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【第十章前編 クリスマス】隣に越してきたクールさんの世話を焼いたら、実は甘えたがりな彼女との甘々な半同棲生活が始まった  作者: バランスやじろべー
第五章後編 ダブルデートと恋心の自覚

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【番外編】第295話 プレゼント選び② ~望の悩み~

 桜彩と蕾華、しばらく二人で話し合ってみるがいい案が思い浮かばない。

 気付けば既に皿の上からケーキは消え去り、アイスダージリンもほとんど飲んでしまっている。


「とりあえず考える方向性を変えてみない?」


「方向性を?」


 蕾華からの提案に桜彩がきょとんとした顔で頷く。


「うん。例えば予算とか先に決めちゃわない? それだけで方向性も搾れるかもしれないしさ」


「あ、確かにそうかも」


 蕾華の提案に頷く。

 単にプレゼント選びということしか頭に無かったのだが、確かにそうした視点から徐々に絞り込むのも良いかもしれない。


「それでサーヤ、予算は?」


「ええっと……あまり高いものだと怜も申し訳なく思っちゃうんじゃないかなって……」


「まあ確かにれーくんならそうだよね」


「でしょ? だから私が貰ったエプロンと同じくらいの物が良いなって」


「なるほど……。まあエプロンって言ってもピンキリだろうけど、れーくんの性格上、まあ普通に売ってるのからサーヤ好みの物を探したってトコかな?」


「うん。私もそう思う」


「なるほど。それじゃあこの後ショッピングモールでも行ってみる? そこで良い感じの物を見つけても良いかもだしさ」


「そうだね。そうしよっか」


 ひとまず多少なりとも方向性が決まった為、二人の表情が明るくなる。

 そこへ望がデキャンタ―を持って二人のテーブルへとやって来た。

 どうやらお客も捌けたようで、店内のイートインスペースを利用しているのも自分達二人だけのようだ。


「お水のおかわりはどう?」


「あ、お願いします」


 残り少なくなったコップにデトックスウォーターが注がれていく。

 二人のコップに注ぎ終えたところで、望が思い出したように口を開く。


「あ、そうそう。二人に意見を聞きたいことがあるんだけど、ちょっとだけ時間良いかな?」


 他に客がいない為、常連の二人に相談事を持ちかけてくる。

 桜彩としても特に急いでいるわけではないので問題ない。

 前に座る蕾華に顔を向けると、蕾華も大丈夫だとコクリと頷く。


「はい。大丈夫ですよ」


「どうかしたんですか?」


「二人ともありがと。ちょっと待っててね」


 そう言って望は一度中へと戻り、すぐに何枚かの紙を持ってきた。


「相談なんだけどね……。今度イベントに出店する予定があるんだ。そこで売る予定の商品なんだけど、動物をモチーフにした小さい子向けのお菓子を作る予定なの」


「そうなんですね。楽しみです」


 動物モチーフのお菓子とはどういうものだろうか。

 前に怜が猫の足型のマドレーヌを作ったことがあったが、ああいうものかもしれない。

 そう想像を膨らませる桜彩だが、対照的に望の表情は曇ったままだ。


「それでなんだけどね、そう言ったのを前面に押し出したポップとかチラシを作ってみようと思ったんだけど……」


 そう言って望が手に持った紙をテーブルへと並べる。

 それを見た瞬間、二人の表情が何とも言えずにひきつってしまう。

 紙に描かれていたのは、動物がよく分からない物を持って食べているイラスト。

 その動物の方もかろうじて動物だと分かる程度のレベルだ。


「これ、どう思う?」


「えっと……これは…………?」


 何と答えて良いのか分からない。

 ポップやチラシというからには商品のアピールが必要だろう。

 しかしこのイラストではどう考えてもアピール出来るとは思えない。

 下手をすれば逆効果だ。


「その……正直微妙です……」


「はい。ちょっと怖いって言うか……」


 二人共下手なお世辞は言わずに正直に答える。

 これをこのまま使った場合、むしろリュミエールの評判が下がりかねない。

 望もそれを理解しているのか二人の感想に苦笑してため息を吐く。


「うん。私もお兄ちゃんも、他のスタッフも上手に絵なんて描けないからさ


「あれ、でもリクエストがあればケーキに動物の絵とか描かれてますよね」


「ああ、うん。まああの程度のイラストなら何とかね」


 ケーキに描くと言っても、それは可能な限りデフォルメされている。

 いくら絵が上手ではないと言ってもその程度なら問題は無い。


「ちなみにイラスト生成AIにも頼ってみたんだけど……」


 そう言って望が別のイラストを差し出してくる。

 とはいえこれも先ほどとは別ベクトルで微妙な出来だ。


「この通り、自分達で描いてもAIに頼っても微妙過ぎるのしか出来なかったんだ……」


「ああ……」


「そういうことですか」


 それを聞いて納得する二人。

 確かに昨今のAIは優秀になってきているとはいえ、まだまだ細かい所の不備は多い。


「まあチラシもポップも無くても良いっちゃ良いんだけどね……」


 頭を抱えてため息を吐く望。

 ここまでの話を総合的に考えるに、つまるところ望の悩みとは――


「ねえ、サーヤ」


「うん」


 蕾華が何を言いたいのか桜彩もすぐに理解する。

 おそらく自分の考えていることと同じだろう。


「蕾華さん。もう少しだけ時間を貰っても良いかな?」


「うん。今日はもうずっとサーヤに付き合うって決めてるんだから、遠慮しないで」


 そう言って親指をぐっと立てて桜彩に向かって力強く頷いてくれる。

 こういった所が本当に嬉しい。

 それを確認して桜彩は望の方を向いて


「あの、望さん。よろしければ――」


 そう提案を口にした。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「わあっ! 凄いわね、これ!」


「うん! さすがサーヤ!」


 桜彩の描いたイラストを見た望と蕾華が驚嘆の声を上げる。

 いきなりイラストを描いても良いか、と言った時の望は不安そうな顔をしていたのだが、この反応を見る限り大丈夫そうで良かった。

 蕾華の方もこのイラストの出来に驚いている。

 もちろん紙芝居の時に桜彩の腕前は充分すぎるほどに見せてもらったのだが、それでもこうして再び見るとその出来に驚かされる。


「これでよろしいでしょうか?」


「うんうん! もう充分すぎるくらいよ! 本当にありがとう!」


「それならば良かったです」


 手を握ってブンブンと振ってくる望に若干怯みながらも安堵の表情を浮かべる桜彩。

 どうやら役に立てたようで何よりだ。

 ペンやイラストを片付けて、桜彩はベイクドチーズケーキ(描いている途中で蕾華の分と共に望がサービスとして持って来てくれた)へとフォークを伸ばす。

 作業が成功した充実感と相まってとても美味しい。


「いや、本当にありがとうね」


「い、いえ。お役に立てたのであれば何よりです」


 幼稚園の時といい、こうして自分の絵で誰かを幸せに出来るということがとても嬉しい。


(これも全部、怜のおかげだよね)


 あの時、怜が勇気を出して提案してくれた。

 そのおかげで大好きだった絵を取り戻すことが出来た。

 本当に感謝してもしきれない。


(うん! 誕生日プレゼント、絶対に喜んで貰えるものを探さないとね!)


 そう決意を新たにした。

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