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【第十章前編 クリスマス】隣に越してきたクールさんの世話を焼いたら、実は甘えたがりな彼女との甘々な半同棲生活が始まった  作者: バランスやじろべー
第五章後編 ダブルデートと恋心の自覚

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第280話 一杯のジュースと二本のストロー

「さて。それじゃあ次はデザートだね」


 何はともあれひとまずケバブとポテトを食べ終えた四人。

 当然これで終わりというわけが無く、この後はデザートの時間だ。


「じゃあ次は俺達が買って来るよ。桜彩、行こうか」


「うんっ」


 先ほどは陸翔と蕾華が買ってきてくれた為、今度は自分達で買いに行こうと提案する。

 だがそんな怜より早く陸翔と蕾華が席を立った。


「いいっていいって。オレと蕾華で買って来るから怜とさやっちは座っててくれ」


「うんうん。れーくん今日は誕生日なんだしさ」


「いや、別にそれはかまわないって」


 誕生日だからとかそういったことは特に気にすることではないだろう。

 怜としてはこの四人で遊べるだけで充分に楽しいし嬉しい。

 しかしそんな怜の言葉に蕾華はゆっくりと首を横に振る。


「ううん。実はね、さっき面白そうなの見つけて来たんだ。だからアタシ達で買いに行こうかなって」


「そうそう。ってなわけで、大人しく座ってろって」


 そう言って陸翔と蕾華は有無を言わせずに怜を座らせてデザートの購入に向かって行った。

 残された怜と桜彩は一瞬ポカンとした顔になるが、すぐに笑みを浮かべ合う。


「それじゃあお言葉に甘えるか」


「そうだね。でもいったい何を買って来るのかな?」


 昨日の時点でこのフードコートで売っている商品はある程度調べてある。

 こうして眺めてみても、特に目新しい物もなさそうだが。


「ていうかさ、昨日桜彩はチュロスを食べたいって言ってたよな?」


「うん。まあチュロス以外でも構わないんだけどね」


「ベビーカステラとかな」


「そうだね。あ、でもベビーカステラは初デートの時にも食べたよね」


 そんなことを話していると、陸翔と蕾華が戻って来た。


「おっまたせーっ!」


「おかえり……え…………?」


 いったい何を買って来たのかと手元を覗き込んだ怜だが、それを見て絶句する。

 隣に座る桜彩も驚いた顔をして固まってしまう。

 陸翔の手にはチュロスが持たれている。

 先日下調べした時に桜彩が食べたいと言っていた物で、プレーンとココアが二本ずつ。

 これに関しては良いだろう。

 一本一本が長いので、それぞれシェアして食べればいいだけだ。

 問題はもう一つの方。

 蕾華の手に持たれていたのはドリンク。

 ケバブと一緒に買って来たコーラは既に無くなっており、チュロスを食べるのには飲み物が必要だという判断は良く分かる。

 紙コップではなく大きなグラスに入ったトロピカルドリンク。

 ここまでは構わない、ここまでは。

 問題はそのドリンクの本数だ。

 怜達は全員で四人なのに対し、蕾華が持ってきたドリンクは二杯だけ。

 明らかに数が足りていないのだが、その理由はもう明白だ。


「こ……これは…………」


「おい、蕾華……」


「え、なーに?」


 とぼけたようにニコニコ、いやニヤニヤとした笑みを浮かべている親友に対して怜は訝しむような目を向けて問いかける。


「一応聞いておくぞ。何で俺達四人に対して飲み物が二つだけなんだ?」


「え? 別にいーじゃん。そもそも量は多いんだし、ちゃんとそれぞれにストロー二本ずつ刺さってるんだから良いでしょ?」


 それがどうした、と言った感じで返されてしまう。

 つまるところ、二人が買って来たトロピカルドリンクのグラスには蕾華の言う通りそれぞれストローが二本ずつ刺さっていた。

 ご丁寧に二本のストローが絡み合ってハートの形を作っている。

 まごうことなき恋人専用のドリンクだ。


「良いわけねえだろうが! 何でこれなんだよ!」


「何で良くないの! 別に良いじゃん!」


「そうだぞ。蕾華の言う通り何の問題もねえだろうが」


「問題しかねえっつってんだよ!」


 親友二人から隣の桜彩へと視線を移すと、桜彩は目を見開いたままプルプルと震えていた。


「こ、これを、怜と……」


 信じられないようなものを見たようなリアクションをする桜彩。

 いや、怜としても信じられないというか信じたくないというかそんな感じではあるのだが。


「わ、私と、怜が……これを、一緒に…………」


「うん! ほらサーヤ! れーくんと一緒に飲んで飲んで!」


「え、えっと…………」


 オロオロとしながら怜を見てくる。


「いや、後二杯追加で買ってくれば――」


「ねえサーヤ! れーくんと一緒に飲むのが嫌ってわけじゃないよね!?」


 桜彩の対面に座る蕾華が怜の言葉を遮りテーブルへと身を乗り出して力強く桜彩へと問いかける。


「え……? う、うん……。た、確かに嫌ってわけじゃあないけど……」


「いやだから――」


「これ、れーくんと一緒に飲んだら楽しそうだよね!?」


「た、確かに楽しそうではあるけれど……」


「だから後二本追加でだな――」


「ってことは別に一緒に飲むのに何の問題も無いよね!?」


「も、問題は無いけど……」


