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【第九章完結】隣に越してきたクールさんの世話を焼いたら、実は甘えたがりな彼女との甘々な半同棲生活が始まった  作者: バランスやじろべー
第七章中編① 旅行の始まり

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第362話 土産物屋にて

 道路を通る車の数も少なく、時折街路樹が風に揺れてそよそよと立てる音が耳に届く。

 そっと頬を撫でる風が気持ち良い。

 冷房に満ちた室内に立てこもっていては決してできない経験だ。

 普段では絶対に味わうことのできない心地良さ。

 そんなことを思っていると桜彩がそっと手を差し出してくる。


「ねえ、怜」


「ああ」


 桜彩の意図することは明白。

 怜が差し出された桜彩の手に自分の手を重ね合わせると、桜彩がニコリと笑みを返す。

 繋がれた手の感触がいつも通りとても心地好い。


「えへへ。ありがとね」


「お礼なんていいって。俺も繋ぎたかったからさ」


「一緒だね」


「一緒だな」


 にへら、と嬉しそうに微笑んでくれる桜彩に怜も笑みを返す。

 こうしていたいのは二人共同じだ。

 周囲を眺めながらスーパーへの道を歩いていると、ふと思い出したように桜彩が問いかけてくる。


「何を買って来てって言われたの?」


「調味料とかだな。いくつか冷蔵品もあるし、買い物は最後にするか」


 いくらそこまで暑くないとはいえ、この八月に冷蔵品を抱えたまま散歩をするのは憚られる。

 それで食中毒にでもなったら目も当てられない。


「それじゃあまずはお散歩だね」


「そうだな。とりあえず二人でぶらつくか」


「うんっ! 賛成!」


 怜の提案に桜彩が嬉しそうに頷いてくれる。

 そのまま二人でしばらく道を進んで行く。

 この辺りはまだ別荘や貸しコテージが所々に並ぶエリアなので特別目を引く物や店はないのだが、こうして二人で歩いているだけでも充分に楽しい。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 しばらく進むと別荘のゾーンを抜けて、所々に店が建っている。

 海水浴場も近いので、日帰りや近場のホテルに泊まる観光客を目当てにしたものだろう。

 通りにはのぼりが立ち並びパタパタとそよ風に揺れている。

 やはり観光地ということで土産物や町の名産をアピールしている店が多い。


「ちょっとちょっと! そこのお兄さん!」


「え?」


 歩いているとすぐ左から声が掛けられたので立ち止まってそちらを向くと、土産物屋の店員と思われる中年女性がこちらを見ていた。

 自分の事か、と怜が自身を指差すと


「そうそう! お兄さんだよお兄さん! 隣のお姉さんも! ちょっと見て行ってちょうだい!」


 と中々に力強く手招きされる。

 右を向いて桜彩にどうするか? と視線で問いかけると


「うん。ちょっと見て行こうか」


 と賛同してくれた。

 二人で声を掛けてきた方へ向かうと店員がニコニコとしながら寄って来る。


「お兄さんとお姉さんは観光?」


「はい。この道を少し行ったコテージに泊まっています」


「あらあらそうなの! この辺りは夏でも涼しいからねえ。地元と比べても過ごしやすいでしょう?」


「ええ。地元だともう真夏日は当たり前なんですが、ここは三十度を超えていないのでとても快適です」


「はい。ここに来ることができて本当に良かったです」


 店員の言葉に二人で頷く。

 八月の上旬にこのような快適な気候というのはこれまでには考えられなかった。

 それを聞いた店員も嬉しそうに頷く。


「そう言ってくれると嬉しいねえ。ところでお兄さん達、これからどこか行くのかい?」


「目的地は特に決まっていないのですが、とりあえずこの辺りを二人でぶらついてみようかな、と」


「はい。目新しいものばかりでこうして歩いているだけでも楽しいです」


「そうかいそうかい。そうだ。二人ともこれ食べてみな!」


 そう言って店頭に並んでいた塩せんべいの試食品を差し出してくれたので、早速桜彩と二人で手を伸ばす。

 一口齧ると塩味が口の中に広がっていく。


「美味しいです」


 怜より先に桜彩の口から自然と言葉が漏れた。

 その表情は美味しい物を食べてとても幸せそうだ。


「ありがとうね。これ、この辺りで作った塩を使ってるんだよ」


「あ、そういえばこの町では塩作りをやっているのでしたね」


 この辺りのことを軽く調べた時にそのような事がネットに載っていた。


「あはは。まあ作ってるだけで名産ってほどでもないけどねえ。お土産にどうだい?」


「そうですね。今日はまだこちらに来たばかりですのでお土産を買うには早いんですが考えておきます」


「そうかい。その時はよろしくね」


「他にこの辺りの名物とかって教えて貰えますか?」


 一応事前に調べてはみたのだが、せっかくなので地元の人に聞くのもいいだろう。

 怜の言葉に女性は少し考えこんで口を開く。


「そうだねえ。やっぱり海が近いってことで海産物かな。朝方なんか市場に行くと良い魚介が揃ってるよ!」


「それは楽しみです」


 地元には近い距離にそういったものがなかったので、魚介は基本的にスーパーで購入していた。

 良い機会なので是非とも行ってみたい。

 獲れたての魚介の刺身などは絶品だろう。


「あ、ほらほら! これも味見しなって!」


 今度はプラスチックの小さなスプーンにアイスを載せて差し出してくれる。

 二人で受け取ってそれを口に含めば、口いっぱいに濃厚なミルクの味が広がる。

 加えて少しのしょっぱさ。


「これ、お塩ですか?」


「ああ。お塩を使った塩アイスだよ。どうだい、美味しいだろ?」


「はい。とても美味しいです」


「私もです。お塩を使ったアイスなんて初めて食べたんですけれど、甘い物にお塩が合うなんて意外でした」


 口からスプーンを引き抜き、上に何も載っていないスプーンを不思議そうに見ながら桜彩がそう呟く。

 引き抜く時にちらりと見えた舌もなんか色っぽく、人知れず怜はドキリとしてしまう。


「ん……! ま、まあしょっぱい物と甘い物って意外に合うからな」


 内心の動揺を隠すように説明を始める。


「ほら、スイカに塩を振りかけて食べる人もいるだろ?」


「あ、そう言えばそうだね。でも何で?」


「味の対比効果だよ。舌の味蕾って部分は同時に二種類の味を感じると、どちらか一方の味が引き立つんだ。舌は塩辛さを先に感じるから、直後に感じた甘みを本来以上の甘さがあるように思ってしまうんだ」


「そうなんだ。初めて知ったよ」


 ふんふんと納得したように頷く桜彩。


「他にも塩味の利いたポテトチップスにチョコレートをコーティングした商品だったり、塩キャラメルとかもあるしな」


「あ、それもそういう理由なんだね。これまで何でそんな組み合わせなのかなって思ってたよ」


「塩キャラメルならうちにも置いているよ! 帰る際には是非買ってちょうだいね」


「はい。その時は是非」


 確かに現地の塩を使った塩キャラメルはお土産にはぴったりかもしれない。

 リュミエールの皆は喜びそうだ。


「他にもね――」


 そのまま店内の商品をいくつか説明してもらう。

 最終日にはここに来てお土産を選んでみても良いかもしれない。

 もちろん桜彩と。

 恋人になった桜彩と二人で一緒にお土産を選ぶ。

 そんな未来を手にする為に頑張ろうと怜は心に誓った。

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