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【第九章完結】隣に越してきたクールさんの世話を焼いたら、実は甘えたがりな彼女との甘々な半同棲生活が始まった  作者: バランスやじろべー
第六章前編 ダブルデート ~お家デート~

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第305話 暗闇の中、同じベッドで

 同じベッドに入って早十分が経過した。

 そろそろ目もこの暗さに慣れてきており、大まかな部屋の配置も見えるようになってくる。

 しかしそれだけの時間が経とうとも、恥ずかしさから怜も桜彩も全然眠気が訪れない。


「そ、そう言えばさ、桜彩はれっくんと一緒に寝てるのか?」


 恥ずかしさをごまかすように怜が話題を口にする。

 ベッドに入る前から桜彩はれっくんを抱えており、電気を消すまでどこかへと置くことは無かったはずだ。

 故に今も桜彩の右手にはれっくんが抱えられたままとなっている。

 当然だが左手の方は怜の右手としっかりと繋がれている。


「う、うん……。その、怜に貰ってからずっと一緒に抱いて寝てるから……」


「そ、そっか……そうなんだ…………」


 桜彩の返事を聞いた怜の胸の内に何かモヤっとしたものが生じた。

 自分がプレゼントした自作のぬいぐるみ、れっくんをとても大切にしてくれているのは良く分かる。

 毎晩抱いて一緒に寝ている、それを聞いて当然嬉しくもあるのだが、それでも――


(そっか……。れっくんは毎晩桜彩と一緒に寝てるのか……)


 ぬいぐるみとはいえ桜彩と一緒に寝ている。

 その事実を聞いて自分でも気が付かないうちに嫉妬心が生まれてしまう。

 しかし桜彩はそんな怜の心の内まで読むことは出来ない。

 むしろ怜のくれたプレゼントであるれっくんとのことをどんどん語っていく。


「これ、とっても抱き心地が良いんだ。モフモフしてて」


 嬉しそうにれっくんに頬を当ててそうアピールする。

 桜彩としては怜のくれたプレゼントを大切にしているということを怜に伝えたいという思いもある。

 しかし今この時に限ってそれはむしろ逆効果となってしまっている。

 むろん怜としても桜彩がれっくんを大切にしてくれているのは嬉しいのだが。


「あの、桜彩。そのな、れっくんを大切にしてくれるのは嬉しいんだけどさ、一緒に寝るのはちょっとやめた方が……」


「えっ!? 何で!?」


 怜の言葉に桜彩が驚く。

 それも当然だろう。

 せっかく貰ったプレゼントを大切にしていると言っているのに、なぜ怜は喜んでくれないのか。

 一方で怜の方も今の自分の発言に頭を悩ませる。


(うぅ……。桜彩が大事にしてくれてるのは嬉しいはずなのに……。何でこんな事言っちゃったんだ……)


 つい考えるより先に言葉が出てしまった。

 気が付けば桜彩が悲しそうな顔をしているのを見て自分の発言を後悔してしまう。


「そ、そのな、ぬいぐるみと一緒だと、ベッドの空間が限られて体の動きが制限されるから、寝返りがうちにくくなったりして睡眠の質に悪影響を及ぼす可能性ってのもあるんだ……」


 一応それは本当の事ではある。

 もちろん本心とは違う理由だが。


「そ、そうなの……?」


 悲しそうな表情で桜彩の視線が怜とれっくんの間を行き来する。

 暗闇により怜がその表情を見ることは出来ないが、それでもその声色から悲しんでいることは理解出来る。


(うぅ……。なんて言うか……なあ…………)


