「虹村ヒロユキ」通称「論破王」が、勇者学園の希望の星に転移して、強大な敵に立ち向かいながら、なんでもありの第二の青春を謳歌する、コメディテイストの物語
1 《論破王虹村ヒロユキと異世界からの呼び声》
時は2022年2月、世界は依然としてコロナ禍の真っ只中にあり、人々は先行きの見えない不安な日々を送っていた。
そんな中、「論破王」の異名を持つ言論人「虹村ヒロユキ」は、ニューヨークで悠々自適な日々を送っていた。
若くして富と名声を獲得したヒロユキは、40歳を目前にした現在、早くも人生のウイニングラン状態に突入していたのだ。
〈今日は軽くゲームをした後、半日近くも映画を観ていたな。もう夕方か、早いもんだなあ。そろそろユーチューブの配信でもするか〉と、ヒロユキは自宅にいる時ふと思い立ち行動に移した。
彼は酒を呑みながら、視聴者から寄せられた質問や相談に答えはじめた。
「世界はコロナ騒動により大混乱に陥っていますが、ヒロユキさんは、この状況を追い風にして、より一層の成功を収めているように感じます。そんなヒロユキさんに今の心境をお聞きしたいです」と、ヒロユキが視聴者からの質問を読み上げた。
「そうっすねー。正直、他人事とは言えないまでも、『みんな大変そうだなー』って、高みから見下ろしてる状態ではありますね」と、ヒロユキが回答しはじめた。
「自慢じゃないですけど、僕って割と若くして成功しているんで、もう一生生活に困らない程の貯金があるんですよね」
ここでヒロユキは酒を一杯口にした。
「と言うのも僕って、昔から無駄使いを殆どして来なかったので、倹約が身に染みていて、お金が貯まっていく一方なんですよ、有り難いことに」
と、ここでヒロユキは再び酒を啜った。
「だから正直、もう働かなくてもいい状況ではあるんですけど、一日中ゲームとか、映画ばっかり観てるだけだと、やっぱり自分が腐っていく感覚が拭えないんですよね」
ここでヒロユキは一呼吸置き、再び話始めた。
「それで、動画配信とか、色んな番組に出演し続けているんですけど、これが思いのほか上手くいって、自分でも驚いていますね。で、結論を言うと、これ程までにやることなすことが上手くいって良いのかなって思う、今日この頃ですね。はい。有り難い話です。みなさん、大変だと思いますが、頑張って生きてください」
と、答え終わると、ヒロユキは次の質問に移った。
生放送を終えた後、彼は寝床に潜り込み、ベットの上で仰向けになった。
〈今日も楽しかったなー。何の不安もないし、ぐっすりと眠れそうだ。明日は夕方まで仕事を入れてないから、昼くらいまで寝てよっかなー〉
そう考え終わるやいなや、タカユキは瞬く間に眠りについた。
「ヒロユキさん、聞こえますか? 聞こえたら、返事をしてください」と、女の声がした。
「はいっ?」と、ヒロユキは驚いた様子で返事をした。
彼は、妻が起こしに来たのだと思った。
〈おかしいな。もう、そんな時間なのか? まだ、大して眠っていない気がするんだが〉と、ヒロユキは思った。
「ヒロユキさん、私の話を聞いてください。かなり深刻な問題ですが、時間がないので、簡潔に話しますね」と、女が話始めた。
その声の主は丸い眼鏡をかけている若い女性であった。内気そうで、垢抜けていなかったが、美少女といっても過言ではなかった。
ヒロユキは直観的に、これは夢であることを理解した。
〈やれやれ。僕は、夢の中まで質疑応答をやらなきゃならないのか。とんだ職業病だな〉と彼は思い、苦笑いをした。
「はい、はい。わかりましたよ。聞きましょう」と、彼は仕方なく承諾した。
「ありがとうございます。では早速本題に入らせていただきますね」
「どうぞ。手短にお願いしますね。寝たいんで」
「あの、私のいる世界を救いに来てもらえませんか? 今、というか、長らくの間、私のいる世界は、危機に瀕しているのです」
「私のいる世界って、どうゆうことですか?」
「こちら側の世界です。あなたのいる世界とは、世界線が異なるのです。言ってしまえば、異世界です」
「あー、もしかして、異世界転生って奴ですか? そういうのって今、腐るほど出回ってるので、競争率が激しくて、かなり厳しいと思いますよ」
