第317話 ダブルデートの終わり ~就寝前の二人~
怜が風呂から上がった後、昨夜と同じように桜彩がケアを手伝ってくれた。
その後、桜彩も風呂に入り今度は怜が同じようケアを手伝う。
それが終わるとソファーに並んで座ってゆっくりとルイボスティーを飲む。
「ふふっ。怜にケアしてもらうのって幸せだなあ」
「それは俺だって。桜彩にケアしてもらうのも、桜彩をケアするのも幸せだよ」
「うん。私も」
愛しい人とこうして触れ合える。
その素晴らしさに胸の中が温かくなる。
「くんくん。怜、いい香り」
「くんくん。ああ、桜彩も良い香りだ」
密着して座る桜彩が怜に鼻を近づけると、怜も同じように鼻を近づけて風呂上がりの香りを堪能する。
「ふふっ。私と怜、同じ香りだね」
「ああ。同じ香りだな」
昨日から使い始めた桜彩と同じバス用品。
必然的に風呂上がりの二人から漂う香りは似たものになる。
「私、怜の香り、好きだなあ。なんだか落ち着くっていうか」
「俺だって桜彩の香り好きだぞ」
「ふふっ、ありがと」
「俺の方こそ」
お互いに同じ香りを堪能してクスリと笑い合う。
が、その内心は――
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
気が付けば怜に顔を近づけてその香りを嗅いでしまった。
大好きな人に顔を近づけて香りを嗅ぐ、そして香りを嗅がれる。
こうして好意を自覚するととても恥ずかしい。
(い、今の私、ふ、普通だったよね……? れ、怜に変に思われてないよね……?)
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
気が付けば桜彩に顔を近づけてその香りを嗅いでしまった。
大好きな人に顔を近づけて香りを嗅ぐ、そして香りを嗅がれる。
こうして好意を自覚するととても恥ずかしい。
(い、今、普通に出来てたよな……? さ、桜彩から変に思われてないよな……?)
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
桜彩と別れた後、怜は明日の支度を終わらせてから寝室へと入る。
すると当然ながら怜の目に映るのはベッド。
「……昨日、桜彩と一緒に寝たんだよな」
思い出されるのは昨夜の出来事。
まさか初恋を自覚したその夜に、その相手と同じベッドで眠ることになるとは思わなかった。
思い返すだけで顔が赤くなるのが分かる。
「うぅ…………」
朝などは寝ぼけた桜彩が甘えてきて、もう理性が崩壊寸前まで行ってしまった。
「ま、まあ、幸せではあったけど……」
出来る事なら、また同じように桜彩と共に眠りに就きたい。
そんな考えが頭に浮かんでしまい、慌てて頭を振る。
(ま、まだ告白すらしてないし……。い、いや、例え恋人になったからといって、同じベッドで眠るのが普通ってわけじゃないし……)
昨夜はあくまでも桜彩が陸翔と蕾華の口車に乗せられてしまっただけ。
普通であれば、交際しているとはいえ高校生の男女がお互いの部屋にお泊まりすることなど(怜の常識では)そうそうあることではない。
「と、とにかく寝るか!」
とりあえず眠りに就いてさえしまえば、この邪な考えも霧散するだろう。
そう思って目覚ましをセットし、ベッドに入り部屋の電気を消す。
しかしこれがまずかった。
真っ暗な部屋の中、視覚を断たれてしまった為か、他の五感が敏感になってくる。
そう、このベッドは昨夜桜彩と共に使ったベッド。
日中は陸翔と蕾華の使った布団を干していた為に、この寝具は今朝起きた時のままだ。
布団や枕からほんのりと香ってくるいつもとは違う香り。
(こ、これ、桜彩の香り、か……?)
