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【第十章前編 クリスマス】隣に越してきたクールさんの世話を焼いたら、実は甘えたがりな彼女との甘々な半同棲生活が始まった  作者: バランスやじろべー
第五章中編 『好き』という気持ち

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第267話 奏と美都

「ふぅ……。何やってるんだろうな、私……」


 空き教室を出て扉を閉め、一人になったところでそう呟く美都。

 先日から続く二人の不思議な態度について尋ねた所、どうやら一番当たっていて欲しくない予想が当たっていたようだ。

 もっともなぜかあの二人はそれに気が付いていないようだが。


(敵に塩を送る、なんてもんじゃないよね……)


 今日、美都がやったことはおそらく恋敵に対しての後押しだろう。

 もしかしたらこれがきっかけで、二人はお互いに抱いている気持ちに気が付くかもしれない。

 そうなればそのまま二人の関係が進むということは充分に考えられるだろう。


(でも、仕方ないよね。だって、それはそれとして光瀬先輩には幸せになって欲しいんだもの)


 どうしようもなく困っていた自分を助けてくれた。

 火傷をさせてしまっても決して責めることなく、むしろ気遣ってくれた。

 誕生日がバレてしまった時は素敵なサプライズプレゼントを渡してくれた。

 その他にも勉強を教えてくれたり等、怜には世話になりすぎている。

 そんな怜のことを好きになるのは当然だし、そんな怜だからこそ本当に幸せになって欲しい。

 もちろん、怜を幸せにするのが自分であればと強く思う。

 しかし、それ以上に怜を幸せに出来る相手がいるのであれば――


「いっそのこと、既に付き合っていてくれていたのなら諦められたのになあ」


 ため息とともにそんな台詞が口から出る。

 自分が怜に助けられた時、すでに怜と桜彩が付き合っていてくれれば怜に対して恋心を抱かなかったのかもしれない。

 それならばもういっそのこと諦めは付くのだが。


「まだ諦めたわけじゃないって言ったけど……でも…………」


 とはいえ自分にはもう勝ち目のないことは充分に分かってしまっている。

 最後に美都は後ろを振り返り、まだ桜彩のいる空き教室へと視線を送った後ゆっくりとその場を離れて行く。

 そのまま少し歩いて行き、充分に離れたところで口を開いた。

 自分をこんな気持ちにさせておいて、それでもこの気持ちが届かせてくれないこの場にいない相手に向けて。


「光瀬先輩の、バカ…………」 



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「あーあ……フラれちゃったかあ……」


 家庭科室を出た後、誰もいない階段の踊り場でそう呟く奏。

 確信していた以上、驚きはない。

 しかし実際にこうして返事を貰うと思った以上にショックを受けてしまった。

 もっともなぜかあの二人はお互いに相手に向ける気持ちに気が付いていないようだが。


(あーあ……。このまま黙っていたらなあ……)


 そうすればあの二人はお互いに対する恋心を自覚することはこの先もなかったのかもしれない。

 そして、自分のこの気持ちが実ることになったのかもしれない。


(でも、もし万一そんな状態できょーかんと付き合っても、きっと楽しくなかっただろうし)


 怜が心の片隅で桜彩への想いを抱えたまま自分と付き合うことになっても、決してそれは良い結末には向かなかっただろう。


(だけど、しょうがないか。それはそれとして、きょーかんに幸せになって欲しいのも事実なんだし)