 そんな怜の反応に桜彩もれっくんをぎゅっと抱いて問いかける。


「ねえ怜……。その、やっぱり一緒に寝るの、やめた方が良い……?」


「う…………。あ、で、でも桜彩のベッドもまあそこそこ大きいし、それなら大丈夫、かな……?」


 慌てた怜が言い訳のようにそう口にしてしまう。


「そ、そうなんだ。良かったあ……」


 桜彩がれっくんを先ほどよりも強く抱きしめる。

 それを見て更に怜の胸がモヤっとしてしまう。


「そ、その……好きにして良いと……思う……」


「う、うん。そっか。怜がそう言ってくれて良かったよ」


「あ、ああ。それに、贈った物を大切にしてくれるのは俺も嬉しいしな」


 それも間違いなく怜の本心ではある。

 だからこそこの葛藤に悩んでいるのだが。


「そっかそっか。うん。怜がそう言ってくれて私も嬉しいな」


 そう言って桜彩がにへらっと微笑む。

 暗闇の中、それでもその言葉で桜彩が安堵してくれたのは分かった。


「その、ごめんな。変な事言って」


「ううん。怜は私のことを思って言ってくれたんでしょ?」


 無邪気に桜彩が問いかけて来る。

 しかし怜が考えていたのはそんな理由ではない。


「そ、その……、な…………。俺が桜彩にれっくんと一緒に寝るのはやめた方が良いって言ったのは……」


「え……?」


 はたしてその理由は何なのか。

 傍から見れば嫉妬以外の何物でもないのだが、怜にはそれが分からない。


「その……ちょっと恥ずかしかったって言うか……」


「え? 恥ずかしい?」


 怜が恥ずかしいという理由が桜彩には分からない。

 それならばむしろぬいぐるみを抱いて寝ている自分の方ではないのだろうか。


「その……桜彩が前に言ってただろ……? れっくんは俺に似てるって」


「う、うん……」


『ふふっ。なんだかこの猫ちゃん、怜に似てる気がする』


『うん。ほら、さっき言ったでしょ? この子、なんだか怜に似てるって。だかられっくん! ねえ怜、れっくんじゃダメかなぁ……?』


 当然それは桜彩も覚えている。

 だからこそこのぬいぐるみには怜の名前から取った『れっくん』という名前が付けられたのだ。


「その……俺に似てる子を桜彩が抱きしめて寝てるってのが……」


「あ……う、うん……そうなんだ……。あ、で、でもね……。その……私、寝る時だけじゃなく、怜の部屋に来る時もいつもれっくんを持って来てるでしょ?」


「ああ」


「だからさ……。その、これからも怜を恥ずかしがらせちゃうかも……」


「え……?」


「だ、だってね……。私はさ、怜から貰ったこのれっくんも大好きだし……。だからね……、家ではいつも怜と一緒にいるから、いつも怜を恥ずかしがらせちゃうかなって……」


 恥ずかし気に桜彩がそう呟く。


「そ、そっか……。ま、まあ、うん。それはそれで構わないからな。さっきも言ったけど、俺が桜彩にプレゼントしたれっくんを大切にしてくれるのは俺にとっても嬉しいからさ」


「うん。ありがと」


 桜彩の安心したような声を聞いて、ひとまず怜も話を区切ることにする。


(うぅ……。なんだかすごく変な事言っちゃったな……)


 掛け布団の中で悶々としてしまう。

 一方で桜彩の方も、怜の言葉を聞いて嬉しそうに再びれっくんをぎゅっと抱きしめる。

 そこで桜彩は先ほど怜に言われたことを思い出す。


『その……俺に似てる子を桜彩が抱きしめて寝てるってのが……』


 その言葉の意味を考えて、一瞬遅れて桜彩の顔が沸騰するように真っ赤に染まる。


(え、えっと……つまり……。た、確かに怜に似てるれっくんを抱えて寝ているってことは、怜を抱えて寝ているのと同じってことじゃ……。う、ううん、そ、それだけじゃなくて、私、これまでれっくんのことを怜だと思って抱きしめたりしてたってこと……?)


 言い換えれば自分は今も怜を抱きしめて寝ているということで――


(う、ううん! に、似てるだけでれっくんはれっくんだから! ま、まあいつかは怜を抱きしめてっていうか抱きしめられてっていうか…………)


 れっくんも大好きだが、それ以上に怜を抱きしめたいし抱きしめられたい。

 その未来を想像してしまい、一瞬遅れて正気を取り戻す。


(っていうか、明日から寝る時に毎回頭をよぎっちゃうんじゃ……)


 二人にとって幸いだったのは、この暗さでお互いの顔がそこまで良く見えなかったことだろう。

 もし昼のような明るさだったらもうどうなっていたか分からない。


「そ、それじゃあもう遅いし寝ようか……」


「う、うん……おやすみ、怜……」


「おやすみ……」



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



『ねえ れーくんが凄く可愛いんだけど』


『だよなあ ぬいぐるみに嫉妬しちゃってるよなあ』


『まさかれーくんがこんな風になるなんてね』


『恋は人を変えるって言うけど』


『変わり過ぎだよね まあ今のれーくんもサーヤも好きだけどさ』


『そうだよな 早く告白してくれないかな』


 むろんこの親友二人が既に寝ていることなどありえない。

 起きていることを悟られないように、掛け布団の中でスマホを操作してメッセージを送り合っていた。

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