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【第九章完結】隣に越してきたクールさんの世話を焼いたら、実は甘えたがりな彼女との甘々な半同棲生活が始まった  作者: バランスやじろべー
第六章中編 体調不良のクールさん

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第326話 汗を拭く必要は?

 本日の夕食はミネストローネうどん。

 たくさんの野菜とベーコンの入ったミネストローネに胃腸に優しくエネルギー補給出来るうどんを合わせてみた。

 大鍋に入ったそれをリビングのテーブルのドンと置くと、そこから美味しそうな香りが皆の鼻へと届く。


「わあっ! すっごく美味しそう!」


 さっそく桜彩が目を輝かせて鍋の中身を覗き込む。

 朝食、昼食共に雑炊しか食べていなかったので、食うルさんとしては待ち焦がれたということだろう。

 いや、もちろん雑炊も非常にに美味しく頂いたのだが。

 鍋からそれぞれの器に盛って皆で手を合わせる。


「風邪だからな。体力つけてくれ」


「ありがとっ! いっただっきまーす!」


 早速レンゲで熱々のミネストローネを掬うとふうふうと息を吹きかけて冷ましながら口へと運ぶ桜彩。

 一口目を口に入れると、期待に満ちていた顔が満足げな表情へとすぐに変わる。


「うんっ! とっても美味しいよ!」


「良かったよ」


「そう言えばミネストローネって肉巻きと一緒で私が初めて食べた怜の料理だよね」


 大雨で桜彩が食べるものが無くなった時、初めて食べた料理だ。

 当時のことを思い返すと感慨深い。

 あれから二人の関係も大きく変化した。


「そうだな。懐かしいよな」


「うん。もう三か月くらい前なんだよね」


「もう三か月か。いや、まだ三か月って言った方が良いのかな?」


「うーん、どうだろ。怜と出会ってからたくさんたーくさん、思い出が出来たからね」


「そうだな。本当にたくさんのことがあったよな」


「うんっ!」


 本当にたくさんのことがあった。

 出会って、食事を共にするようになって、そして徐々に仲良くなっていって。

 ついには恋心を抱くまでに。

 そんな今までの思い出を一つ一つ思い返しながら、皆で美味しそうにミネストローネを口へと運ぶ。


「そっか。サーヤが初めて食べた料理なんだね」


 レンゲの中のミネストローネを眺めながら蕾華が呟く。

 肉巻きについては四人の間でもしょっちゅう話題に出ていたのだが、ミネストローネについては話してはいなかった。

 いや、別に話すべき内容でもなかったのだが。


「まああの時はうどんは入ってなかったけどな」


「ふふっ、そうだね」


 あの時のメインは肉巻きだったので、ちゃんと主食である米があった。


「でもこのうどん、切ってあるんだよね?」


 ミネストローネの中のうどんはそのままではなく、全て一口大に切られている。

 だからこそ箸を用いずにレンゲだけで食べることが出来るのだ。


「ああ。そもそも普通のうどんは麺を楽しむものだけどさ、これはミネストローネだからな」


「そういうことかあ」


 納得したと言った感じでレンゲを口へと運ぶ桜彩。


「あとはミネストローネが服とかにハネにくいようにってのもある」


「あ、確かにそうだね」


 カレーうどんに代表されるように、うどんはすする時に汁がハネやすい。

 ミネストローネも服に付着してしまえば目立つし汚れを落とすのが面倒だろう。

 しかしレンゲで食べるのであれば、うどんであっても汁が服にハネにくい。


「うん。短いけどちゃんと噛み応えもあるしな」


 陸翔もうどんを噛みしめながら頷く。


「怜、おかわりっ!」


「はいはい。大盛りで良いんだよな?」


「うんっ! もう食欲も戻って来たからね!」


 差し出された桜彩の器に注文通りミネストローネの大盛りを返すと桜彩が嬉しそうな顔で受け取る。


「あ、オレも貰うぞ」


「アタシも!」


 陸翔と蕾華、それに当然怜もおかわりを食べる。

 少し多めに作ったのだが、この四人なら問題無く食べきれるだろう。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 夕食のミネストローネうどんは当然ながら四人で完食することとなった。


