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【第九章完結】隣に越してきたクールさんの世話を焼いたら、実は甘えたがりな彼女との甘々な半同棲生活が始まった  作者: バランスやじろべー
第五章後編 ダブルデートと恋心の自覚

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第291話 エピローグ① ~二人だけの誕生会~

 アパートへと到着した怜と桜彩は、お互いに贈り合った友情の証であるお揃いのキーホルダーの付いた鍵を取り出してクスリと笑い合う。


「それじゃあな」


「うん、またね。出来るだけ早く向かうから」


「ああ。何か分からないけど楽しみにしてるよ」


「うんっ」


 そして部屋の前で一度分かれてそれぞれの部屋へと入って行った。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「ふう、楽しかったなあ」


 寝室へと戻った怜は、そこでようやく一息つく。


「色々とあったなあ」


 四人で初めてのダブルデート。

 初めて行った遊園地は本当に楽しかった。

 そして何よりも観覧車での出来事。


「俺、桜彩のことが、好き、なんだ……」


 一言一言を大切にかみしめるように発した言葉が耳へと届き脳に響く。

 こうして言葉に出してみると本当に実感がわいてくる。

 そんな大好きな相手といつも一緒に過ごしているし、これからもそれが続くだろう。

 つい顔がにやけてしまったのが自分でも分かる。


(っと。危ない危ない。こんな顔、さすがに桜彩には見せられないよな)


 浮かれた気を引き締めるように、パンと両手で顔を叩く。

 そして気持ちを切り替えてラフな部屋着へと着替えていく。


(ってか準備があるって何だろうな……?)


 ふと先ほど桜彩が言った言葉の意味を考える。

 自分と同じように着替えるのだけであればそのような言い方はしないだろう。


(まあ、すぐに分かるか)


 先ほどの桜彩の様子からあとで教えてくれるであろうことは間違いがない。

 であればそれを楽しみにすることにしようと考えることを止める。

 それよりも――


(桜彩、早く来ないかな……)


 先ほど別れたばかりなのに、ほんの少しだけ離れていただけでもう会いたい気持ちでいっぱいなる。

 顔が見たい、言葉を交わしたい。

 そんな欲求が胸の中で大きくなってくる。


(これが、人を好きになるってことなのかな……?)


 着替えを終えた怜はそのままそわそわとした気持ちで部屋のインターホンの受話器へと視線を向けて、それが鳴るのを今か今かと待ち続けていた。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「ふぅ、楽しかったあ」


 一度怜と別れた桜彩は、自室に戻ってようやく一息つく。


「色々とあったなあ」


 四人で初めてのダブルデート。

 初めて行った遊園地は本当に楽しかった。

 そして何よりも観覧車での出来事。


「私、怜のことが、好き、なんだ……」


 一言一言を大切にかみしめるように発した言葉が耳へと届き脳に響く。

 こうして言葉に出してみると本当に実感がわいてくる。

 そんな大好きな相手といつも一緒に過ごしているし、これからもそれが続くだろう。

 つい顔がにやけてしまったのが自分でも分かる。


(あ……。い、今の顔、さすがに怜には見せられないよね)


 浮かれた気を引き締めるように、ブンブンと大きく首を横に振る。

 そして気持ちを切り替えてラフな部屋着へと着替えていく。

 脱いだ服を畳んでいると、ふと朝の出来事を思い出す。


(今日の服、怜に素敵だって言ってもらえてよかったあ)


 多少なりとも自信はあったとはいえ、やはり怜にそう言ってもらえたのは本当に嬉しい。

 恋心を自覚した今ならなおさらだ。

 とはいえまだこれで終わりではない。

 この後は蕾華と陸翔と共に四人での夜食が待っている。

 蕾華によれば、二人がこのアパートに到着するまでにはまだ時間があるはず、というよりも蕾華が時間を掛けてくれるはず。

 しかしその時間も無限というわけではない。

 二人が帰ってくる前にどうしてもやっておきたいことがある。

 昨日、机の上に準備したバッグを開けて、忘れ物が無いか確認する。


「うん。ちゃんと揃ってる」


 そう言って同じく部屋に置かれている怜からのプレゼントであるぬいぐるみ、れっくんに目を向ける。


「怜、喜んでくれるかな……?」


 これから自分がすることを怜がどう思ってくれるのか。

 多分喜んでくれるとは思うのだが、とはいえ不安な物は不安だ。


『きっと喜んでくれるニャ』


「う、うん。そうだよね」


 自分の腹話術というほどのスキルでもないがによるれっくんの励ましが耳に届くと、多少は不安が薄れていく。


「それじゃあれっくん、行こうか」


『うん。行くニャ』


 そう言って桜彩は用意したバッグとれっくんを持って、怜の待つ隣室へと向かって行った。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 怜が桜彩と別れて十五分後、ついに部屋のインターホンが鳴る。

