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【第十章前編 クリスマス】隣に越してきたクールさんの世話を焼いたら、実は甘えたがりな彼女との甘々な半同棲生活が始まった  作者: バランスやじろべー
第七章前編 夏・プール・水着

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第345話 水着を見せたいクールさん② ~クールさん(及び他一名)と再び夕食を~

「――ってわけですよ。やっぱり課題ってのは後回しにするのは良くないですからね」


「は、はい。そういうことです。それに光瀬さんに分からない箇所を教えてもらいたくて……」


「まあさ……渡良瀬の方も俺の助けなんてほとんど必要ないけどな」


 危うく桜彩と言いかけたところ、間一髪それに気付いて言い直す。

 自室内ということで少し気が抜けてしまったようだ。


「なんだー。そういうことだったんだー」


 リビングに招き入れた瑠華に簡単に状況を説明すると、瑠華はうんうんと納得するように首を縦に振る。

 といっても事実を正確に伝えると面倒なことになりそうだったので、色々と端折った、というか適当な言い訳を並べたわけだが。


「でもまだ終業式のその日からこうやって勉強するなんて、やっぱり二人共真面目だよねー。うんうん。さすがは前期中間試験の一位と二位」


 桜彩は学内ではまだ怜に対してもクールモードを保ってはいるものの、とはいえ他の男子よりはよく話す。

 これは蕾華の存在やボランティア部や家庭科部で共に活動する機会が多いという理由もあり、クラスメイトが不信がっている様子はない。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



(あ……危なかったあ……)


 一方で桜彩は何とか事なきを得て安どのため息を漏らす。

 勇気を出して水着姿で怜の前に出ようとしたのだが、なぜかちょうど瑠華が尋ねて来た。

 扉の陰で瑠華の方からは顔以外は見えていなかったのは本当に幸いだった。

 もしも怜の部屋で水着姿になっている所を見られたら、どのような誤解をされるか分からない。

 その後、怜が瑠華をリビングへと案内している間に再度洗面所で私服を上に着て二人の前に姿を現した。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「で、瑠華さんは何でここに? 疲れたんなら自宅に戻って体を休めるべきでは?」


 怜が正論オブ正論を瑠華へとぶつける。

 しかしそんな怜に瑠華はむっとした表情をして頬を膨らませる。


「もー、れーくんもうちょっとお姉ちゃんに優しくしても良いと思うよ!」


「お姉ちゃんを自称するのであれば、もう少しお姉ちゃんらしい行動を日頃から心がけて下さい」


 いや、確かに怜としても(本人には言えないとはいえ)瑠華のことを第二の姉のように思ってはいる。

 とはいえそれはそれ、これはこれだ。

 どう考えても瑠華の行動は姉としてのそれではない。


「いやー、だってさー、ほんとーに大変だったんだからね! 記入ミスにかこつけて過去のミスをあーだこーだ! あーっ、もう!」


 思い出したように唸り声を上げる瑠華。

 そんな瑠華を怜は冷めた目で見つめたまま


「気持ちは分からないでもないですが、だからと言って夜分に俺の部屋に襲撃を掛ける正当なる理由には思えないんですけどね」


「だってもう限界だったんだもん! だってほら、れーくんの部屋の方があたしの家より近いでしょ?」


「…………」


 近いとはいえ、原付バイクであればそこまで疲労度は変わらないだろう。

 まあ言っても無駄なので口には出さないが。

 そんな怜(と桜彩)を横目に瑠華はドカッと椅子に腰掛ける。


「はあ、でもやっぱり夏は暑いよねー。もう夜なのにさー」


「そりゃそうでしょうよ」


「ってわけでれーくん。冷たい物ちょーだいっ!」


 イラッ


「…………俺の冷たい視線で良ければいくらでも」


 傍若無人な要求をする瑠華へと冷たい視線を向ける怜。

 とはいえ一応台所へと向かい、グラスに麦茶を用意する。


「うんうん。なんだかんだ言ってもれーくんはやさしーよねーっ」


 差し出されたグラスを、まるでビールを飲むおっさんのような仕草で瑠華が嬉しそうに一気飲みする。

 いや、もう普段の仕草がすでにおっさんそのものなのだが。


「うんうん。優しい弟を持ってお姉ちゃんは幸せだよーっ」


「はいはい。ありがとうございます」


「あれー? れーくんもしかしてあたしをオトそうとしてる?」


「帰れ」


 少し優しくしてあげたら調子に乗ってすぐこれだ。

 それに怜がオトしたい相手はこの部屋にいるもう一人の方だというのに。


「…………」


 そちらの方へと視線を向けると、怜のオトしたい相手である桜彩がジトリとした視線を向けていた。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



(むぅ……。そ、そりゃあ怜と竜崎先生が仲が良いのは分かるけどさ……)


 目の前で怜と瑠華の気心の知れたやり取りを羨ましそうに眺める桜彩。

 この二人が長い付き合いでありそれなりの信頼関係があるのは分かってはいるのだが、面白くない物は面白くない。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「それでさ。れーくん、お姉ちゃんは今お腹空いてるんだよねー」


