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【第九章完結】隣に越してきたクールさんの世話を焼いたら、実は甘えたがりな彼女との甘々な半同棲生活が始まった  作者: バランスやじろべー
第五章後編 ダブルデートと恋心の自覚

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第292話 エピローグ② ~ラテアートのプレゼント~

「おまたせー。そっちに行くね」


 しばらくするとキッチンの桜彩から声が掛かる。

 その声に視線を向けると、桜彩がお盆にカップを二つ載せてこちらの方へと向かって来るところだった。


「あれ?」


 桜彩の持ってきたカップは二つ。

 しかしそれはいつも使っている猫の描かれたお揃いのカップではない。

 普段はあまり使わない来客用のカップだ。


「いつものカップじゃないのか?」


「うん。ちょっと訳ありでね」


 不思議に思った怜が横まで来た桜彩に問いかけると、桜彩は苦笑して頷く。

 それに桜彩はお盆をソファーテーブルに置かずに立ったままだ。。


「桜彩?」


 不思議そうな目を向けると桜彩はにっこりと笑って


「怜、誕生日おめでとう」


「あ…………」


 それを聞いて怜も思い出す。

 陸翔と蕾華は朝にそう言ってくれたのだが、桜彩から祝いの言葉はまだ聞いていなかった。


「ありがとう、桜彩」


「ふふっ。怜も私と同じで十七歳だね」


「ああ。それで桜彩、どうして座らないんだ?」


「うん。今から座るよ。その前にね……はい、私からの誕生日プレゼント」


 そう言って桜彩はお盆からソーサーごとカップを取って怜の前に置く。


「あ…………」


 そこに注がれていた物を見て怜は目を丸くする。

 先ほど桜彩がキッチンの方を見るなと言ったりキッチンから聞きなれない音が聞こえてきたのはこの為だったのかと。

 カップの中に注がれたエスプレッソの上にはフォームミルクが注がれていて、デフォルメされた猫の顔が描かれている。

 いわゆるラテアートというものだ。

 それを見た怜の顔が綻びる。


(凄い……)


 これは本当に思いがけないサプライズだ。

 おもわず目がカップに釘付けになってしまう。

 そんな怜の反応を嬉しそうに見て、桜彩は自分の分のカップもお盆ごとテーブルに置いて怜の隣に腰掛ける。


「どう? 気に入ってくれた?」


「もちろん! ありがとう、桜彩!」


「ふふっ。良かった。喜んでくれて」


 隣を見ると桜彩も嬉しそうな笑みを浮かべている。


「こんなに喜んでくれると私も嬉しいな」


「本当に凄いよ。とっても可愛い」


 よく桜彩がメッセージと共に贈って来るスタンプそっくりの猫の絵。

 見慣れたそれがカップに浮かんでいてとても可愛い。


「そうだ。飲む前に写真撮っても良いか?」


「うんっ!」


 桜彩に了承を貰ってたのでスマホを起動してラテアートをスマホに収めていく。

 絵が上手ということもあるのか、これまでに見たどのラテアートよりも素晴らしく思える。


「それじゃあいただきます」


 何枚か写真を撮り終えた所でカップを持って口を付ける。

 しかし、カップに口を付けたところでカップを口へと傾ける前に離してしまう。


「怜?」


 離れたカップをじっと見ていると、不思議そうな顔をした桜彩が覗き込んでくる。


「どうかしたの?」


「え、えっとな…………」


「怜……?」


「そ、その、わ、笑わないでくれよ……」


「え? う、うん……」


 戸惑うような表情を向けてくる桜彩に対して、怜は神妙な顔をして正直なところを口にする。


「その……この絵が可愛すぎて…………の、飲めない…………」


 ラテアートを飲むということは、つまりこの猫の絵を崩してしまうということ。

 どうしてそのような事が出来ようか。


「え……………………」


 それを聞いた桜彩の顔がポカンとした表情になった。

 神妙な顔をしながらと呆気にとられた表情の桜彩と無言で向き合う。

 そして


「ぷっ…………」


 ついに耐え切れなくなったのか、桜彩の口から笑い声が漏れた。


「わ、笑わないって言ったじゃん……」


「ご、ごめん……。だ、だって、何を言うのかと思ったら……」


 相当おかしかったのか、桜彩の目に涙まで浮かんでいる。


「だ、だってさ……。せっかく桜彩がくれた誕生日プレゼントなんだし……」


 もっと言えば好きな人がくれた誕生日プレゼントだ。

 一秒でも長く眺めていたいと思ってしまうのも無理はないだろう。


「む……笑わないって言ったのに……」


 恥ずかしさから桜彩に拗ねた目を向けると、桜彩の方も落ち着いてきたのか徐々に笑いが収まってくる。


「ふふっ、ごめんね。でも怜がいきなり可愛い事言うからさ」


「か、可愛いって……」


 桜彩にからかわれて顔が熱くなる。

 おそらく鏡を見れば、今の自分の頬は赤く染まっているだろう。


「ふふっ。照れてる怜も可愛いっ」


「だ……だからからかうなっての……」


 プイッと顔を背けてしまう。

 そんな怜の肩越しから桜彩が笑いながら謝ってくる。


「ごめんごめん。怜がそう思ってくれるのは嬉しいんだよ。でもさ、このまま飲まないのももったいないでしょ?」


「そ、それはそうだけど……」


 もちろんそれは理解している。

 飲み物とは飲んでこその物だ。


「だからほら、冷めないうちに飲んで」


「ああ。それじゃあいただきます」


「うん。召し上がれ」


 そう言って桜彩も自分のカップを手に取る。

 嬉しさ半分、悲しさ半分のままついにラテアートが描かれたカップに口を付けてそれを飲んでいく。

 なるべく絵を崩さないように端からすするようにして飲んでみたのだが、しかしすぐに猫の絵は崩れ始めて行く。


「あ…………」


 一度カップを口から離して悲しげな声を上げてしまう。

 味の方はコーヒーとミルクのバランスが丁度良くとても美味しかった。


「美味しい」


「ふふっ。良かった」


「けどさ、やっぱり残念だな」


 手に持ったカップの中は、もはや猫の絵など無かったかのように崩れてしまっている。


「まあまあ。ラテアートならまた今度私が作ってあげるからね」


 慰めるように桜彩が声を掛けてくる。

 その顔を見て、怜は一瞬真顔になってしまった。

 当然ながらラテアートにはフォームミルクが使われている。

 そのミルクの泡が桜彩の口の上に可愛らしく付いていた。


「桜彩。ミルクのお髭が付いてるぞ」


「え……? って怜も付いてるよ」


「嘘!?」


 言われて怜も唇の上にいつもとは違う感触が載っているのに気が付いた。

 お互い髭の付いた顔で向かい合って、一瞬遅れて笑いが込み上げてくる。


「ははっ、あははっ!」


「ふふっ、ふふふっ!」


 笑い合いながらスマホを取り出してカメラのアプリを起動する。

 そして二人仲良く寄り添い方を寄せ合ってスマホを構える。


「それじゃあ撮るぞ。チーズッ!」


「うんっ!」


 二人で可愛いお髭を生やしたまま寄り添う写真がスマホに記録される。

 それを見ながら二人は再度笑い合った。

第五章のエピローグはまだ続きます

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