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【第九章完結】隣に越してきたクールさんの世話を焼いたら、実は甘えたがりな彼女との甘々な半同棲生活が始まった  作者: バランスやじろべー
第六章後編 将来の夢と夏休みに向けて

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第330話 進路調査② ~二人でレストランを(妄想)~

「進路、か……」


 ボランティア部の部室で作業をしながら桜彩が呟く。

 耳に入ったその言葉に怜はつい作業の手を止めてしまう。

 先ほど配られたプリントに目を落としながら考え事をしている桜彩の後姿を見ると、桜彩の選ぶ先が気になってしょうがない。


(まあ、せっかくだから聞いてみるか)


 これも良い機会、そう思って怜は先ほどの疑問を桜彩に問いかける。


「桜彩。ちょっと聞いて良いか?」


「え……? あ、どうしたの?」


 いきなり後ろから掛けられた声に少し驚きつつも、すぐに平静を取り戻した桜彩が不思議そうな目を向けて来る。


「桜彩は進路について、何か考えてるのか?」


 その問いに桜彩だけではなく陸翔と蕾華も反応して桜彩の方を向く。


「え…………。ううん、まだ何も考えてないかなあ」


 怜の問いに桜彩は作業の手をとめ、怜の方に向き合って答える。


「ほら、私の場合はいきなりの転校だったでしょ? だからさ、正直少し前までは普通に暮らしていくだけで精一杯だったから」


 心に傷を負って逃げるように転校してきた桜彩。

 確かに彼女にとってはそれを考える余裕などなかっただろう。

 しかし桜彩はにっこりとした笑みを浮かべて言葉を続ける。


「でもね、怜や蕾華さん、陸翔さんのおかげで今はもう大丈夫。今はもう前を向いて歩いていける。だからさ、まだ何も決まってないんだけどね、将来はどうしようかって考えるのも楽しいんだ」


 満面の笑みを浮かべる桜彩を見て、怜もドキリと心が弾む。


「ふふっ。ありがとね、怜。ありがとう、蕾華さん、陸翔さん」


「ああ、どういたしまして。まあお礼を言われることではないけどな」


「そうそう。困った時はお互い様だって」


「そうだよ。れーくんとりっくんの言う通り! アタシもサーヤと親友になれて嬉しいしさ!」


 そう言って四人で笑い合う。


(だよな。うん、今はまだ何も決まってない、だからこそ、将来について様々な可能性が広がるわけだよな)


 桜彩の方を見るとちょうど目が合い、共に笑みを浮かべクスリと笑う。

 将来、それは進学や就職だけではない。

 新たな出会いと新たな生活。


『『彼氏の所に永久就職』なんて書いちゃダメだからねーっ!』


 先ほどの瑠華の言葉が思い出される。


(願わくば、将来は桜彩と一緒に――)


 目の前で笑顔を向けてくれる愛しの女性の永久就職先になりたい。

 進学、就職、どのようなルートを辿ろうとも、そこにたどり着くことの出来るように。

 それが怜にとって目指すべき将来であることに違いはない。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 ボランティア部の活動を切り上げて、そのまま流れでリュミエールを訪れる。

 四人それぞれケーキと飲み物を注文して席に着き、美味しいケーキに舌鼓を打ちながら雑談に興じる。

 しばらくすると、会話の内容は先ほどの進路のことに戻っていった。


「まあ、四人に共通してるのは進学希望ってことくらいか」


 怜の言葉に残る三人がコクリと頷く。

 陸翔と蕾華は将来幼稚園で働くことを目標としており、その為に必要なことを大学で学ぶ予定だ。

 怜も桜彩も成績優秀者であり、進学というところまでは既定路線ではある。


「やっぱれーくんもサーヤもまだ方向性決まってないの?」


「ああ。俺の場合は何を目的に進学するかってのが全く考えつかないんだよなあ」


 好きな事、好きな教科、学びたい内容といったものは当然存在する。

 例えば怜の場合は料理が好きである。

 しかしそれを大学に行って専門的に学びたいかと言われれば、ノータイムで頷くことは出来ない。

 また、例えば数学そのものについても楽しみを見出してはいるのだが、だからと言ってそちらの道に進みたいということもない。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「好きなことを学ぶかって言われると、また別だもんね」


 桜彩としてもそれは同意だ。

 桜彩の場合は絵を描くのが好きではあるが、今はもう専門的に学ぶよりも趣味として好きな時に好きに絵を描く方が楽しい。

 そのことに気付かせてくれたのは、間違いなく目の前にいる三人なのだが。


「まあサーヤの場合はそうだよね。でもさ、れーくんはそれを仕事にすることに問題あるの?」


「え?」


「ほら、れーくんは料理が好きでしょ? だったらさ、将来料理人になりたいとか」


「あ、それ良いんじゃない!?」


 蕾華の提案にそれは名案だとばかりに同意する桜彩。

 毎日食べている桜彩としては、怜の料理は充分にお金が取れると思っている。

 まさに天職と言えるかもしれない。


「うんうん! 例えば海沿いに素敵なレストランとかを開業してさ、そこで料理人として腕を振るうの!」


「うん! 蕾華さんの言うのもアリじゃない!?」


 蕾華以上に乗り気になって目を輝かせながら身を乗り出す。


(ふふっ。それ、怜にとっても良く似合いそう! きっと繁盛するんだろうな)


 ゴールデンウィークに家族と共に訪れたレストランを思い出す。

 ああいった雰囲気の店で、大人になった怜が腕を振るう姿を想像する。

 こじんまりとした、それでいて明るく清潔な店内。

 そしてその傍らにはエプロンを着けた自分が公私ともに怜を支えている。


『すみませーん。注文良いですか?』


『はい。かしこまりました』


 店内のお客に呼ばれて注文を受けに行く。

 すっかり常連のお客様となった近所の奥方達と軽く世間話をした後、注文の内容を怜へと届ける。


『怜、注文入ったよ。オムライスとカルボナーラをお願い』


『分かった。すぐ作るよ』


『うん』


 奥の厨房で注文を受けた料理を笑顔で作る怜。

 出来た料理を丁寧に盛り付けて、そして


『桜彩、出来たよ』


 とても美味しそうなオムライスとカルボナーラの載った皿を差し出してくる。


『うん。それじゃあ持って行くね』


 笑顔でアイコンタクトを交わし、出来た料理を自分が客席まで運んでいく。

 お客様が帰り際に言ってくれた『美味しかった』という言葉を怜へと伝えると、怜が優しい笑みを浮かべる。

 閉店後は一緒に料理を食べて、一緒に洗い物をして。

 そしてまた次の日の仕込みをして。

 二人で切り盛りする素敵な店。

 幸せとはこのようなことを言うのかもしれない。


「おーいサーヤ」


 そんな未来を想像してしまい、意識が離れてしまった桜彩を蕾華が慌てて現実へと呼び戻す。


「え、あ……」


 自然と怜と一緒に店を切り盛りする自分の姿を想像、いや、妄想していたことに気付き、桜彩は顔を真っ赤にしてしまった。

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