「そうですか。早く帰宅して食事にありついた方が良いのでは?」


「ってなわけでさ。何か作ってくれる?」


「…………」


 まるで会話が成立していない。

 言外に『食べさせる物はない』と言ったのだが、それを無視して要求される。


「てかスーパーの袋持ってるじゃないですか。スーパーで何か買って来なかったんですか?」


「あ、スーパーで買って来たのはビールとおつまみだよ。だかられーくん、ごはんお願いね」


 だから一社会人としてもっとまともな物を持って来いと言いたい。

 というか、つまみを買ってきたのならそれを食べれば良いだろう。


「つまみって、何を買ってきたんですか?」


「えっとね――」


 そう言って瑠華はスーパーの袋から食品を取り出す。

 中から出てきたのはチーズかまぼこ、焼き鳥、裂きイカ等々。

 本当につまみといった感じで思わず頭を抱えてしまう。


「スーパー寄ったんなら弁当でも買えば良かったじゃないですか」


「えー、だってれーくんの作るご飯の方が美味しいんだもん」


 ぷくっと頬を膨らませながら瑠華が抗議する。

 そう言われること自体は悪くはないが、しかし今のシチュエーションを加味して考えれば『何を言ってやがる』としか思えないのだが。

 加えてまだ作るとは言っていない。

 とはいえこのまま根負けするのはまあ決まっているのでしぶしぶと頷く。


「まあ良いですけどね。あ、そうだ。そのつまみも貰いますよ。それと俺と渡良瀬もご飯食べてないんで一緒に食べますからね」


 言いながら怜は冷蔵庫を開けて、先日出汁を取るのに使った煮干しの出し殻を取り出す。


「あの、私もお手伝いしましょうか?」


「いや、大丈夫だ。今回は簡単なものにするから」


 おずおずと桜彩がそう告げて来るが、ここで桜彩に手伝ってもらっては二人の関係を瑠華に感づかれるかもしれない。

 先日、家庭科部で行ったテスト勉強の時は、正に間一髪だった。

 いや、奏にはいつの間にか気付かれていたのだが。

 桜彩の申し出をやんわりと断って、怜はニンニクとショウガ、それに大根の葉をみじん切りにする。

 それらと煮干しの出し殻をゴマ油で炒め、甘辛く味付けし、ご飯の上に載せて完成だ。

 出汁を取った後の煮干しを有効利用したご飯のお供。


「わあ、美味しそーだねー」


「はい。とても良い香りです」


 テーブルまで運んだそれを見て、二人が目を輝かせる。


「はい。まだ行きますよー」


 先ほど瑠華が買ってきたツマミに野菜スティックを加え、大皿へと並べて持って行く。

 加えてポテトスナック(これも瑠華の買ってきたツマミである)に、お湯と数種類のスパイスを入れて、潰してかき混ぜる。

 これでスパイスの旨味の利いたマッシュポテトの出来上がりだ。


「つまみはこのマッシュポテトに付けて食べて下さいね」


 マッシュポテトディップを大皿の中央へと置いて、ついに料理の完成だ。


「それじゃあいただきます」


「うん。いただきまーす」


「いただきます」


 三人でそれぞれご飯を食べ始める。

 こうしていると、初めて桜彩がこの部屋でご飯を食べた時のことを思い出す。


「うんうん。やっぱりれーくんの作るご飯は美味しいね」


 煮干し飯を嬉しそうに頬張る瑠華。


「はい。このマッシュポテトを付けて食べるおつまみも美味しいです」


 桜彩も野菜スティックにマッシュポテトを搦めて、美味しそうに食べていく。

 美味しそうに食べてくれる二人を見ると怜も嬉しい。

 焼き鳥にポテトを付けて食べると、スパイスの利いたポテトと焼き鳥が絶妙に合う。


「ホントにれーくんは料理上手だよねー。こういうのを簡単に作っちゃうんだからー」


 そう言いながら瑠華はいつの間か開けていたビールをグイッと飲み込む。


「って瑠華さん、何飲んでんですか!」


「え? 何って見てのとーり、ビールだよ、ビール!」


 いつぞやと同じセリフを、いつぞやと同じように悪びれずに言ってくる。

 思わず頭を抱えてしまう怜。


「瑠華さん社会人でしょうが! 明日も仕事ありますよね!」


 明日は木曜日、社会人である瑠華は当然ながら出勤だ。


「それにアルコール飲んでどうやって家まで帰るつもりですか!」


 さすがに瑠華が飲酒運転をするとは思ってはいないが。


「ああ、だいじょーぶだいじょーぶ! だって明日有給使ったからお・や・す・みーっ!」


 アスコールで赤くなった顔でニコニコと笑いながら告げて来る。

 もう完全に酔っぱらい状態だ。


「だからさ、別に帰らないよ。ってなわけで、れーくん、泊めて」


 それを聞いた桜彩からの視線はより一層強くなっていった。

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