「はい?」と、女は困惑しているようだった。
「まあ、僕に目をつけたのは正解ですね。自分で言うのもなんですけど、今かなりホットな存在なんで、僕を主役にした異世界物を上手く書ければ、成功する可能性は、それなりに高いんじゃないかと思います」
「ちょっと何を言っているのか分かりかねますが、話が行き違っているのは確実だと思います。そうゆうことではありません。実際に私のいる世界に来てもらえませんか? という話です」
「ほー、そう来ますか。そんなことが実際に可能であり、僕に来て欲しいというわけですね?」
「はい、その通りです。あたしの力をもってすれば、実際に異世界転生(?) が可能です。ですが、もう時間があまりありません。一早く、ご決断して頂きたいのですが」
「あなたの話は一応信じてみましょう。そうしないと話が進まないようなので」
「ありがとうございます」
「ですが、困っているから異世界に来て欲しいと言われて、のこのこと、二つ返事でついていくような人は、かなり頭が悪いか、余程切羽詰まった人生を送っている人だと思います」
「その通りだと思いますが、本当に時間がないので、騙されたと思って付いて来てください」
「まずは、あなたの言う異世界が、どんな世界なのか、詳しく説明してください。それから考えます」
「あー、もう。本当に時間がないのに! じゃあ一度しか言わないので、よく聞いてくださいね」
「あのー、とりあえず、感情的になるのは、やめてもらっていいですか?」
「はい、はい。わかりましたよ、もう。一言で言うと、剣と魔法の世界です。モンスターとかが当たり前のようにいる世界です」
「あー、よくあるやつですね」
「あなたの世界にいる住人達は、こうゆうファンタジー物に目がないと聞きました。どうですか? 来る気になりましたか?」
「なるほどね。で、僕がその世界に行くメリットって、なんかあるんですか?」
「今ならなんと、勇者学園に通う勇者の卵に転生出来ますよ! どうですか? 楽しそうでしょう?」
「まあそこそこ楽しそうなのは、なんとなく分かりました。でも僕は今、この世界でそれなりに成功していて、何不自由なく暮らしているんですよ」
「それは承知しています」
「そんな僕がわざわざ、危険がつきものの勇者の卵に転生して、危機に瀕している世界を救いに行くと思いますか? 」
「そこをなんとかお願いします。あなたの力が必要なのです。あっ、そうだ、若くして成功したあなたは、そちらの世界ではもう、やる事があまりないんじゃないですか? 単調な毎日に、飽き飽きし始めているんじゃないですか?」
「それはまあ、そうですね。やりたい事はもう一通り、やり終えたと思います」
と、ここでヒロユキは話すのをやめて、何かを考えはじめた。
「あのー、一つお聞きしたいんですけど、僕が転生した場合、転生した先での僕の人生って、成功が確約されているとかあるんですか?」と、彼が再び口を開いた。
「確約はされてはいません。全てはあなた次第です。ですが、あなたは伝説の剣を抜く事が出来た、勇者学園期待の星に転生出来ます。そこに、あなたの頭脳というか、悪賢さが加われば、無敵の勇者が誕生するのではないかと、私は目論んでおります」
「はあ、話を聞いている限り、悪くはなさそうですね。あの、もう一つ聞きたいんですけど、僕が世界を救うというのは、確定事項というか、使命みたいなもんなんですか?」
「いや、そこはもうあなたの裁量にお任せします。こちらからすると、あなたが来てくださるだけで、かなり有り難いのです」
「はあ、そうですか」
「ですので、あなたのお好きなように、ファンタジーライフを存分に満喫出来ます。ああ! もう限界が来ました。本当に時間がないのです。三秒以内に『はい』か、『いいえ』でお答えください。3秒前、2、1、0」
2 〈論破王虹村ヒロユキとリョウド勇者学園〉
虹村ヒロユキは、何者かに頭を思い切り叩かれて、思わず起き上がった。
「我輩の授業で居眠りとは、いい度胸だな」と、見るからに気難しくて、陰気そうな、強面の先生が言った。
