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【第十章前編 クリスマス】隣に越してきたクールさんの世話を焼いたら、実は甘えたがりな彼女との甘々な半同棲生活が始まった  作者: バランスやじろべー
第五章後編 ダブルデートと恋心の自覚

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第287話 この気持ちの答えは――

「あっ、あそこ見て!」


 桜彩が観覧車前の広間を指差しながら興奮して声を上げる。

 そちらの方に視線を向けるとどうやらパレードが行われているようだ。

 光り輝く車と共にたくさんのキャストが躍りながら行進している。

 その行進が観覧車乗り場の方へと移動して来る。

 しかし二人を乗せたゴンドラは既にかなりの高さへと到達しており、観覧車下の光景を見るのは角度的に難しい。

 その為少しでも良く見ようと角度を付ける為か桜彩が席から立ちあがった。


 ガコン


 その時、強風の為か二人の乗るゴンドラが少し揺れた。

 大した揺れではないのだが、立ち上がった瞬間ということもあり桜彩は体勢を崩してしまう。


「桜彩っ!」


 怜が考えるよりも先に体が動いた。

 すぐに席から立ち上がり、スローモーションのように倒れてくる桜彩の体を支える。

 幸いにもゴンドラの揺れはすぐに収まった。


「ふう……。桜彩、大丈夫か?」


「あ、ありがと…………あっ…………!」


「え……あっ…………!」


 ひとまず落ち着いて正面を見れば、お互いの顔がもう密着寸前の超至近距離まで近づいている。

 加えて咄嗟のことで、怜は桜彩の背中へと両手を回し、抱きしめるようにして桜彩を支えている。


「ご、ごめ……」


「う、ううんっ! い、嫌じゃないから……」


 慌てて謝ろうとしたのだが、謝罪の言葉を言う前に桜彩が言葉をかぶせてくる。

 その勢いに押されて言葉が詰まり、体を離すのも忘れてしまう。


「怜、謝らないで。だって怜は私を助けてくれたんだからさ」


「い、いや、でも……」


 体を離そうとすると、今度は桜彩が両手をこちらの背中へと回してくる。

 いきなりのことに怜は戸惑ってしまう。


「怜。嫌じゃないから。だから謝らないで」


「桜彩……」


「嫌なんかじゃない。その、それとも怜は、私にこうされるの、嫌……?」


 桜彩が上目遣いで問いかけてくる。

 それに対する返事は当然決まっている。


「嫌なわけ無いだろ。俺が桜彩のことを嫌だなんて思うわけが無い」


 決して嫌なわけが無い。

 出会ってからずっといつも一緒にいる相手。

 自らが嫌われることもいとわずに、トラウマに向き合ってくれた。

 困っている時に、自らのトラウマを乗り越えて助けてくれた。

 そんな桜彩の行動を嫌だなんて思うわけがない。


 ドクン――


 心臓が大きく跳ねる。

 初デートの時以来、怜の胸に何度も響いたこの気持ち。


(桜彩…………)


 これからもずっと一緒。

 初デートの時にしたこの約束。

 それはその言葉通りの意味。

 クラス替えや卒業といった程度のことでは決して離れない。

 これから先、ずっと一緒に過ごしていく。

 この先ずっと離れることは無いのだろう。

 胸の中の桜彩へと視線を戻せばちょうど桜彩もこちらを見上げてくる。

 ドクン、と。

 桜彩の顔を見て、怜の胸の高鳴りが一際大きくなる。


『きっとあんな素敵な家庭を作れると思うぞ』


 先ほど無意識に口から出たその言葉。

 それはつまり、無意識の内に桜彩とのそういった未来を望んでいるということで――



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 一方で桜彩の方もまだ頭が混乱してしまったままだ。


(わ、私、今、勢いで怜を抱きしめちゃって……!)


 混乱すると勢いのまま突っ走る、とは桜彩に対する蕾華の評だ。

 怜が謝ろうとしたのが分かった瞬間、桜彩はそれをさせないように怜を抱きしめ返してしまう。

 決して嫌なわけがない。

 出会ってからずっと、いつもいつも助けてくれた。

 ナンパを断ることが出来なかった、料理を作ることが出来なかった、大好きな絵を描くことが出来なかった。

 そんな時、いつも怜が助けてくれた。

 今も自分の失態で転びそうになったところを抱きとめてくれた。

 そんな怜の行動を嫌だなんて思うわけが無い。

 そしてなにより、自分がそれを嫌だと思っていると怜に勘違いされたくない。

 そう思ったら、考えるよりも先に怜を抱きしめてしまった。


(嫌なんて思うわけが無いって……。よ、良かったあ……)


 怜の言葉に安堵する。

 もし嫌だなんて言われたら立ち直ることが出来なかっただろう。

 怜が嫌だなんて言うことは無いとは思っていた。

 それでも不安はあった。

 しかし怜の言葉を聞いて、桜彩の胸の内が温かくなっていく。


(嫌じゃないって……。嬉しい……)


 ドクン――


 心臓が大きく跳ねる。

 初デートの時以来、桜彩の胸に何度も響いたこの気持ち。


(怜…………)


 これからもずっと一緒。

 初デートの時にしたこの約束。

 それはその言葉通りの意味。

 クラス替えや卒業といった程度のことでは決して離れない。

 これから先、ずっと一緒に過ごしていく。

 この先ずっと離れることは無いのだろう。

 抱きしめた怜へと視線を戻せばちょうど怜もこちらを向く。

 ドクン、と。

 怜の顔を見て、桜彩の胸の高鳴りが一際大きくなる。


『そうだね。私達の子供もそんな風に思ってくれるのかなあ……』


 先ほど無意識に口から出たその言葉。

 それはつまり、無意識の内に怜とのそういった未来を望んでいるということで――



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



(この、気持ちは――)


(この、気持ちは――)


 初デートの時以来、何度も感じたこの気持ち。


(そう、だよな――)


(そう、だよね――)


『きょーかんはさ、クーちゃんのこと、好き?』


『それでは、渡良瀬先輩は光瀬先輩のことが好きなのですか?』


 先日のその質問。

 それに対して明確に答えることは出来なかった。


『恋人』『付き合っている』


 陸翔や蕾華、空や舞、美都や奏、その他店員や通行人など大勢の人達が言っていた言葉。

 今まではそれに対して否定していた。


『言葉では定義出来ない自分達だけの特別な関係』


 事あるごとに繰り返したその言葉。

 確かにそれは間違いないだろう。

 だが――そう思うことによって、今の自分の気持ちに蓋をしていた。

 もしかしたら既に分かっていたのかもしれない。

 ただ、この関係が心地良くて、ずっと気付かないふりをしていたのかもしれない。

 怜にしか、桜彩にしか、感じたことの無いこの特別な気持ち。

 お互いの瞳に相手の顔が映る。

 二人共自分の顔が真っ赤になっているのも良く分かる。

 それでも目を逸らさずに、相手の顔を見続ける。


(俺は――)


(私は――)


(桜彩のことが――)


(怜のことが――)


 そう、この気持ちの答えは――


((好き、なんだ――))

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