 当然訪ねてきた相手は桜彩だ。

 一刻も早く顔が見たいと逸る気持ちを抑えて速足で玄関へと向かい鍵を開ける。


「怜、お待たせ」


 玄関を開けるとれっくんとバッグを抱えた桜彩が、怜と同様いつも通りのラフな姿で立っていた。

 どうやら急いでいたのか、普段に比べて少しばかり息が荒い。

 そんな桜彩を怜はいつも通りの笑みを浮かべたままで迎える。


「おかえり、桜彩」


「あ……。ただいま、怜」


 それを聞いた桜彩の顔にも笑みが浮かぶ。


『おかえり』と『ただいま』。


 二人が大切にしている挨拶をやり直してふふっ、と微笑み合う。


「準備って何だったんだ?」


 リビングに入ると早速気になったことを聞いてみる。


「あ、それなんだけどね。ねえ、怜。少しキッチン借りて良い?」


「キッチン? ああ、別に良いけど。あ、もしかしてハニージンジャーミルクでも作ってくれるのか?」


 四月に体調を崩した時、桜彩が作ってくれたハニージンジャーミルク。

 あれは本当に絶品で、比較的料理上手だと自負している怜にもあの味は出すことが出来ない大好物だ。


「あ、ううん。えっと、コーヒーでも淹れようかなって」


 本来であれば怜も桜彩も、このような遅い時間にカフェインの入ったコーヒーを飲むことはあまりない。

 とはいえ今日は怜の誕生日であり、明日も休日。

 この後も親友二人を含めて四人で楽しむ予定だ。

 それに昼間の遊園地ではしゃぎ過ぎたこともあり、眠気を覚ます為にもコーヒーは有難い。


「分かった。でもそれなら俺が淹れるぞ」


「ううん。今日は怜の誕生日なんだし私にやらせて」


「いや、でも……」


「ほらほら。怜はゆっくりと休んでて」


 グイグイと桜彩に背を押されながら、リビングのテーブルではなくソファーの方へと向かって行く。


「あ、それと怜。絶対に、ぜーったいに、キッチンの方を覗かないでね!」


「え? どうしてだ?」


 別にコーヒーを淹れるところくらい覗き見しても問題は無いだろう。

 桜彩への異性としての好意を自覚した今、少しでも長く桜彩を眺めていたい。

 しかしそんな怜に対し、桜彩は若干目を吊り上げて睨むような顔を向けてくる。

 とはいえそんな顔もやはり可愛いのだが。


「い・い・か・ら! ほら、ソファーでゆっくり待ってて!」


 少し強めにそう言って桜彩がキッチンへと向かって行く。

 その背を不思議そうに眺めながら、怜は桜彩が置いて行ったれっくんを手に取る。


「なあれっくん。桜彩は何をするつもりなんだ?」


 当然ながら怜の問いにれっくんが答えることは無い。

 時折キッチンの方から桜彩の声や物音が聞こえてきたが、桜彩が覗かないでくれと言っている以上、覗きたい気持ちをぐっとこらえて我慢する。

 とはいえやることもないのでそのままソファーに座ってスマホで今日の思い出を眺めていく。

 こうして写真を見ていても、今日は本当に楽しかった。

 去年までの誕生日、陸翔や蕾華と一緒に過ごすのも楽しかったのだが、それでも今年の誕生日は格別だ。


(やっぱり桜彩がいてくれたからかな?)


 もちろん、今年が土曜日ということで一日中遊べたことも理由の一つではあるだろう。

 しかし、もし桜彩がいなかったら。

 陸翔と蕾華と三人で一日中遊んでいたとしても、ここまでの充実感にはならなかったのではないか。


(それに、初恋も自覚したしな……)


 十七年目にして初めての初恋。

 極一部の相手を除いて他人を信用することの無かった自分についに好きな相手が出来た。

 いや、好きな相手が出来ていることに気が付いた。


(この、気持ちは……恋、だったんだな…………)


 ここ数か月、ずっと胸に抱いていた気持ちの答え。

 それを噛みしめたまま、怜はダブルデートの写真を眺めていった。

第五章のエピローグはまだ続きます

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