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【第九章完結】隣に越してきたクールさんの世話を焼いたら、実は甘えたがりな彼女との甘々な半同棲生活が始まった  作者: バランスやじろべー
第六章前編 ダブルデート ~お家デート~

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第297話 ダブルデートは終わらない

 ピンポーン


 怜が隣に座る桜彩と共に誕生日プレゼントで貰ったデジタルフォトフレームを眺めているとインターホンが鳴った。

 確認すると予想通り陸翔と蕾華がエントランスに到着したとのことだったので、自動ドアの解錠操作をする。


「それじゃあ玄関開けてくるよ」


「うん」


 玄関の鍵を開けるしばらくすると二人が到着した。


「お待たせ―」


「買ってきたぞー」


 色々な料理を袋ごとテーブルへと置いた二人が手を洗いに洗面所へと向かっている間、怜と桜彩で皿や飲み物の準備を進めていく。

 二人が買って来たのはピザやチキン、ポテトといったいかにもパーティー風のラインナップだ。

 ひとまずテーブルへと並べ終えると、その量に驚愕する。


「結構量があるよな」


「うん。四人で食べるにしても多いよね」


 四人とも健啖家かつ昼にたくさん遊んでおなかが空いているとはいえ、それにしても量が多い。

 それに加えてケーキもある。


「まあ残ったら明日に回せばいいしな」


「そうだね」


「とはいえ食う……」


 食うルさんなら全部食べそうだけどな、と言い掛けたところで怜は慌てて口をつぐむ。

 先日口を滑らせた時に、桜彩から制裁を食らったことは記憶に新しい。


「む……。怜、今なんて言いかけたの?」


 だがそれを聞き逃す桜彩ではない。

 途中まで口に出て締まった言葉に桜彩が訝しむような表情で覗き込んでくる。


「い、いや、別に何も……」


 慌ててしらを切っておく。

 正直に答えれば当然ながら間違いなく制裁が加えられるだろう。


「そう? もしかして、前みたいに『食うルさんなら全部食べそう、とか思ってたんじゃないの?」


「お、思ってないって! 桜彩の考えすぎだよ!」


 ダイエットメニューを作った時に口が滑ったことを根に持っているのか、桜彩が睨むような視線を向けて来る。


「ふうん……。それじゃあ今なんて言おうとしたのかな?」


「え……?」


「『とはいえ食う……』って言ったよね? 食うルってお言おうとしたんじゃないんなら、その続きは何なのかな?」


「そ、それは……、そ、そう! 『とはいえ食うのには時間が掛かる』って言おうとしたんだ!」


「へえ、そうなんだぁ……」


 当然ながらまるで信じていないとういうように、桜彩の表情は変化しない。

 いや、もちろんごまかせるとも思っていなかったが。

 とはいえ一応筋が通っている為に、ここで自白しなければ何とかやり過ごすことが出来るだろう。

 しばらく二人で無言で見つめ合う。

 桜彩の視線のプレッシャーを受け、緊張感から怜の背中に冷や汗が流れる。

 すると突然桜彩はふぅと表情を緩め、優しい目で怜を見てくる。


「ねえ、怜。怜は私に嘘なんてつかないよね?」


「え……?」


「私は怜が誠実だって信じてるから。だから怜は嘘なんてつかないよね?」


 両手を胸の前で握った桜彩が、優しい目を向けながらそう言葉を掛けてくる。

 表面上はとても穏やかだが、ピリピリとした空気が桜彩から発せられているのが良く分かる。


「え、えっと……」


「ねえ、怜。本当はさっき何て言おうとしたのか教えてくれる?」


 笑みを絶やさぬまま、ゆっくりと怜の方へと近づいて来る。

 もうごまかすのは難しい。

 ここはあえて無言でやり過ごそうかと考える。


「怜。今なら正直に言えば、さっき嘘を吐いたことは許してあげるよ」


 ついに怜の目の前まで距離を詰めてきた桜彩が、一見温かな表情でにっこりと笑ってそう告げて来る。