 あの時、あの場にいた中で怜だけが助けに来てくれた。

 四対一という圧倒的に不利な状況にもかかわらず、身を挺して守ってくれた。

 そんな怜のことを好きになるのは当然だし、そんな怜だからこそ本当に幸せになって欲しい。

 もちろん、怜を幸せにするのが自分であればと強く思う。

 しかし、それ以上に怜を幸せに出来る相手がいるのであれば――


「いっそのこと、既に付き合ってたんなら諦められたのになあ」


 ため息とともにそんな台詞が口から出る。

 それならばもういっそのこと諦めは付くのだが。

 最後に奏は後ろを振り返り、まだ怜のいる家庭科室へと視線を送った後ゆっくりとその場を離れて行く。

 そのまま少し歩いて行き、充分に離れたところで口を開いた。

 自分をこんな気持ちにさせておいて、それでもこの気持ちが届かせてくれないこの場にいない相手に向けて。


「きょーかんの、バカ…………」 



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「光瀬先輩の、バカ…………」


「きょーかんの、バカ…………」


 ふと口にしたその台詞。

 それを発した二人の耳に、似たような台詞が耳に届く。

 慌ててそちらへと目を向ければ、そこにはそれぞれが良く知る相手が立っていた。


「……宮前先輩?」


「……美都ちゃん?」


 お互いの視線がお互いの顔へと向く。

 多少の気まずさを感じるが、そこで二人共、相手が泣きそうな、というか泣いた痕の残っている顔でいることに気が付く。


「あの、どうかしたのですか……?」


「美都ちゃんこそ、どうかしたん……?」


「え、えっと…………」


「…………」


 お互いに問いかけるが、どう言葉を返して良いか分からず無言の状態が続いてしまう。


「と、とにかく移動しよっか……」


「は、はい……」


 このまま廊下で立ち尽くしているわけにもいかない為、奏の提案に美都も頷き二人で空き教室へと移動する。

 そして二人は、今までのいきさつをお互いに話した。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「ええっ……!?」


 奏の話を聞いた美都が思わず声を上げて驚いてしまう。

 それもそうだろう。


「ほ、本当ですか!?」


「うん。マジマジ」


「宮前先輩が光瀬先輩のことを好きだったなんて……」


 美都もまさか奏が怜のことを好きだとは夢にも思っていなかった。

 友人としてはとても仲が良いようには見えていたが。


「バレないようにしてたからね」


「はい。全く気が付きませんでした」


「あはは。……でもそっか。フラれちゃったね、お互いに」


「はい……。残念ですけど……」


「あははっ。そーだね」


「ふふっ、そうですね」


 悲しいはずなのになぜか笑ってしまう。


「ねえ美都ちゃん。今日はこれから暇?」


「はい。予定はありません」


「そっかそっか。それじゃあさ、今からカラオケでも行かない? ぱーっと大声出してさ」


「あ、良いですね。お付き合いします」


「良し! それじゃあ行こっか!」


「はいっ!」


 そして二人は振られた者同士、仲良く憂さ晴らしのカラオケへと足を向ける。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「…………それで、いったいこれはどういう状況なの?」


 カラオケボックスの一室。

 いきなり奏から呼び出された蕾華は頭を抱えて呼び出した本人へと視線を向ける。


「だからメッセに書いた通りだって。フラれた者同士でカラオケで色々と発散中」


 蕾華の質問にあっけらかんという奏。

 美都とカラオケボックスへと入った後、蕾華に暇なら来るように伝えたのだ。

 その際、実は自分が怜のことを好きだったことも含めて包み隠さずに報告した。

 当然、そのメッセージを見た時、蕾華はあまりのことに言葉を失ってしまうほど驚いた。


「え、えっと、さっきぶりです、竜崎先輩」


「うん。美都ちゃん、さっきぶり。ってわけでさ、これ一体どういうこと? もうちょっと分かり易く説明して」


「その、私と宮前先輩が共に光瀬先輩に振られてしまったので、色々と発散しようということでカラオケに来ました」


「いや、別にそれは良いんだけどさ、なんでアタシまで?」


「す、すみません。私にも分かりません……」


 申し訳なさそうに頭を下げる美都。

 そもそも蕾華を呼んだのは奏の独断であり美都の知るところではない。

 先ほどまでは奏と共にいつもとは全く違うテンションで盛り上がっていた美都だが、一応蕾華に対してはいつもの態度で接している。


「いやー、せっかくだからさあ、愚痴を言う相手が欲しいなって」


「…………」


 奏の言葉に蕾華は何も言えなくなってしまう。

 その間にも異様なハイテンションの奏と、いつもよりもハイテンションな美都はどんどん盛り上がっていく。


「きょーかんのばっかやろーっ!!」


「ば、ばかやろーっ!」



「こんなに良い女二人もフリやがってーっ!」


「そ、そうだそうだーっ!」


 もはや歌どころではなく、半ばやけになって叫んでいるだけだ。


「こーなったらきょーかんよりもいい男見つけてやるーっ!!」


「え、えっと……そう簡単に見つかるのでしょうか……」


「…………美都ちゃん、それは言いっこなしだって」


 奏の言葉に素で返答する美都。

 その返答に奏も一気にテンションが落ちてしまう。

 なにせ二人共本気で怜に恋をしていたのだ。

 そう簡単に割り切れるようなことではない。


「…………ホント、アタシ何でここにいるんだろ……………………」


 盛り上がったり盛り下がったりする二人を横目で見ながら、蕾華は大きくため息を吐いた。

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