第284話 マスコットと記念撮影
膝枕のままお互いの頭を撫で合っている二人。
ちなみにここは午前中のベンチとは違って人通りがそこそこ多い場所だ。
当然ながらこのような場所でそのような事をしていた場合、周囲の視線を集めてしまうこととなる。
ふと顔を上げた怜がそれに気が付き顔を赤くすると、桜彩の方も怜のくれてその状況に気が付き慌てて怜の膝から飛び起きる。
そんな二人を通行人たちはニコニコと微笑みながら眺めていた。
いや、一部からは嫉妬も向けられていたのだが。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
そのままベンチに座って陸翔と蕾華を待っていると、そこへこの遊園地のマスコットキャラクター『ミャ―ニャ』が歩いているのが見えた。
猫をモチーフにしたキャラクターであり、中世の海賊風の帽子をかぶっている。
正直この遊園地と猫の関係性は良く分からないのだが、まあマスコットとはそういうものかもしれない。
怜も桜彩も猫好きの為、しばしそのキャラクターに目を奪われる。
「すみませーん。少しいいですか?」
気が付くと横からそのような声が掛けられた。
そちらの方へと目を向けると、そこには大人の男女と小さな男の子の三人組がいた。
大人の方は二十代半ば辺り、男の子は小学校低学年といったところか。
おそらくは家族ということだろう。
男の子は両親二人に手を繋がれ三人共ニコニコと笑顔を浮かべていることから家族仲の良さが伺える。
「はい。何でしょうか?」
怜も笑顔を浮かべて問いかける。
すると相手の男性が少しばかり申し訳なさそうに
「すみません。あのマスコットと写真を撮りたいのでカメラの方をお願いしてもよろしいでしょうか?」
再びミャ―ニャの方へと目を向けると、小さな女の子がミャ―ニャと共に写真を撮ってもらっているところだった。
「構わないよな?」
「うん。もちろん」
一応桜彩にも確認すると、桜彩も首を縦に振る。
特に急いでいるわけでもないので写真を撮ることくらいは問題ない。
その返事に相手の家族は嬉しそうに表情を緩める。
「ありがとうございます」
「ありがとうございました」
そして両親が揃って頭を下げてくる。
「ほら、良かったね。三人で撮ってもらえるって。お兄ちゃんとお姉ちゃんにお礼を言おうね」
「うん! おにいちゃん、おねえちゃん、ありがとー!」
両親と一緒に写真を撮ってもらえるのが嬉しかったのか、男の子の方も笑顔でお礼を言ってくれる。
小さいことだがこうやって素直にお礼を言ってもらえるのは嬉しい。
そして家族とマスコットの方へと向かうと、ちょうどミャーニャの前から客が途切れた為にすぐに写真を撮ることが出来そうだ。
両親がミャーニャに写真を撮りたい旨を伝えると、ミャ―ニャの方も笑顔で(着ぐるみだが)頷く。
「それではお願いいたします」
怜にカメラアプリの起動したスマホを差し出すと、そのまま家族く三人でマスコットと並ぶように立つ。
中央のマスコットが背の低い男の子の肩に自らの手を当てており、その両脇に両親。
皆幸せそうな顔をスマホへと向けている。
「それじゃあ撮りますね。はい、チーズ!」
シャッターボタンを押すと笑顔の三人とマスコットが画面に収まった。
「もう一枚撮りますね。はい、チーズ!」
念の為にもう一枚写真を撮りそれを三人へ見せ確認すると、三人共満足そうに笑って頷いてくれた。
「どうもありがとうございます」
「お手数をおかけしてしまいまして……」
「いえ、大丈夫ですよ。なあ?」
「はい」
怜も桜彩も別に面倒だとは思っていないので笑って答える。
「あ、そうだ。よろしければお二人もお撮りしましょうか?」
良いことを思いついた、という感じで男性が提案して来る。
その提案に怜と桜彩は顔を見合わせる。
確かにこうしてマスコットと写真を撮るのも良い思い出になるだろう。
桜彩の方も同じように考えてくれたのかゆっくりと頷く。
「それではお願いします」
スマホのカメラアプリを起動して男性へと手渡すと、待っていてくれているミャ―ニャの元へと向かう。
ミャ―ニャの両端に並び男性へと合図すると、男性も笑って頷く。
「はい、チーズ」
スマホへと笑顔を向けると渡したスマホからシャッター音が聞こえてくる。
「それではもう一枚撮りますね」
「あ、はい。お願いしま――」
「あ、ちょっと待って下さい」
「え?」
二枚目を撮ってもらおうとしたのだが、それを桜彩が静止する。
どういうことかと疑問符を浮かべるが、その理由はすぐにわかった。
「えいっ!」
楽しそうに怜の腕へと自らの腕を絡ませてくる。