「だから人の話を――」


「うんうん! 二人ってとっても仲良しだもんね!」


 怜が何か言おうとする度に蕾華がどんどんと言葉を重ねて話を遮る。

 当然ながら蕾華としては(一応)冷静な怜を相手にするよりも、冷静さを失った桜彩に考える暇を与えず一気に攻め立てた方が楽だということだろう。

 焦ると暴走しがちな桜彩を的確に煽っていく。

 結果として桜彩の思考は蕾華の目論見通りに傾いていく。


「え、えっと……い、一緒に飲む…………?」


 桜彩が恥ずかしそうにしながらもおずおずと問いかけてくる。

 そんな桜彩に対して親友二人はあと一押しで落とせるということを確信する。

 そしてダメ押しとばかりに一芝居。


「なあ蕾華。それじゃあオレ達が先に飲もうぜ」


 そう言って陸翔がもう一つのドリンクを蕾華との間に置く。


「そうだね! そうしよっか!」


 二人でそれぞれストローへと顔を近づけていく。


「それじゃあせーのっ!」


 合図と共に二人同時にストローへと口を付けてその中身を飲んでいく。

 グラスの中身が三割程減った所で二人がストローから口を離してにっこりと笑い合う。


「うんっ! 美味しいね、りっくん!」


「そうだな! 蕾華と一緒に飲むってのはやっぱり格別だな!」


「えへへーっ、ありがと!」


 二人共とろけるような表情で見つめ合う。

 そしてそのままニヤッとした笑みを浮かべて怜と桜彩の方へと振り返る。


「ってわけでほら! 次は怜とさやっちの番だぞ!」


「ほらほら! れーくん、サーヤ、どうぞ!」


 そう言いながら蕾華がテーブルの中央に置かれていたもう一つのドリンクを怜と桜彩の方へずいっと移動させてくる。


「…………」


「…………」


 一方で怜と桜彩は顔を真っ赤にしたままお互いの顔を見て、そしてバッと視線を外して逆の方向を向いてしまう。


「ねえ。れーくんとサーヤってアタシとりっくんと同じくらい仲良いよね! あれ、もしかしてそんなことないの?」


「おい蕾華。そんなことないわけないだろ?」


「だよねー。れーくんとサーヤ、本当に仲良いもんねー」


 親友二人がここぞとばかりに煽ってくる。

 というか、それは仲が良いから出来るというものではないだろう。

 だがそのような理屈は勢いに押された桜彩にはまるで通用しない。


「ね、ねえ……。私は、良い……よ……?」


「え、えっと……」


「そ、それとも……怜は、私と一緒に飲むの、嫌……?」


 顔を赤くした桜彩が不安そうに上目遣いで問いかけてくる。

 怜の経験上、これを断るのは難しい、というか断ることが出来たためしがない。


「ねえ、怜……」


「い、嫌なわけないだろ」


 当然ながら今回も陥落してしまう。

 実際に桜彩と一緒に飲むということが嫌だということはない。

 ただもの凄く照れくさいというだけであって。


「そ、それじゃあ……怜……」


 桜彩がゆっくりとストローへと口を近づける。


「あ、ああ……」


 一瞬遅れて怜も同じようにストローへと口を近付けて


「「あっ……」」


 至近距離に迫った相手の顔をみて、自らの顔を真っ赤にして驚いてしまう。


「えっと……」


「うん……」


 恥ずかしさで顔が茹で上がりそうになりながらも、相手の顔を見ながら再度ゆっくりとストローへと口を近づける。

 そしてついに二人の口がストローへと到達した。


「せ……せーの……」


 一緒のタイミングでジュースを飲んでいく。

 すぐに冷たい液体が口の中に流れこんで来たのだが


(う……は、恥ずかしくて味なんて分からない……)


 口の中に本来であれば冷たくて甘いジュースが流れ込んでくるのだが、今の怜にとっては恥ずかしすぎて味を楽しむ余裕など一切ない。

 恥ずかしさで顔を真っ赤にしながらふとグラスから正面へと視線を移すと、同じく顔を真っ赤にした桜彩の顔が瞳に映る。

 一口ゴクリと飲み込んだところでストローから口を離してしまう怜。


(も、もう限界……)



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



(うぅ……は、恥ずかしくて味なんて分からないよ……)


 当然ながら桜彩としてもトロピカルドリンクを味わう余裕などは無い。

 恥ずかしさで顔を真っ赤にしながらふとグラスから正面へと視線を移すと、同じく顔を真っ赤にした怜の顔が瞳に映る。

 一口ゴクリと飲み込んだところでストローから口を離してしまう。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 一口飲んだところで口を離してしまった二人。

 お互いに真っ赤になった顔を相手から背け合っている親友の様子を陸翔と蕾華は楽しそうに眺めている。

 当然ながらスマホを二人の方へと向けながら。


「うんうん。良い感じじゃない?」


「だな。ってかもうオレらのこと完全に忘れてそうだけど」


「とりあえず作戦成功だよね。それで今の上手に撮れたかな?」


 スマホを操作すると、一緒のグラスからドリンクを飲む二人の姿がムービーで流れる。


「うんうん。良い感じだね!」


「だな!」


 その後、当然のようにお互いにチュロスを食べさせ合ったり照れながらも同じジュースを二人で飲んだりと、楽しい昼食の時間は過ぎて行った。

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