「はあ、すいません」と、ヒロユキ。
「流石は伝説の剣を抜いた勇者様だ。他の生徒とは一味も二味も違うようだな」
「はあ、どうも。てか、あなた誰っすか?」
「口の聞き方には気をつけ給え。あまり図にのるなよ」と言うと、強面の先生はタカユキの髪を掴んで、無理矢理引き上げた。
「痛っ」
「言っておくが我輩は、貴様を特別扱いする気は毛頭ない」
「はあ、左様でございますか」
「では、勇者様よ、答え給え。1853年、我が国で起き、以後歴史を大きく塗り替えることになった、あの忌まわしき出来事は何であったか?」
ヒロユキは、寝ぼけ眼で天井を見上げていた。
「どうした? 余裕をぶっこいて、眠っていたからには、余程自信があるのだろう?」
「えーと、流石にこれは簡単ですね。1853と言えば黒船襲来、ペリー来航に決まってますよね」
ヒロユキがそう答えると、教室にいる生徒たちの大半が、笑いを堪え切れずに吹き出した。
「ふざけるのも大概にしたまえ」と、強面の先生が言った。
先生は余程ツボにハマったらしく、笑いを押し殺そうと、しばらくの間悶え苦しんでいた。
「一体貴様はどこの世界線の話をしているのだ? 冗談はほどほどにしたまえ、ブフッ」と、強面の先生。
〈あっ、あの夢。やっぱり本当だったんだ。僕は本当に異世界に飛ばされたのかもしれない〉と、ヒロユキは思った。
「それとも、君は本当に答えがわからないのかね?」と、再び強面の先生が尋ねた。
「すみません、寝起きなんで、記憶が曖昧なんです」
「ならば、答えが浮かんでくるまで待とう」
それから五分経っても、答えは出なかった。
「我輩は正直、失望したぞ。未来の勇者様と名高い貴様が、このザマとはな。どうやらこの世界は、依然としてお先真っ暗のようだ」と、強面の先生が嫌味たらしくいった。
「あの、スーザン先生! 彼は未だに夢から覚め切れていないみたいです。授業の進行の妨げにしかならないので、あたしが代わりに答えてもよろしいですか?」と、不意にタカユキの側にいた女子生徒が口を開いた。
彼女はメロディと言う名の、利発そうな雰囲気が特徴的な美少女であった。
「全くその通りだな。よろしい、では君が答え給え」と、強面のスーザン先生。
「1853年、超人の始祖である『ジャッジ・メント』が率いる革命組織により、世界は瞬く間に彼らの支配下に収められ、世界中に『超人賛歌の大号令』が発令されました。我が国では、この出来事を『超人事変』や『超人襲来』などと称しています」と、メロディが答え始めた。
「ここで、超人について簡単に説明します。諸説ありますが、超人とは人類を超越した上位種であり、人智を超えた力を操り、森羅万象をも支配出来ると言い伝えられています」
メロディは尚も話し続けた。
「古来から、人類とモンスターは領土を争い、衝突を繰り広げていましたが、次第にお互いの領土を尊重し合うようになり、いつしか共存の道を辿るようになりました。ですが超人の出現により、パワーバランスは完全に崩れ、人類とモンスターは、彼らの完全な支配下におかれるようになりました」
と、メロディが言い終えると同時に、授業終了を告げるチャイムが鳴った。
「授業に積極的な態度は評価するが、出過ぎた真似は控えたまえ」と、スーザン先生が苦言を呈した。
「はい、すみませんでした」
「今日の授業はこれにて終了とする」
生徒達は続々と教室を後にし始めたが、ヒロユキは呆然としたまま、着席し続けていた。
そんな彼の様子を見て、心配そうに近寄ってくる生徒が、二人いた。
「なあ、大丈夫かよ、ツルギ?」と、キノコのような髪型が特徴的な、金髪の男子生徒が、ヒロユキに話しかけた。
そのメガネを掛けた、小太りの男子生徒の名はマロウである。
「そうよ。今日のあなたは、かなり変よ」とメロディが、続けて話しかけてきた。
彼女は話しながら、ウェーブが効いたミディアムヘアの毛先を弄っていた。髪の色はオレンジ色ががった茶色であった。
ヒロユキ「僕って、ツルギって言うんですね」
メロディ「当たり前じゃない」
ヒロユキ「あの、鏡持ってますか?」
メロディは黙って鏡を取り出し、彼に渡した。
