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【第十章前編 クリスマス】隣に越してきたクールさんの世話を焼いたら、実は甘えたがりな彼女との甘々な半同棲生活が始まった  作者: バランスやじろべー
第七章中編① 旅行の始まり

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第359話 ブラコンからの連絡

 旅行に行く数日前の事。

 美玖から『あなたに話があるから桜彩ちゃんが自室に戻ったら連絡して』とのメッセージが怜のスマホに届いたので、その旨美玖へと連絡を送る。

 するとすぐに美玖から『ビデオ通話で話しましょう』とメッセージが来た。

 ソファーに腰を下ろし、ソファテーブルの上にスマホをセットして美玖へ電話を掛ける。

 ワンコールも経たないうちに美玖が出て、すぐにスマホに姉の顔が表示される。


「もしもし、姉さん?」


『ええそうよ。あなたの優しいお姉ちゃんよ』


「優しいって……。まあいいや。それで、話があるって何?」


 優しいお姉ちゃん、という点については異議を唱えたくもある。

 いや、確かに優しいことは事実ではあるのだが、それと同時に傍若無人でもある。

 とはいえそれを指摘すると面倒になることは身をもって分かっている為、その点に関しては一応スルーすることにした。


『今度の旅行の件でちょっとね』


「旅行の件で? だったら桜彩も居て良いと思うんだけど」


 旅行に行くのは桜彩も一緒なので、わざわざ桜彩のいないタイミングでする話とは思えない。

 むしろ桜彩がいた方が良いのではないか。


『話の内容は旅行そのものについてじゃなくて、あなたと桜彩ちゃんについての事よ』


「俺と桜彩について?」


『ええ。怜、単刀直入に聞くけどね。あなた、桜彩ちゃんに対する自分の気持ちに気が付いてるでしょ?』


「ッ!!」


 予想しなかった指摘にビクリと震えてしまう。


「ね、姉さん……?」


『気付いてるんでしょ?』


「…………うん」


 確信をもって問いかけて来る美玖に、ごまかすのは無理だと悟って素直に頷く。


『怜。もっと自信をもって答えなさい。その気持ちは決して恥じるような物じゃないでしょ?』


「それはもちろん!」


 美玖の指摘に自信をもって答える。

 桜彩に対してい抱いているこの気持ち。

 この恋心は決して恥じるような物ではない、と。


『なら良し! そうやって胸を張りなさい。その気持ちは胸を張れるくらい素敵な物なのだから』


「ありがと、姉さん。……でも守ちゃんと付き合う前の姉さん、結構チキンだった気がするけど?」


『まあ色々とビビってたのは認めるけどね、でも守仁に対する気持ちはいつも胸を張ってたわよ』


 怜の軽口に電話口の向こうから苦笑した声が届く。

 美玖が守仁と付き合う前は、怜から見てもかなりおぼつかない態度だった。

 それこそ自分に対する傍若無人な態度からは全く想像出来ないくらいに。

 そんな姉と守仁をくっつける為に、怜もかなり苦労したことを思い出す。


『まあ、今はあたしのことはどうでも良いの。それよりもあなたと桜彩ちゃんの事よ』


「うん…………」


『…………ふふっ』


「何? どうしたの?」


 いきなり電話の向こうで小さく笑った美玖へと不思議そうに問いかける。

 怜の問いに画面の中の美玖は笑みを崩さずに口を開く。


『いいえ。今のあなた、良い顔してたわよ』


「む……良い顔って……」


 美玖の指摘に自分の両頬を持って前後左右に引っ張ってみる。

 そんな仕草もおかしかったのか、画面の中の美玖が再び笑う。


『正確には良い顔をするようになった、かしらね。あなたがそんな表情をするなんて、ついこの前までは考えられなかったから』


「そ、そうかな……」


『ええ。陸翔君や蕾華ちゃんといる時とも違った表情ね。自覚ない?』


「え、ええっと……」


 あると言えばそうだし、ないと言えばない。

 確かに桜彩と一緒に過ごすようになって、親友二人といる時とは違う笑みが浮かんでいるのは言われてみればそうだろう。


『……本当に桜彩ちゃんには頭が上がらないわね」


「……うん」


『あなたのトラウマを助けてくれて。そしてあなたに大切な感情を教えてくれて』


「…………うん」


 トラウマで動物に触れなかった自分を助けてくれた、もう一度動物に触れるようにしてくれた。

 そして、『恋』を教えてくれた。


『あなたが誰かにそんな感情を抱くなんて、去年までは想像も出来なかったわよ』


「それは、俺もだよ」


 桜彩と出会って変わっていった。

 他人を信用出来なかった。

 ずっと、このままで良いと思っていた。

 でも、桜彩が勇気を出して助けてくれた。

 気が付けば陸翔や蕾華、そんな親友二人と同じくらい大切な相手になっていて。

 そして、親友二人とは別の感情を、恋心を抱いた。


『あんな良い子、絶対に手放すんじゃないわよ』


「手放さないよ。また手の中にいないけど」


『じゃあ早く手の中に抱えなさい』


「……分かってるよ」


 そんなことは美玖に言われるまでも無い。

 桜彩へと自分の気持ちを伝える。

 それははっきりとしている。


『…………ねえ、怜。少し話の内容を変えるわね』


「何、姉さん?」


 先ほどまでとは打って変わって真剣な表情で口を開いた美玖に、怜も自然と姿勢を正して聞く姿勢を整える。


『分かってるとは思うけどね、あなたも桜彩ちゃんも高校生なのよ』


「それは、分かってるけど」


『うん。それでね、怜。『付き合ってもいない異性と、一緒に泊まりがけの旅行に行く』。それがどれだけ普通じゃないことか、言わなくても分かるわね?』


「……うん。分かってるよ」


 付き合ってもいない異性と、一緒に泊まりがけの旅行に行く。

 それがどれほど『普通』からかけ離れているのか。

 もちろん怜と蕾華のように、異性とは言えどそれを感じさせない強い信頼を築いた関係という者は存在するが、それは例外中の例外だろう。

 それが成立するにはそれだけの感情を相手が持っていなければ成り立たないことも、理屈の上では充分に理解している。

 怜の返事に画面の中の美玖は充分だというように大きく頷く。


『なら良し。それじゃあしっかりとやりなさいよ。あたしも協力するからね』


「ありがと、姉さん」


『それじゃあね、怜』


「ん。おやすみ」


 それだけ言って通話が終わる。

 そのまましばらくぼうっとしていると画面がブラックアウトして、それが鏡となって自分の顔を映す。


「桜彩と、一緒に泊まりがけの旅行に行く」


 先ほど美玖に言われたことを口にする。

 ただの友達では絶対にありえない関係。

 いや、むしろ今までだって、一緒にデートしたり、あーんで食べさせ合ったり手を繋いだり。

 他にもたくさんの、ただの友達では絶対にありえないことを繰り返してきた。


「ずっと、好きだったんだよなあ」


 恋心を自覚したのは、先日の誕生日のダブルデート。

 特別な感情を持っていると自覚したのは、初めてのデート。

 しかし、それ以前から桜彩に恋心を抱いていたということが分かる。

 そう、そしてそれはおそらく桜彩の方も――


「…………一緒に旅行。うん。俺のこの気持ちを、桜彩に――」


 そう決意した怜の目には、壁のフックに飾られているお揃いのキーホルダーとネックレスが映っていた。

次回投稿は月曜日を予定しています

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