第281話 ホラーハウスへ行こう
「よーし! それじゃあ遊ぶぞーっ!」
何とかデザートまで食べ終えたので、ここからは遊びの再開だ。
テーブルの上に広げたパンフレットを四人で覗き込み、次はどこに行こうかと話し合う。
「どこに行こっか。みんな何か希望はある?」
「オレはなんでも」
「俺もかまわないぞ」
「えっと……私は少し落ち着いたのが良いかな」
午前中はジェットコースターにフリーフォールなど絶叫系の乗り物に偏っていたせいか、違う趣向を希望する桜彩。
確かに絶叫系も面白いのだが遊園地の魅力とはそれだけではない。
「なるほどなるほど。サーヤはそう言った感じなんだね」
「うん。ごめんね」
「あはは。別に謝らなくても良いって」
頭を下げる桜彩に蕾華は笑って答える。
「そうだな。そういったのも面白そうだし」
「オレも異議なし」
趣味嗜好はそれぞれ違うのだし、ここにいる四人は皆で遊ぶことが出来ればそれだけで楽しい。
なので怜と陸翔もその案に賛成する。
「ってなると、次は…………あっ、これなんてどう?」
蕾華の指差した所を見ると、そこはホラーハウス、いわゆるお化け屋敷というものである。
「桜彩はどうだ? 絶叫系ではないけど……」
絶叫系ではないのだが、恐怖体験という点では一緒ではないだろうか。
「う、うん……だ、大丈夫……」
怜の問いに緊張した様子で桜彩が答える。
「いや、本当に大丈夫か? ってか怖いの苦手ならそれは別に構わないって」
「だ、大丈夫! だ、だって本物ってわけじゃないし、こ、これはこれで面白いかもしれないし!」
この反応から察するにホラー系は苦手だと考えても良いだろう。
とはいえ怜も人のことは言えない。
過去に遊園地は何度か行ったことがあるがお化け屋敷に入ったことはないし、好き好んでホラー映画を観ることもしない。
以前、怜の部屋で陸翔と蕾華と共に三人でホラー映画を鑑賞ことがあったのだが、他の二人がワクワクとしながら見ているのに対し、怜は終始緊張していた。
いきなり壁から手が伸びて来たり、誰もいなかった部屋に吸血鬼が現れたりした時は思わず声を出してしまったものだ。
ゲームに関して言えばゾンビ相手のFPSこそ経験はあるが、それとはまた違う物だろう。
「でも怜もそんなに得意ってわけじゃないよな?」
それを知っている陸翔が心配そうに問いかけてくる。
「まあ、な。とはいえ大丈夫じゃないか? 小さい子も入ってたみたいだし」
午前中にホラーハウスの前を通った時には小学生と思われる子供も両親と一緒に入っていた。
さすがにそこまで臆病というわけではない、であれば大丈夫だろう。
「よしっ! それじゃあ決定だね! さあ行こう! すぐ行こう!」
「おっけ!」
ノリノリで席を立つ親友二人に対し、少しばかり出遅れる怜と桜彩。
とはいえ怖いながらも楽しみであることは間違いないので、昼食のごみを捨てグラスを店舗へと返し、手を繋いでホラーハウスへと足を向けた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「うわあああああああんん!!」
ホラーハウスへと到着したのだが、すでに泣き声が聞こえてくる。
声の方へと目を向けるとちょうど出てきた小学生の女の子が思い切り泣いていた。
それを両親が必死にあやしている。
「え、えっと…………」
それを見た桜彩が一瞬躊躇してしまう。
「ま、まあ大丈夫だろ。そりゃあさすがに小学生には怖いかもしれないけどさ……」
「う、うん、そうだよね……! わ、私達くらいの年齢なら大丈夫だよね……!」
「そ、そうそう。高校生なら大丈夫だって!」
自分自身の中の恐怖を打ち消すようにわざと大きな声で話し合う。
とそこで出口から次の客が出てきた。
今度は怜達よりも少し年上、おそらく大学生と思われる女性三人組だが皆一様に顔が青い。
「こ、怖かったあー……」
「もういやーっ! 誰よ、こんなとこに入ろうとしたのって!」
「ホントごめん……。まさかリニューアルでもっと怖くなってるとか思わなかったんだって……」
「ううーっ!」
そんな愚痴を言いながら、怜達より年上の三人組が泣きそうな顔で去って行く。
「…………」
「…………」
思わずそれを無言で眺める怜と桜彩。
視線を動かせば、他に出て来た客もその大半が怖がっているようだ。
「えっと……どうする? 本当には入れるか?」
「う、うん……。が、頑張る……」
そう言ってホラーハウスへと視線を向ける桜彩だが怖がっているのは一目瞭然だ。
そんな桜彩の姿を見ているとなんだか逆に落ち着いて来る。
「桜彩」
プルプルと震える桜彩に、怜は自らの腕をそっと差し出す。
すると桜彩も意図を察したのか、怜の腕に自分の腕を絡ませる。
「これで少しは平気か?」
「うん。ありがとうね」
怜の問いに桜彩がにっこりと笑み浮かべて見上げてくる。
先ほどまでの怖がり方がまるで嘘のようだ。
「俺が隣にいるからな」
「うん。怜が隣にいてくれるなら怖くないと思う。あ、でももし怖くなっちゃったら、ぎゅって強く握っちゃうかもしれないけど……」
「気にしないで良いって。それで桜彩が落ち着いてくれるんなら充分だ」
「ふふっ。ありがと、怜。それじゃあ行こっか」
「ああ。行こう」
そう言って不気味なホラーハウスへと歩を進める。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「うんうん。良い感じだね」
「なんたってお化け屋敷は鉄板だもんな!」
「そうだね。まあアタシがサーヤを煽ってれーくんに密着させるつもりだったんだけど、まさか自分からやってくれるとは思わなかったな」
「午前中にも似たようなことやってるから思い切りが良かったのかもな」
入場前にカップルのように楽しもうということで腕を組ませることにしたのが今活きて来たのかもしれない。
「後は中でどのくらい良い感じにイベントが起きるかだよね」
「まあ桜彩っちは本質的に怖がりだからな。もしかしたら体ごと怜に抱きつくかもよ」
「中でサーヤを脅かしてみるのもアリかもね。まあ本当に怖がってたらやらないけど」
そんなことを話していると、先行した二人が振り向いて声を掛けてくる。
「おーい、二人ともどうしたー?」
「早く行こうよー」
腕を組んだまま楽しそうな笑みをこちらへと向ける二人に向かって早歩きで歩き出す。
「ごめんごめん。さ、入ろっか」
「怜。さやっちをちゃんと守ってやれよ」
「当然。陸翔もな。……と言っても蕾華はこういうの大丈夫そうだけど」
そもそも蕾華はホラー系は充分に強い。
映画で怖がっているところなど数えるくらいにしか見たことがない。
「あはは。まあいきなり来られると怖いからね。その時はりっくん、ちゃんと守ってね!」
「おう! 蕾華はオレが絶対に守るからな!」
「ありがと、りっくん!」
そう言って蕾華が陸翔へと抱きつく。
「だからそうやってナチュラルにいちゃつくなっての」
「そうだよ。仲が良いのは分かるけど」
その様子を見て肩をすくめて苦笑する怜と桜彩。
一方それを聞いた陸翔と蕾華は何を言っているのかと顔をしかめる。
(……お前らには言われたくねえよ)
(……さっきの二人の姿、本人達に見せてあげたいよね)
まるで自分達のことを自覚していない二人に、陸翔と蕾華ははあ、とため息を吐いた。




