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【第九章完結】隣に越してきたクールさんの世話を焼いたら、実は甘えたがりな彼女との甘々な半同棲生活が始まった  作者: バランスやじろべー
第七章前編 夏・プール・水着

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第356話 お湯の中でスキンシップを

 怜に身を寄せながら、目を閉じて幸せそうな表情を浮かべる桜彩。

 穏やかなその表情は、今の状況に本当に安らいでいるようだ。

 ――が、桜彩の内心は全くもってそんなことはなかった。


(…………だ、大丈夫だよね!? こ、これで良いんだよね!?)


 平静を装ってはいるが、桜彩の心臓は怜に負けないくらいの速さでバクバクと心音を奏でている。


(だ、大胆過ぎたかな……? う、ううん! ら、蕾華さんだってこのくらいやれって言ってたし……)


 別れる前の蕾華からのアドバイスを思い出す。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



『スパでゆっくりとしながられーくんに甘えちゃいなって!』


『あ、甘える……?』


『うん! ほら、二人で一緒にお湯に浸かりながら、れーくんに寄りかかったりさ!』


『う、うん! が、頑張るね!』


 とまあ実際の所、蕾華としてはそこまでのアドバイスをしていなかったのだが、桜彩の脳内ではそのように変換されていた。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



(うぅ……。心臓がうるさいよぅ……)


 怜に肩を寄せて、怜の肩に頭を載せて。

 そしていつものように手を繋いで。

 恥ずかしさで胸が爆発してしまいそうだ。


(って言うか、恥ずかしいけど幸せだし……でもやっぱり恥ずかしいし……だ、だけど怜から離れたくないし……)


 もうどうして良いか分からない。


(で、でも怜の体、こうして近くで見ると、やっぱり凄いなあ……)


 怜の上半身はもう(事故で)見たことがあるが、こうして寄り添うのは初めてだ。

 分かってはいたことだが、こうしてみるとやっぱり凄い。

 日頃からトレーニングをしているだけあってやはり筋肉質で頼りがいがある。

 最近では自分も一緒にトレーニングをしているが、怜はそれとは比べ物にならないほど体に負荷をかけている。

 服の上からでは分かりにくいが胸筋もあるし、お湯に気泡が大量に混じっているせいで水面下の様子は今は見えないが、腹部もシックスパックに割れている。

 そんなことを思っていると、無意識に手が動いていた。

 空いている右手を水面から出し、人差し指を立てて怜の胸をそっと撫でる。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「ひゃっ!」


 幸せだがある意味拷問級に辛いこの状況を何とか耐えようと頑張っていると、いきなり胸に新たな感触を感じる。

 そちらの方へと視線を向ければ、桜彩が右手の人差し指で胸の辺りをつー、と撫でていた。

 いきなりのその感触にびくりと震えてしまう。


「さ、桜彩!?」


「え、あっ……」


 そこで何をしていたのか桜彩も理解したのだろう。

 驚いた後、慌てて手を引っ込める。

 顔も羞恥の為か真っ赤に染まり、怜の肩に置いていた頭が離れて行く。


「ご、ごめんっ!」


「い、いや、別に構わないんだけど……」


 むろん怜としても、こうして桜彩に体を撫でられるのが嫌だということはない。

 恥ずかしすぎるだけであって。


「ど、どうしたんだ?」


「あ、え、えっと……。怜の筋肉が凄いなって思ったら、つい……」


 そう小さな声で告げると恥ずかしさからか、顔の半分を水面下に隠してしまう。

 口から出る空気でお湯がぶくぶくといっている。


「そっか。まあ気にしないで良いって」


「う、うん……」


 口元までを水面から出してそう小さく答えてくる。


「…………」


「…………」


 言葉が続かない。

 この後どうすれば良いのか分からない。


「…………さ、触ってみるか?」


「…………え?」


「あ、い、いや、その、気になるんならどうかなって…………。わ、悪い、変な事言って……。わ、忘れてくれ……」


「あ、ううん……。で、でも良いの、触って……?」


「え? あ、ああ……。か、構わないけど……」


「そ、そっか……」


 恥ずかしさから妙な提案をしてしまったのだが、むしろ桜彩はその言葉を聞いて先ほどと同じように指を伸ばしてくる。


「さ、触るね……?」


「あ、ああ……」


 律儀にそう断られた後、桜彩の指がそっと怜の胸に触れる。

 胸に桜彩の指の感触が伝わって来て、くすぐったさと気持ち良さが同時に訪れる。


「んんっ……!」


「あ、大丈夫?」


「ああ、大丈夫だぞ」


「そ、それじゃあ続けるね」


 再び桜彩の指が動き出す。

 刺激自体は強いものではないのだが、いかんせんくすぐりに弱い怜としてはむしろこのような刺激の方がむしろ苦しい。


「ふふっ……。凄いなあ……」


 一方で桜彩は楽しそうに怜の胸を触り続ける。

 そんな桜彩を止めることもそれはそれで心苦しいのでここは耐えるしかない。

 むずむずとした刺激に体がピクピクと動いてしまう。


(そ、そろそろ限界……)


 あまりのくすぐったさに身をよじる。

 その拍子に桜彩と繋いでいる怜の右手が動いてしまい、桜彩の太ももへと触れてしまう。


「あっ……!」


「ひゃんっ!」


 太ももへの刺激に桜彩がいきなり声を上げる。


「え、えっと……わ、悪い……」


 焦って桜彩へと声を掛けると、桜彩は恥ずかしそうに顔を赤くして小さく呟く。


「う、ううん……。その、私が怜の胸を触ったせいでもあるし……」


「あ、ああ……」


「そ、それよりもね……」


 そう言って桜彩が恥ずかしそうに視線を下へと向ける。

 泡立つお湯で隠れているが、そこにあるのは桜彩の太もも。

 繋いだ手の甲には、桜彩の太ももの感触が未だに伝わってきている。

 きめ細やかな肌、それでいてすべすべでほどよい弾力。

 いつまでも触っていたい――


「あ…………」


 触っていたいのだが、さすがにそうはいかない。

 正気に戻った怜が手を引くと、手の甲から太ももの感触が消えていく。


「ねえねえあそこ見てーっ! すっごく仲良さそうーっ!」


「ホントだーっ! 彼女さん、すっごく甘えたがりーっ!」


 そんな二人の空気を救ったのは少し離れたところから聞こえてきた通行人の声。

 耳に届いたその声に、怜と桜彩がびくりと身体を震わせる。

 声の主は怜達の後方にいる為、桜彩が怜の胸を撫でていたことには気付いていないだろう。

 しかし桜彩が怜にしなだれかかって甘えているようには見えたはずだ。

 ここはあくまでも公共の場所。

 そんな中で二人の世界に入っていたことに気付いて顔を真っ赤にしてしまう。

 固まっている二人の後ろで声の主はクスクスと笑いながら去って行った。


「…………」


「…………」


「そ、その、移動するか……」


「う、うん……」


 恥ずかしさで真っ赤になったまま、二人は立ち上がってその場から離れて行く。

 もちろん手は繋いだまま。

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