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書き溜め分の投稿です。
遅筆のため追いつかれないかヒヤヒヤしています。
「やぁっっっぱりここにいたぁ!どんだけいなくなれば気がすむのよ!!」
まだ見ぬ風を想っていた心が一瞬にして引き戻された。
聞きなれた声の主は―――
「―――楓、毎度毎度そんなに大きな声を出さなくてもいいんだよ?聞こえてるからね?」
「毎度毎度連れ戻しに行かされるアタシの身にもなりなさいよ!声も出るわ!」
「マジメすぎるんだよ楓は。ちょっとくらいサボったってバチなんか当たらないんだから。」
「ちょっとじゃないのよアナタは!アタシ数えてるんだからね?今月はもう13回目よ!」
「・・・うん。それは確かにちょっとどころじゃないかもね。」
予想した倍に近い回数を宣告され、僕も少し申し訳ない気持ちになる。
「悪かったよ楓、迎えに来てくれてありがとう。一緒に戻ろっか。ジュースでもおごるよ。」
「・・・なんか急に素直になられても気持ち悪いわね。いいのよ別に。アタシあの授業そんなに好きじゃないし。」
芝生に足を伸ばして座っていた僕は、リズムをつけて立ち上がり、ズボンのお尻についた草を掃った。
芝生に残っていた僅かな湿気がズボンに移り、お尻が少しだけ湿っぽい。
そういえば一昨日雨が降ったなぁとぼんやり考えながら僕は、後ろで腕を組んで待っている女の子のほうを見やった。
肩まで伸びた赤毛の髪にネコのように凛とした目の女の子。鼻筋もすらっとして、いかにもクールビューティといった感じのこの子は楓。お互いの両親がもともと仲が良く、必然的に幼い頃から一緒にいることが多かった、いわゆる幼馴染だ。小さい頃はよくこの庭園で遊んでいたな。
僕と同い年で僕よりちょっとだけ誕生日が早い楓は、まるで姉ができの悪い弟に対して接するかのように時に厳しく、時にちょっとだけ優しい。いや前言撤回。あんまり優しいことはない。昔はそんなことなかったんだけどなぁ・・・。
僕の両親が4年前に他界して以来楓の両親は、まるで自分の息子のように僕の身の回りの世話をしてくれている。実際に何度か「養子にならないか」と提案もしてくれているけれど、ゆらゆらと躱しているような状態である。
けれど間違いなく楓の両親は、僕にとっても第二の両親だ。楓と楓の両親がいなければ今の僕がここにいないことはよく分かっているしとても感謝している。
「お待たせ、楓。寄り道してジュースを買って行こう。先生にはフウトがいつもの場所にいなくて見つけるのに時間がかかった、とでも言えばいいよ。」
「アナタのペースに合わせて寄り道してたら授業が終わっちゃうわ。ジュースは今度でもいいから戻っておきましょ。」
やっぱりマジメなんだよな、楓は。
僕たちのクラスでも中心的な存在で、よくみんなに相談されているところを見かける。
授業が終わるまではのんびりしようという僕の魂胆は、そんな楓のマジメさの前に一瞬にして瓦解した。
「でもさフウト、毎度毎度こんなところに来て何してるわけ?ぼーっとしているくらいなら授業に出ていればいいじゃない。出席さえしていればぼーっとしていてもいいんだし。」
なるほどさすが楓。まったくもって反論の余地がない。
全面的に僕が悪い。
けれど
「風が吹かないかなって。待ってるんだよ。見てみたいからさ。」
そう。ただそれだけ。
僕はこの世界に風が吹くところを見てみたいだけなんだ。
「――アンタまだそんなこと言ってたの?とっくの昔に飽きたものだと思ってたわ。」
目を細めて呆れた表情を見せながら、楓は呟いた。