もしかしたら気のせいかもしれないのだが、一時に気になってしまうと意識がそちらへと引っ張られてしまう。
無意識の内に怜は顔を動かし、昨夜桜彩の寝ていたスペースへと鼻を向ける。
しかしそれがまずかった。
先ほど風呂上がりで桜彩と密着した際のボディーソープやシャンプーの香りを強く思い出してしまう。
「うぅ…………。と、とにかく寝よう!」
そう勢い良く掛け布団をバッと顔を隠すように被ったのだが、それが更にまずかった。
(て、ていうか、これも桜彩が昨夜使った……)
掛け布団を顔に被ったことで、桜彩の使った布団とより密着してしまう。
(こ、こんなのどうすれば良いんだよ……。そ、そうだ、こういう時は深呼吸して一度心を落ち着けて)
「すー……」
深呼吸しようと大きく息を吸う。
しかし桜彩の使った布団をかぶったままそんなことをすれば、それを大きく吸い込むということで。
「う……」
今の状況を客観的に考えてみれば、愛しい人の使った布団をかぶってその香りを堪能しているということだ。
(こ、これじゃあまるで変態じゃないか……)
とにかくいますべきことは普通に寝る事、それだけだ。
(ひ、羊を数えよう……。羊が一匹、羊が二匹……)
しかし桜彩のことを考えないようにしようと思ったところでそう簡単に精神を無にすることなど出来はしない。
考えないようにしよう、心を無にしようとしても、桜彩の残り香が無意識の内に怜の思考を桜彩のことへと誘導してしまう。
(羊が五匹、羊が六匹……。そうか、桜彩と一緒に牧場デートもしてみたいよな。一緒に羊を見たり……ってそうじゃない!)
頭の中に浮かんでしまったそれをかき消そうと思えば思うほど、頭の中が牧場デートに支配されてしまう。
(馬に乗って並んで進んだり。あっ、牧場で売ってる牛乳とかレストランのチーズとかも美味しそうだよな……)
牛乳を飲んだりチーズをあーんで食べさせ合ったりすることを妄想してしまう。
(ってだから違う! と、とにかく羊を数えないと! 羊が九匹、羊が十匹……。もし、この羊が桜彩だったら……)
十人の桜彩に囲まれたところを想像してしまう。
それはそれで幸せではあるかもしれないが、色々と大変そうだ。
(いや、そうじゃなくて……!)
この後、怜が眠りに就くまでにはまだまだ時が必要そうだ。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
怜と別れた後、桜彩は明日の支度を終わらせてベッドへと体を預ける。
「き、昨日、怜と一緒に寝たんだよね……」
掛け布団を掛けて電気を消すと、思い出されるのは昨夜の出来事。
陸翔と蕾華の口車に乗せられたとはいえ、まさか初恋を自覚したその夜に、その相手と同じベッドで眠ることになるとは思わなかった。
思い返すだけで顔が赤くなるのが分かる。
「うぅ…………」
それに朝は寝ぼけて怜に抱きついて、何度も名前を呼んで、名前を呼んでもらって。
正気に戻った後は恥ずかしさでもう溶けてしまいそうになった。
「ま、まあ、幸せではあったけど……」
出来る事なら、また同じように怜と共に眠りに就きたい。
そんな考えが頭に浮かんでしまい、慌てて頭を振る。
(ま、まだ告白もしてないし……。そ、それに恋人になったからって、同じベッドで眠るのかって言えばそういうわけでもないし……)
昨夜のあれはあくまでも特別。
ダブルデートという雰囲気に流されてしまっただけの事。
「で、でもまた一緒に寝たいな……。あ、そうだ。またダブルデートして四人で怜の部屋に泊まれば一緒のベッドで寝ることに……」
四人で怜の部屋に寝るとなれば、おそらく昨夜と同じように怜と同じベッドで眠ることが出来るだろう。
「そ、そうだ。蕾華さん達に、またダブルデートしたいって言えば、もう一回怜と同じベッドで……。う、ううん、け、決してそれだけが目的ってわけじゃないけど!」
誰に言い訳するでもなく声を大きくしてしまう。
もちろんダブルデートはそれ自体が楽しいことは分かり切っており、そちらがメインである。
決して怜と同じベッドで寝る事を目的としてデートするわけではない。
(うぅ…………)
顔を赤くして思わずれっくんを抱きしめる。
(あ、そ、そう言えば……)
思い出されるのは、昨夜のベッドの中での出来事。
『その……俺に似てる子を桜彩が抱きしめて寝てるってのが……』
怜に似ているれっくんを抱きしめて寝ている。
それはつまり、無意識の内に怜だと思って抱きしめて寝ているのではないのか。
(うぅ……。で、でも、いつかは怜を……)
怜をれっくんと同じように抱きしめて眠りに就きたい。
そうなればどれほど幸せな気分になれるのだろうか。
(い、いや、そうじゃなくて……!)
この後、桜彩が眠りに就くまでにはまだまだ時が必要そうだ。
第六章の前編はここで終了となります。
この後の展開ですが、中編、後編は夏休みの始まりまでの助走区間ということで、これまでに比べて短めにするつもりではあります。
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話の展開が遅い、とっとと二人がくっつけ、といった内容でも構いません。
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(あくまでもifという扱いです)




