりと見ると桜彩も迷ったような表情でお守りを見つめている。
「その……買おうか…………?」
「え…………?」
怜ゆっくりとそう告げると桜彩の表情が驚きに染まる。
「えっと……良いの……?」
「その、桜彩が嫌じゃなければ……」
「い、嫌なわけないって……!」
慌てたような大声が返ってきたので驚いて一歩退いてしまう。
「怜。そんなこと絶対にないから。私も怜と一緒に買いたい。だからさ、これ、一緒に買お?」
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(これ、怜と一緒に買ったら…………)
もしこれを怜と一緒に買うことが出来たのならとても素晴らしい思い出の品になるだろう。
隣を見ると迷ったような表情でお守りを見つめていた怜がこちらを向く。
「その……買おうか…………?」
「え…………?」
いきなりの怜の提案。
自分の心の内を空かしたようなその提案に驚いて固まってしまう。
「えっと……良いの……?」
それしか言葉が出てこない。
「その、桜彩が嫌じゃなければ……」
「い、嫌なわけないって……!」
嫌なわけなどない。
怜と一緒にこのお守りを買いたい。
自分から言い出せなかったその提案を怜がしてくれた。
そんな素敵な怜に怜にそんなことを思って欲しくない。
「怜。そんなことないから。私も怜と一緒に買いたい。だからさ、これ、一緒に買お?」
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期待を込めた瞳で桜彩が見上げてくる。
嫌なわけなどない、むしろ桜彩も買いたいと言ってくれる。
安堵で胸がいっぱいになる。
「ああ。それじゃあ一緒に買おう」
「うんっ!」
そう提案すると満面の笑みを浮かべて桜彩が頷く。
そして二人でお守りに手を伸ばし――
「あっ、そうだ! ねえ、自分の分を買うんじゃなくてさ、お互いに相手のお守りを買わない?」
「え? プレゼントってことか?」
「うんっ!」
そして桜彩はポケットからお揃いのキーホルダーを取り出し胸の前のネックレスと重ねる。
友情の証のキーホルダーと、初デートの記念のネックレス。
どちらもお互いに贈り合った大切な宝物。
「そうだな。それじゃあそうしようか」
「うん」
桜彩の提案に頷き、二人で相手に渡す為のお守りを買う。
レジの巫女(本職かアルバイトかは分からないが)が微笑ましそうにラッピングしてくれたそれを持って社務所から出て桜彩と向き合う。
「それじゃあ桜彩。これ、貰ってくれるか?」
「うん。ありがと。怜もこれ、貰って?」
「ああ。ありがとな」
「ふふっ」
「あはっ」
二人で笑い合いながら袋からお守りを取り出す。
そしてどちらからともなく二つのお守りをくっつけて一つのハートを形作る。
「ねえ、写真撮ろっ!?」
「そうだな! 賛成!」
スマホを取り出してカメラを起動する。
二つのお守りを中央に二人で並んでツーショットを写真に収める。
「ふふっ。また一つ思い出ができたね」
「ああ。また一つな」
いずれこのお守りのように、ハートをくっつけることが出来るように。
そんなことを思いながら二人で写真を眺め続けた。




