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【第九章完結】隣に越してきたクールさんの世話を焼いたら、実は甘えたがりな彼女との甘々な半同棲生活が始まった  作者: バランスやじろべー
第五章後編 ダブルデートと恋心の自覚

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【番外編】第296話 プレゼント選び③ ~初めてのお給料~

「それじゃあサーヤ、そろそろ行こっか!」


「あ、うん。それでは失礼しますね」


 ケーキも食べ終えたのでそろそろ本来の目的を果たさなければ。

 怜へのプレゼント選びの為にショッピングモールへと足を向けようと席を立つ。


「あ、ちょっと待って!」


 二人が店の外へと出ようとしたところで慌てて望が追いかけて来たので足を止めて振り返る。


「どうかしたのですか?」


「うん。はい、桜彩ちゃん、これ」


 そう言って望が封筒を差し出してくる。


「えっと、これは……?」


「さっきのイラスト分のお給料。奮発しといたからね」


 きょとんとする桜彩に対しにっこりとウインクを向けてくる。


「そ、そんな……、この程度の事では受け取れませんよ……」


 望の言葉に桜彩が慌てて首をブンブンと横に振る。

 そんな桜彩の言葉に望みはむっ、と顔をしかめて


「こら。この程度何て言っちゃ駄目。私達としては本当に助かったんだから。これはあなたの働きに対する正当な報酬なの。だから受け取ってちょうだい」


「え、えっと……」


 困ったように隣の蕾華へと視線を向ける桜彩。


「サーヤ、貰っておきなって」


「ええっ!?」


「望さんの言う通り、それはサーヤに対する正当な報酬だよ。そうじゃなきゃ望さんの立場としては、サーヤにタダ働きさせたことになっちゃうしさ」


「で、ですがケーキもサービスして頂きましたし……」


「そんなのはただのサービスよ。報酬としては少なすぎるからね。だから桜彩ちゃん。私の為にも受け取って」


 再び蕾華の方を見ると、蕾華も首を縦に振って頷く。


「わ、分かりました。それではいただきますね。ありがとうございます」


 望が差し出した封筒をおずおずと受け取る。

 もちろん中に札束がぎっしりと詰まっているなどということは無いのだが、初めて自分で稼いだお金ということで実際の重さ以上に封筒が重く感じる。


「こちらこそありがとう。あ、ただね、契約とかの関係で正式にはお給料じゃなくて知り合いのお姉さんからのお小遣いって扱いになっちゃうけど」


「は、はい。それはかまわないのですが……」


 正式に給料として扱うとなると、そこに至るまでに様々な問題が発生する。

 経営者である望の立場からしたら税金の関係等から給料として扱った方が良いのだが、とはいえそれはそれで色々と手続きが必要だ。

 なので建前としては仕事に対する報酬ではなくお小遣いという扱いにする。

 しかし実際の所は桜彩の働きに対する正当なる成果報酬だ。


「それでは失礼しますね」


「失礼します」


「はーい。またのご来店をお待ちしております」


 望に見送られてリュミエールを後にする二人。


「ええっと……本当に良かったのでしょうか?」


 未だに悩む桜彩が隣を歩く蕾華におずおずと問いかける。


「だから気にしないで良いって。望さんも言ってたようにさ、勤務中の従業員に業務命令としてイラストを描くように指示したのと一緒だから」


「そ、そっか。そうだよね……」


 蕾華の言葉により桜彩の心が少しばかり軽くなる。

 確かに望の指示でリュミエールの仕事をしたと思えば、給料として受け取ることが出来るだろう。

 蕾華の言葉に納得して鞄の中に封筒を仕舞う。


「でもそっか。今回のことは、私にとって初めてのアルバイトで初めてのお給料なんだよね」


「うん。記念すべきサーヤの初めてのお給料だよ」


 桜彩の言葉に蕾華がにっこりと笑う。

 これまで桜彩はアルバイトをしたことがなかった。

 昨年のトラウマにより、必要以上に人と関わり合うことをずっと避けていた。


(うん。こうして考えてみると、私がアルバイト出来たのは怜のおかげなんだよね)


 怜がトラウマを解決してくれたからこそ、こうしてまた人と関わることが、そしてまた絵を描くことが出来た。

 そう考えると胸の中がスッと軽くなった気がする。

 であれば――


「ねえ、蕾華さん」


 悩んでいた表情から一転した笑顔、それでいて決意を秘めた表情で蕾華を見る。


「ん? どうかした?」


「その、誕生日プレゼントの予算なんだけど、私、このお給料で怜へのプレゼントを買いたいなって。お小遣いじゃなく、私が初めて自分で稼いだお給料を、怜へのプレゼントに使いたいんだ」


 目を輝かせて力強く言葉にする。

 その言葉に蕾華は目を丸くして、そして微笑を浮かべて桜彩へと抱きつく。


「ちょ、ちょっと蕾華さん!?」


「うん! それとっても良いと思う! 大賛成! きっとれーくんも喜んでくれるよ!」


「う、うん! そ、そうだよね! 怜、喜んでくれるよね!」


「もっちろん! 親友であるアタシが保証するって!」


 桜彩からのプレゼントというだけで怜が喜ぶことは間違いないのだが、それが初めての給料で、ということであればなおさらだ。


「ふふっ。しっかり選ばないと!」


「うんっ! アタシも協力するからね!」


 そう言って二人はにっこりと笑い合ったまま、決意を新たにしてショッピングモールへと向かって行った。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 ショッピングモールへと到着した二人。

