第361話 買物デートに出発
「わあっ……!」
コテージの中へと足を踏み入れた桜彩が、室内の様子を見て声を上げる。
「凄いね、これ!」
「本当にな。こんな所に泊まれるなんて、本当に凄いよ」
怜も桜彩の言葉に同意する。
床や壁は木製で出来ており、木の香りが鼻へと届く。
一番最初に足を踏み入れたリビングと思しき場所には長テーブルと椅子、少し離れたところにはソファーもある。
二階もある為天井も高く、圧迫感もない。
照明も普通のシーリングではなくランタンを模した(中身はLEDだが)雰囲気のある物が設置されている。
ただでさえ旅行自体に特別感があったのだが、それが更に強い物に感じられる。
「すっごく素敵……」
入口で足を止めてうっとりと呟く桜彩。
「ほらほら。そんなところで立ち止まってないで早く入ってきなさい」
「あ、うん」
呆れたように苦笑する葉月の言葉に、桜彩は慌てて中へと入っていく。
「ふう……」
コテージの中に入り荷物を下ろして一息つく。
避暑地とはいえ暑くないわけではないので、エアコンや扇風機といった設備のスイッチをすぐに投入する。
しばらくするとエアコンが冷風を勢いよく吐き出してきたので、室内はじきに涼しくなるだろう。
再び車へと戻り積んでいた荷物も全て室内に運び終え、六人でリビングに集合する。
「ふうーっ! 水が美味いっ!」
「体に染み渡るなあ」
ソファーに腰掛けるなり、コンビニで購入したロックアイスを使った氷水を怜と陸翔が一気飲みして一息つく。
「さて、ようやく到着したわね。それじゃあこの後の予定だけれど、さすがに今日はから海水浴はやめておいた方が良さそうね」
美玖の言葉に全員が頷く。
現在時刻は既に十四時。
普段であればまだ充分に遊べる時刻ではあるのだが、到着直後ということもあり、これから大きなことをする気にはなれない。
海で遊んだりというのは明日以降のお楽しみということになるだろう。
「ああ、それとこれから荷物が届くはずだから、そうしたら手伝ってね」
今回の旅行で必要となる荷物を全て車に積むことはできなかったので、あらかじめ時間を指定して宅配便で送っている。
それがこの後で届く予定だ。
「それじゃあ初日は各々ゆっくりしましょうか。と言っても荷物を受け取った後はそれを組み立てたりと多少はやることもあるけどね」
美玖があらかじめ送った物の中にはバーベキューに使うコンロ等そこそこ大きなものもある。
コテージの裏にはバーベキュー用のスペースもあり、そこに設置する予定だ。
流し台も予めそこに設置されているので、一々食材を捌きに室内に入る必要がないのは有難い。
「今日はバーベキューをする予定はないのだけれど、こういうのは早めに準備しておいた方が良いからね」
それは皆も同意見だ。
あらかじめ今日の内に準備しておけば、明日以降は本当に遊ぶだけで良い。
「ってわけで、そうね……」
皆の顔を見ながら美玖が少し考えこむ。
そして名案を思い付いたというようにポンと手を叩き怜と桜彩へと視線を向ける。
「この近くにスーパーがあるから、怜と桜彩ちゃんに買い物をお願いしたいんだけど良い? そんなに量はないから」
「え? まあ別に良いけど、別に俺ひと……」
俺一人で構わない。
そう言おうとしたのだが口をつぐむ。
おそらくその程度のことは美玖にも分かっているだろう。
であれば、これは美玖なりのお節介と言うことだ。
「そうね……。大体十八時くらいまでに戻ってくれば大丈夫だから、ついでに二人でその辺りを散策してみても良いかもね」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
(つまり、これって桜彩とお散歩デートってことだよな……?)
避暑地を男女一組で一緒に歩く。
これをデートと言わずに何と言うのだろうか。
桜彩と共に避暑地巡り。
色々と観光をしながら面白そうな店に入って商品に手を取って。
他愛のないことで笑い合って、思い出を増やしていって――
(そ、それに確かここの近くに縁結びの神社もあったような……)
先日、桜彩と二人でこの辺りの名所をインターネットで調べていたところ、そのような項目が目に留まった。
横に桜彩がいた為に特段それをピックアップすることはしなかったのだが、桜彩が自室へと戻った後に怜は一人でそれについて詳しく調べた。
(せ、せっかくだし恋愛成就のお守りとか桜彩とお揃いで買っても良いかも……)
もちろんこの気持ちを伝えるのに神頼みをするつもりはない。
とはいえゲン担ぎにもなるし、多少なりとも勇気を貰うことはできるだろう。
よってこの美玖のパスを無駄にすることはしない。
「そうだね。避暑地ってだけあってそんなに暑くはなさそうだし。桜彩は良いか?」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
(こ、これってつまり、怜からデートのお誘いってことだよね……?)
怜の言葉を聞いた桜彩の心臓がドクンと揺れる。
避暑地を男女一組で一緒に歩く。
つまりこれはデートと言うことで間違いないだろう。
怜と共に避暑地巡り。
色々と観光をしながら辺りをゆっくりと歩くなんてなんて素敵な事だろうか。
一緒に歩いて、美味しそうなお菓子があったら二人で一緒に食べたりなんかして――
(そ、それに確かここの近くに縁結びの神社もあったよね……)
先日、怜と二人でこの辺りの名所をインターネットで調べていたところ、そのような項目が目に留まった。
横に怜がいた為に特段それをピックアップすることはしなかったのだが、自室へと戻ってからそれについて徹底的に調べた。
(れ、恋愛成就のお守りとか怜と一緒に買っても良いかも……)
もちろんこの気持ちを伝えるのに神頼みをするつもりはない。
とはいえゲン担ぎにもなるし、多少なりとも勇気を貰うことはできるだろう。
よって桜彩が怜の誘いをもろ手を挙げて歓迎する。
「うん。お手伝いするね」
怜の問いに桜彩は笑顔でそう答えた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「それじゃあ買ってきて欲しいものはメッセージで送るから」
「分かった。それじゃあ行こうか、桜彩」
「うん。ほら怜。早く早く!」」
すぐに立ち上がった桜彩が待ちきれないといった様子でせかしてくる。
怜としても桜彩と二人の時間を無駄にしたくない為に立ち上がって二人で出入り口へと向かう。
「それじゃあ行ってきます」
「行ってきまーす」
そんな二人には残る四人からの生暖かい視線が向けられていた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
二人が出て行った後、残る四人は顔を突き合わせて話を始める。
「…………さて、二人とも行ったわね」
「…………そうね。それじゃあこっちもさっそく始めましょうか」
二人が出て行った扉を確認し、戻ってくる気配がないことを確認する残り四人。
当初の予定通り、怜と桜彩を二人で出掛けさせることに成功した。
これから夕食の時間まで、みっちりと二人でデートを楽しんでくることだろう。
もちろんそれも目的の一つだが、二人が外に出ている内にこちらはこちらで色々とやっておかなければならないことがある。
当然あの二人をくっつける為である。
「まずは今日の夜ですよね」
「ええ。夕食後は多分ここでみんなで話したり遊んだりするでしょうからね」
「ってことはその為にちゃんと仕込んでおかないと」
この旅行中に絶対に怜と桜彩を恋人同士へとステップアップさせる。
そう決意して四人はこの後の予定の話し合いを始めた。