「ほら。今日は怜の誕生日なんだしさ。だから正直に言えば嘘を吐いたことは許してあげるって」


「……………………ごめんなさい。食うルって言おうとしました」


 ついに正直に自白する怜。

 すると桜彩はにっこりとした笑みを浮かべたまま


「そっか。うん。正直に言ってくれたから、嘘を吐いたことは許してあげるね」


「あ、ああ。あ、ありがと……」


 何はともあれ助かった。

 そう思った怜が気を抜いた瞬間、先ほどまでの優しかった表情から一転、目を吊り上げた桜彩がいきなり両頬を掴んでくる。


「また! 食うルって! 言った! なあっ!!」


 気付いた時には怜の両頬は思い切り左右に引っ張られていた。


「ちょっ、ちょっと! 許してくれるって言ったじゃん!」


 桜彩が許してくれると言ったから自白したのだ。

 それなのにこの仕打ちは酷いだろう。

 しかし桜彩は怜の両頬を引っ張ったまま


「嘘を! ついたことは! 許すって! 言ったよ! でも! 食うルって言ったことまで! 許すなんて! 言ってないからね!」


「ずるい……!」


 確かにそうかもしれないがこれはないだろう。


「反省! しなさい!」


「ぎゃぅっ! 痛い! わっ!」


「きゃっ……!」


 頬を引っ張られてバランスを崩してしまう。

 慌てて桜彩をかばうように抱き寄せて背中から床へと倒れ込む。


「だ、大丈夫か……?」


「う、うん……。ありがと……あ…………」


「え……? あ…………」


 そのまま至近距離で見つめ合う二人。

 すぐに二人の顔が真っ赤に染まっていく。


(さ、桜彩の顔がこんな近くに…………。こ、これまでも恥ずかしかったけど、今は、もっと…………)


(れ、怜の顔がこんな近くに…………。こ、これまでも恥ずかしかったけど、今は、もっと…………)


 これまでにもこのような至近距離で向かい合ったことは何度もあった。

 そのたびに恥ずかしい思いをしていたのだが、今回はそれに輪をかけて恥ずかしい。

 二人共顔が熱くなって心臓がせわしなく動いているのが自分でも分かる。

 恋をしている相手の顔がこんなにも近くにある。

 自分の顔を少しでも動かせば触れてしまいそうな距離。

 少し視線を動かせば、相手の唇が目に映る。

 理性が揺さぶられる。


「さ……や…………」


「れ……い…………」


 相手の息遣いが聞こえてくる。

 触れ合った胸から相手の心臓の鼓動が伝わってくる。

 頭の中が相手の事だけでいっぱいになってしまい何も考えられない。


(恥ずかしすぎだろこれ……)


 顔を真っ赤にした怜が桜彩から視線を逸らしてしまう。


「ん…………?」


 視線の先にあるのはリビングの扉。

 その扉がいつの間にか開かれており、洗面所からいつの間にやら戻って来ていた親友二人の顔がそこにあった。

 よく考えればそれも当然だろう。

 ただ手を洗って来るだけのことで、さして時間が掛かるわけもない。

 一拍遅れて怜の上に乗っている桜彩も二人がいることに気が付く。


「…………」


「…………」


「…………」


「…………」


 リビングから音が消える。

 四人の視線が絡み合う。

 そして


「あ、うん。続きどうぞー」


「ごゆっくりー。オレ達のことは気にしないで良いからなー」


 スマホを向けながら淡々とそんなことを言ってくる親友二人。

 それを見て怜と桜彩が正気に戻り、慌てて床から跳ね起きる。


「ってちょっと待ておい! 続きって何だ!」


「いやー、なんかお邪魔だったかなって!」


「じゃ、邪魔なんかじゃないから!」


「いや、別に良いんだぞ。終わったら声掛けてくれ」


「だから誤解だああああああああ!」


「そ、そうだよ!」


 その後、必死に怜と桜彩が弁明して親友二人の疑いは晴れることとなった。

 いや、少し違う。

 この二人は実は一部始終を眺めていた為に説明の必要は無かったのだが。

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