 ここなら様々な種類の店がある為に、きっと怜の気に入る物があるだろう。


「うーん……、何が良いかなあ……」


「日用品はパスってなると……」


「他には怜の好きなものって……」


「れーくんの好きな……」


「…………」


「…………」


 少しの間二人で考える。

 そして二人同時に口を開いた。


「「動物」」


 二人の答えがシンクロしてクスリと笑い合う。

 やはり怜と言えば動物と料理だろう。


(まあ、れーくんの好きなものってか好きな人なら今、アタシの目の前にいるんだけどね)


 そんなことを考えながら桜彩を見る蕾華。

 お互いに大好きだということに全く気が付いていないもどかしい親友二人。

 この誕生日という特別な日を機にどうにかしてもっと二人の距離を縮めたい。

 いや、縮めるというか、二人に自分の気持ちを気付かせたい。

 一方でその当事者でもある桜彩はそんな蕾華の視線を受けてきょとんとした表情を浮かべる。


「どうかしたの?」


「ううん、なんでもないよ。それよりもプレゼントだよね」


 とりあえず蕾華はそう言ってごまかす。


「うん。やっぱり怜は動物好きだから、動物にちなんだものが良いと思う」


「だよね! まあ出来れば猫が良いんだけど」


「それは確かにね」


 怜に似合うのは猫。

 そう猫好きの二人が頷き合うが、とはいえ怜本人にとっては猫以外の動物、例えば犬であっても同じように大好きであることは理解している。


「そう考えると大分方向性が定まってきたかな?」


「うん。あ、ここ。前に怜と一緒に来たお店だ」


 先日訪れたファンシーショップの前で足を止める。


「そっか。ちょっと覗いてみる?」


「うん。ここでお揃いの猫のマグカップと足型の焼き型を買ったんだ」


「そっかあ、焼き型かあ。そういうのでも良いかもね」


 ちょうど焼き型の前に来たので一つ手に取ってみる。

 あの時は猫の顔と足で悩んで、結果として足型を購入することになった。

 ならば今回は猫の顔をプレゼントしてみるのも良いかもしれない。


「うん。でもさ、焼き型だとなんだか作ってって言ってるようでちょっと気が引けるけど」


 焼き型、つまり調理器具をプレゼントするということは、当然それを使ってもらうことを意図することになるだろう。

 であれば、それはある意味怜に対するおねだりでもあるかもしれない。


「あはは。まあれーくんなら気にしないと思うけどね」


「うん。まあそれはそうなんだけど……」


「値段も手ごろだし、まあ候補の一つとして考えておこうか」


「そうだね。焦って決める必要も無いしね」


 一度手に取った焼き型を棚に戻して他の品を見て行く。

 あれが良い、これも良い、などと言いながら商品を見て回り、ふと桜彩がスマホを起動してそこに写真を表示する。


「あ、そうだ。ほら見て。これがその焼き型で作ったマドレーヌだよ」


 桜彩のスマホには怜の作った猫の足型のマドレーヌが表示されていた。

 それを見て蕾華が目を輝かせる。


「わあっ、可愛い!」


「でしょ? こういうのって良いよね」


「うんうん。あ、でもサーヤもれーくんも結構写真撮ってるよね。まあアタシもだけどさ」


 言われて桜彩も思い返してみる。

 最初にリュミエールを訪れた時もそうだし、怜と仲良くなってからは事あるごとに写真を撮っている気がする。

 ふとスマホの中に保存されている写真を見返すと、その多くが怜と一緒に写したものだ。


「うん。そう言われれば私も怜も良く写真撮るね……あっ……!」


 その時、桜彩が店内のとある一角を見て声を上げる。


「どうしたの、サーヤ?」


「あ、蕾華さん。あれ、良いかも」


「あれ?」


 言われて桜彩と一緒にそちらへと向かう。

 そこにあったのは猫と犬が両サイドの縁に描かれているデジタルフォトフレーム。

 値段も手ごろであり、先ほど貰ったお金で無理なく買うことが出来る。


「これ、どう思う!? 猫と犬が描かれてるし、これなら今までに撮った写真を映すことが出来るし!」


「わあっ、それ確かに凄く良いかも!」


「だよね! うん、これにしよう!」


 目を輝かせて商品を手に取る桜彩。


「あ、そうだ。それならさ、これまでに一緒に撮った写真もデータに入れたメモリーカードも一緒にプレゼントしたらどうかな? 渡したらすぐに観られるようにさ!」


「うん! それ良いかも!」


 こうして怜へのプレゼントはデジタルフォトフレームと、それに映し出す写真の入ったメモリーカードに決定した。


(ふふっ。怜、喜んでくれるよね?)


 怜に渡した時のことを想像してしまい桜彩の顔ににへらっとした笑みが浮かぶ。

 そんな桜彩を見て蕾華は


(今のサーヤ、他の人に見せられない顔しちゃってるよね。まあれーくんならそんなサーヤを見ても可愛いって思うかもしれないけど)


 と苦笑を浮かべた。

 そんな蕾華のリアクションに気付かず、桜彩はそれを手に取って会計を済ませる。

 大好きな怜の為に一生懸命選んだプレゼント。

 きっと気に入ってくれるだろう。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 結果として怜はそれを凄く気に入り、桜彩のプレゼントは大成功となったのだが。

 お読みくださりありがとうございました。

 番外編は以上となり、これで第五章は終了となります。


 よろしければ感想等頂けたら嬉しいです。

 また、面白かった、続きが読みたい等と思っていただけたらブックマークや評価、各話のいいねを下さると嬉しいです。


 第六章は今現在構想を練っている最中であり、来週中には投稿出来るように頑張っていきます。

 恋心を自覚した二人が、それゆえに悩んだりしながらも自分の気持ちと向き合っていければと思っています。

 誕生日はまだ終わっていませんし、陸翔と蕾華の親友二人も奮闘する予定です。

(具体的には同じベッドで寝るように仕向けたりとか)


 第六章でもよろしくお願い致します。

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