「あー、美味しかったあ」


「ホント美味しかったよね」


 食後、席に座ってゆっくりしながら雑談する。


「でも、ちょっと暑くなって来たかも」


 そう言いながら桜彩がパタパタと手で顔を仰ぐ。

 一応冷房は入っているのだが、それでも体内からの熱が体中を温めている。


「まあ、スパイス使ってるからな。そんなわけではい、これ」


「わあっ!」


 メインのミネストローネは食べ終えたので、陸翔が洗い物をしている最中に作ったデザートをテーブルへと置く。

 大皿に盛られたそれを見て、桜彩の表情がぱあっと明るくなる。


「ローストアップルとローストバナナだ!」


「ああ。前に俺が風邪引いた時と同じだな」


 以前風邪を引いた時に四人で食べたデザート。

 リンゴとバナナを一口大に切って、リキュールを掛けてオーブンで焼いた物にシナモンを掛ける。

 それにアイスと砂糖を煮詰めたカラメルソースも添えている。

 唯一違うとすれば、アイスが自家製ではなく市販の物であることだろう。


「「「「いただきます」」」」


 早速桜彩がリンゴをフォークに刺して口へと運ぶ――前に、その眼前に怜がそっと冷ましたリンゴを差し出す。


「ふーっ。はい、桜彩。あーん」


「あ……うん。あーん」


 怜の意図に気が付いた桜彩が口を開けて怜の差し出したリンゴをパクリと食べる。

 そして自分の手に持たれているフォークに刺さったリンゴを怜へと差し出す。


「ふーっ。怜、あーん」


「あーん」



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 お互いにデザートを食べさせ合う怜と桜彩を見て、陸翔と蕾華は苦笑を浮かべる。


「なんてーかもう普通にやってるよな」


「うんうん。あの時はお互いに凄く恥ずかしがってたのにね」


 思い返せば初めてこの二人の『あーん』を見たのも怜が風邪を引いた時だった。

 風邪を引いた怜の見舞いに訪れた時、まさにこの二人が『あーん』で食べさせ合っている所だった。


「もうあんな初々しい二人は見れないんだよね」


「それほど距離が近づいたって考えればまあ嬉しいんだけどな」


「うん。嬉しいんだけどちょっと物寂しいよね。あの反応も好きだったしさ」


「だよなあ。で、これでいてまだ恋人じゃないんだぜ、こいつら」


「恋人じゃないんだよね。あの時からもうずっと恋人みたいなことやってるんだけどさ」


 あの時は二人が恋人同士だと勘違いしたものだ。

 いや、実質的にやっていることは恋人同士なのだが。


「まあ、とりあえずオレ達も食べるか。ほら、蕾華。あーん」


「あーん!」


 そしてこの二組のバカップルは、全てのデザートをあーんで食べさせ合っていた。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「ご馳走様。ふう、満足したあ」


「うん。美味しかったよね」


 満足げに頷く桜彩と蕾華。


「それじゃあオレ達はそろそろ帰るな」


「うん。それじゃあね、二人共」


「ああ。それじゃあな」


「二人共、お見舞いありがとうね」


 玄関まで親友二人を見送る。

 扉を開けると湿気を含んだむわっとした温かい空気が襲って来る。


「ふう。夜とはいえ夏だしちょっと暑いよね」


「うん。さっきのデザートも温かかったしね」


 アイスも添えられていたとはいえ、リンゴもバナナもトロトロになるほど熱を通していた。

 故に少しばかり汗もかいてしまっている。

 それを目ざとく見つける蕾華。


「あ、サーヤ。ちょっと汗かいちゃった?」


「あ、うん。それに結構寝てたからその時にもね」


 それを聞いた蕾華が目をキラリと光らせる。


「そうだ! それなられーくん、サーヤの汗を拭いてあげたら!?」


「はっ!?」


「えっ!?」


 いきなりの提案に怜と桜彩、二人揃って真顔で大声を上げてしまう。

 いったいこの親友は何を言い出すのか。


「いや、何言ってんだよ!」


「か、身体を拭いてって……!」


「え? 何ってサーヤ、汗かいちゃったんでしょ? このままじゃ嫌じゃん。だからさ、れーくんが汗を拭いたらどうかなって」


「拭いたらどうかな、じゃねえよ!」


 慌ててツッコミを入れる怜。


「そ、それって……私が、怜に、その……」


 一方で桜彩の方はある意味いつも通りあわあわと慌ててしまっている。


「ねえサーヤ、そのままじゃ嫌だよね!? 汗、拭きたいよね!? れーくんに拭いてほしいよね!?」


「あ、え、えっと……」


「いや待て落ち着け! この後すぐに風呂に入れば良いだけだろうが!」


「あ…………」


 怜の言葉で桜彩が正気に戻る。

 もう体調も戻っている為に、桜彩が一人で風呂に入ることには何の問題もない。

 蕾華にからかわれたことに気付いて桜彩の顔が真っ赤になる。


「ら、蕾華さんっ……!」


「あははっ! サーヤ、可愛い! それじゃあねっ!」


「んじゃなーっ!」


 言いたい事だけ言って親友二人はエレベーターの方へと向かって行った。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 もちろんこの後、怜が桜彩の背中を拭くということは無く、それぞれ別々に風呂に入って汗を流した。 


(で、でも怜に拭いてもらうってのも、私は嫌じゃないんだけどな……)

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 拭いてあげて! 初々しく!
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