「えへへ。せっかくだからさ」
「そうだな。それじゃあこれで撮ってもらおうか」
「うんっ!」
怜が賛同したことで桜彩がより笑顔になる。
そして二人で男性の構えているスマホの方を向いて
「あ、お待たせしました! おねがいしまーす!」
と言うと、男性の方も二人の仲の良さににっこりと笑ってスマホを構える。
「分かりましたー! はい、チーズ」
シャッターが押されてスマホへとデータが記録される。
同時に桜彩の手が自分の腕から離れてしまうのを少しばかり名残惜しく感じてしまう。
そのまま男性の方へと歩いて行き受け取ったスマホの画面を確認すると、桜彩が満面の笑みで腕に抱きついていた。
もはやマスコットのミャ―ニャの存在感など皆無と言っても良いかもしれない。
「うんっ! 良い感じに撮れてるね!」
「そうだな。良い思い出が撮れたな」
「どうもありがとうございました」
「ありがとうございました」
写真を撮ってくれた男性へとお礼を告げる。
「いえいえ。元はと言えばこちらからお願いしたのですから」
「そうですよ。デート中の所を邪魔してしまったみたいで申し訳ありません」
「「え…………」」
その言葉に桜彩と二人で揃って顔を赤くしてしまう。
確かに今はデート中(正確にはダブルデートだが)なのだが、こうして他人から面と向かって言われるとさすがに恥ずかしい。
陸翔と蕾華辺りが相手ならそのような事もなく素直に頷くことも出来たのかもしれないが。
「じゃ……邪魔だなんて、そんなことないですよ……。なあ……?」
「は、はい……。それに私達もこうして撮っていただけたので…………」
顔を赤くして小さな声でそう答える。
そんな自分達のことをどうやら初々しいと思ったのか、相手の二人は笑顔で眺めている。
ちなみに男の子はまだ良く分かっていないのかきょとんとしていた。
「そ、それではこれで……」
「は、はい……」
真っ赤な顔のまま何とかそれだけを口から絞り出す。
「おーい!」
するとそこへ陸翔と蕾華が飲み物を持って戻って来た。
「どうかしたのか?」
相手の家族とこちらを交互に見ながら聞いてくる。
「ミャ―ニャと一緒の写真を頼まれただけだよ。俺達も撮ってもらったしな」
「そっか」
うんうんと頷く陸翔。
それを見て相手の男性がそうだ、というようにパンと手を叩く。
「よろしければ四人一緒の写真もお撮りしましょうか?」
その提案に怜達は顔を見合わせて頷き合う。
「そうですね。それではお願いしてもよろしいでしょうか?」
「ええ」
スマホを渡してミャ―ニャと一緒に四人で並ぶ。
片側では怜と桜彩が先ほどのように恥ずかしながら腕を組んで。
もう片側では陸翔と蕾華が見せつけるように腕を組んで立つ。
そんな仲の良い二組のカップルに男性は微笑みながら怜が渡したスマホを向ける。
「はい、チーズ」
シャッターが押されると、四人とミャ―ニャの姿がスマホに記録される。
同じように腕を組んでいる左右二組のカップルだが、片方は初々しく、もう片方は慣れたようで、こうしてみると対比が面白い。
「それではこれで失礼します」
「はい。ありがとうございました」
「おにいちゃん、おねえちゃん。ありがとー!」
そう言って手を振りながら三人家族はまた別の場所へと向かって行った。
「ねえ! さっきの話からすると、二人一緒に写真撮ってもらったんでしょ!? 見せて見せて!」
家族が離れたところで蕾華が興奮気味に聞いてくる。
別に断る理由もないので写真のフォルダを開いて先ほどの撮ってもらった写真を表示させる。
「うんうん! 仲良さそうに写ってるね!」
「ああ」
蕾華も陸翔もご満悦の表情だ。
そんな親友二人にスマホを預けた怜は隣の桜彩にぽそっと呟く。
「で、でも……や、やっぱりデートだって見られたよな……」
「う、うん……で、デートなのはそうなんだけど、こうして言われてみると恥ずかしいよね……」
「だな……。まあ陸翔や蕾華から言われるのはもう慣れたっちゃなれたんだけど……」
「うん。知らない人から言われるのはまだちょっとね……」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
小声で話したその会話は陸翔と蕾華の耳にも届く。
「……なあ、どう思う?」
「……何を今更っていうか、ねえ?」
「……まあ、多少なりとも意識するようになった……のか?」
「うーん……。だと良いんだけど……。まあ、この後の仕掛けに期待だよね」
仲良く映る怜と桜彩の写真を眺めながら、親友二人はそんなことを話す。
ダブルデート最後の大仕掛けはここからだ。




