第314話 罰ゲーム① ~という名の膝枕~
昼食の後は再びゲーム。
先ほどとは違い、世界一有名な配管工とその仲間が星を集めるすごろくゲームだ。
これに関しても四人共本気で勝利に向かって真剣勝負を繰り広げた。
結果、トップは今回も蕾華であり、最下位は怜となった。
「ふふふ。さあて、れーくんの罰ゲーム二つ目。どうしようかなあ」
罰ゲームを決める立場である蕾華が目を輝かせる。
一方で怜の方は何をされるか心配で背中に冷や汗が流れる。
まあ怜としても相手が瑠華ならばいざ知らず、蕾華であれば本気で嫌がることはしてこないのは理解している。
しかしその絶妙なラインを攻めるのが目の前の親友であるということも同時に理解している。
「確かに俺の負けだから罰ゲームは受け入れるけど、お手柔らかにな」
とりあえず言うだけ言ってみる。
おそらく聞き入れてくれることは無いだろうが。
「うんうん! 分かってるって!」
ニマニマと笑って答える蕾華だが、怜としてはこれまでの経験上全く信用が出来ない。
どうしようかと周囲を見ると、時計が十五時を示していた。
「とりあえずそろそろいい時間だし、お茶淹れるよ」
罰ゲームから話を逸らす為にもそう提案する。
「それじゃあアタシはサーヤと罰ゲームの内容考えてるから、りっくん手伝ってもらえる?」
「いや待て。何で桜彩と一緒に考えるんだよ」
ニヤニヤと提案した蕾華に怜が苦言を制す。
三人寄れば文殊の知恵、というわけでもないが、二人揃えばよりロクでもない内容の罰ゲームを思いつくかもしれない。
「別に良いじゃん。れーくんの罰ゲームなんだからサーヤと一緒に考えたって」
「それじゃあ怜、行こうぜ」
まだ抗議しようとした怜だが、陸翔が怜の肩を引き寄せて来る。
腑に落ちないが、とはいえお茶の時間であることは確かなので陸翔と二人でキッチンへと向かう。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「――――ってのはどう?」
「えっ……ええっ!? そ、それは、恥ずかしすぎて――」
「だからさ――」
「た、確かに――」
リビングから桜彩と蕾華の声が聞こえてくるが、とはいえ怜に聞こえない程度の声量で話しているようで具体的なところまでは分からない。
いったいどのような罰ゲームになるのか今から戦々恐々だ。
「お湯沸かしとくぞ」
「あ、ああ。頼む」
陸翔に声を掛けられて意識をそちらの方へと戻す。
お湯の方は陸翔へと任せて、その間にお茶菓子の用意をする。
甘さ控えめのミニワッフルを大皿へと載せ、お茶と一緒にリビングへと戻る。
「お待たせ」
「あっ……! う、うん…………」
お茶の準備を終えて戻ると、何やら桜彩が慌てたように勢いよく振り返る。
「どうかしたのか?」
「う、ううん……! なんでもないよ! あっ、お菓子はミニワッフルだね!」
真っ赤な顔で早口でまくし立てる桜彩。
誰がどう見ても何かあったリアクションだ。
とはいえツッコむのは一旦横に置いて、陸翔と共にソファーへと座る。
ちなみにゲーム中と違って、桜彩も蕾華も怜や陸翔に背中を預けるような座り方ではなく普通に座っている。
「それで、怜の罰ゲームは何になったんだ?」
お茶を飲みながら陸翔が問いかける。
怜としてはこのまま有耶無耶にしたかったのだが、当然そうは問屋が卸さなかったようだ。
「あ、それなんだけどさ。れーくん。後でサーヤの命令聞いてあげて」
「…………え?」
「いや、だからアタシの分はサーヤに任せたから」
「…………まあ、良いけどさ」
それはそれで構わない。
むしろ蕾華による命令よりもよほど安心出来る。
そう胸を撫で下ろした。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
その後は再びゲームをしたりしながら過ごし、夕食を食べ終えたところで親友二人が帰宅する。
本当に内容の濃い二日間だった。
「いやあ、それにしても本当に楽しかったよ」
「うん。私も」
親友二人が出て行った玄関の扉を見ながらそう呟く。
間違いなくこれまでで最高の誕生パーティーだった。
「あ、あのね……怜、その、ば、罰ゲームのことだけど……」
すると桜彩が戸惑うようにその話題を振ってくる。
「あ、ああ。蕾華の言ってた奴だよな」
「う、うん……。それでね、ちょっと自室の方で用意して来るからリビングで待っててくれるかな?」
「用意?」
「う、うん……」
恥ずかしそうに怜の言葉に頷く桜彩。
「分かった。それじゃあ待ってるよ。玄関の鍵は開けておくから」
「うん。その、す、すぐに戻ってくるから……」
そう言って一度桜彩が自室へと戻る。
(用意っていったい何だ……?)
それこそ道具を使った罰ゲームとしてはケツバットをはじめとして色々と想像が出来るのだが、蕾華ならともかく桜彩に限ってそういったことは無いだろう。
考えていても分からないので、一度リビングへと戻る。
しばらくすると玄関の扉が開く音がして、数秒後に小さな袋を抱えた桜彩がリビングへと現れた。
そのままソファーへと移動し腰掛ける。
「桜彩?」
「え、えっと……怜、どうぞ……」
怪訝そうに問いかけると、そう言って桜彩が自らの太ももをパンパンと叩く。
どうぞと言われてもどうした良いのだろうか。
「えっと……どうぞって……?」
「う、うん……。その、膝枕……」
「え、えっと……これが罰ゲーム?」
「ば、罰ゲームって言うか、その準備って言うか…………。ほ、ほら、早く早く!」
ごまかすように少し大きな声を上げた桜彩に、強引にソファーへと座らせられる。
(いや、まあそれが罰ゲームなら望むところなんだけど……)
そもそも怜としては桜彩に膝枕をしてもらうのはとても心地が良い。
罰ゲームどころかご褒美だ。
「そ、それじゃあ……」
何をされるか分からないながらも、そっと桜彩の太ももへと頭を載せる。
相変わらず気持ちの良い感触と体温が触れた箇所から伝わってくる。
(っていうか、これ、桜彩の…………)
これまで膝枕は何度かやってもらったことがあるのだが、こうして恋を自覚してからは初めてだ。
大好きな人に膝枕をしてもらっているという幸せに改めて感動してしまう。
「こ、このまままで良いのか?」
「あ、ううん。その、顔をこっちに向けて」
「あ、ああ。こ、こうか?」
言われた通りに顔を桜彩の方へと向ける。
すると先ほどは髪の毛越しだった桜彩の太ももの感触がスカート一枚を間に挟んでいるとはいえ頬から伝わってくる。
嬉し恥ずかしと戸惑っていると、上に向けている側の頬にそっと桜彩の手が差し伸べられた。
「桜彩?」
慌てて視線だけを上に向けようとするが、桜彩のその豊満な胸部に遮られて顔を見ることは出来ず、むしろ恥ずかしさが倍増してしまう。
幸い、と言って良いか、桜彩本人からも自らの胸部により怜の顔が見えていないので、視線に気付かれることは無かったが。
「それじゃあじっとしててね」
頭でも撫でてくれるのか、そう思ったのだが頭部に当てられていた桜彩の手が一度離れ、頬にやわらかく軽い物が載った。