ヒロユキ「これが僕の顔かあ。結構いい感じですね。いかにも勇者らしい凛々しさがある」
マロウ「なあツルギ、冗談よせよ」と、不安そうな表情で言った。
ヒロユキ「あの、普段の僕ってどんな感じでしたか?」
メロディ「あなたは真面目で、正義感に溢れていたわ。てか本当に大丈夫? 頭変になったんじゃない?」
ヒロユキ「正直に言うと、大丈夫じゃないです。どうやら記憶を喪失したみたいなんです」
〈異世界から転生して来ましたとは言えるわけがない〉と、彼は考えていた。
それを聞いたツルギの友人二人は、不安そうに顔を見合わせた。
メロディ「記憶って、どこからどこまで? まさか、あたしたちのことも思い出せないの?」
ヒロユキ「はい。自分が何者なのかすらも、分かりません。ちなみに、ここは一体どこですか?」
メロディ「リョウド勇者学園よ」
マロウ「てか、いつからそうなったんだい?」
ヒロユキ「多分、あの高圧的な教師に、頭を強く叩かれたせいだと思います」と、嘘をついた。
メロディ「そんな! あんまりだわ!!」
マロウ「信じられない」と、頭を抱えながら言った。
ヒロユキ「僕、これから校長に会いに行って、事情を話してくるつもりです」
メロディ「そうね。このままだと、授業どころじゃないものね。あたしもついて行くわ」
マロウ「ぼ、僕もいくよ」
ヒロユキ「みんな、ありがとう。証人がいれば、記憶喪失になった経緯の信憑性が上がると思うんで、助かります」
マロウ「たしかに、あれは酷かったよ」
メロディ「本当にあんまりだわ。よりによって、あなたが」
そう言うと、彼女は泣き始めた。
ヒロユキ「まあ、そんなに心配しないでください。時間が経てば元に戻るかもしれない。たとえそうでなくても、すぐに失った分の知識を埋め合わせてやりますよ」
マロウ「うん。君なら、なんだって乗り越えられるさ。だって君は約束された勇者だもの」
三人は校長室に着いたが、校長は不在で、今夜遅くまで外出中との事であった。
メロディ「仕方ないわね。これからどうしましょう」
ヒロユキ「今何時間目ですか?」
メロディ「六時間目が終わったから、もうすぐ放課後よ」
マロウ「たしか今日は、勇者部の校外活動の日だよ」
メロディ「ええ、知っているわ。でもツルギがこんな状態だし・・・」
ヒロユキ「行きましょうよ。丁度この世界のことを知りたいと、思っていたところなんですよ」
3〈論破王虹村ヒロユキと異世界からの洗礼1〉
三人は学園内の広い敷地を歩きながら、ヒロユキに学内を案内をしていた。
自然が豊かな広い敷地内には、新旧様々な西洋風の建造物が立ち並んでいた。
ヒロユキ「それにしても勇者部の校外活動って何するんですか?」
マロウ「校外でのボランティア活動さ。勇者部では、生徒だけでなく、一般市民からも活動依頼を募っていているのさ」
メロディ「活動は基本的には三人一組で行うの。私達三人は勇者部の活動を通して仲良くなったのよ」
ヒロユキ「なるほど。で、今日は何の依頼ですか?」
メロディ「今日は、カモメ川の下流で暴れているらしい、ネズミ型のモンスターを撃退して、上流に送り返す仕事よ」
三人は校門付近にある木造の小屋に入った。
ヒロユキ「何するんすか?」
メロディ「乗り物を借りるの」
その小屋は、柵に囲われた芝生に繋がっていて、その中には中型のトカゲのようなモンスターが放し飼いにされていた。
一人一匹ずつ二足歩行の肉食竜を借りた三人は、その背中に跨り、現場であるカモメ川を目指していた。
〈へー、意外と先進的だな。文明のレベルは僕がいた世界と大差がないかも〉と、ヒロユキは街を一目みて思った。
彼らがいるリョウドシティは、周囲を山に囲まれた盆地であり、豊かな自然と、歴史ある文化遺産の数々と、先進的な都市空間が共存している、美しい街であった。
〈リョウドシティって、京都に雰囲気が似てる気がする〉と、ヒロユキは思った。
彼が思った通り、その地形や雰囲気などが、日本にある京都市と非常に似通っていた。
〈確かに雰囲気は京都だけど、純和風な要素はほとんどなくて、全体的には西洋的な街並みだな。京都とフランスあたりを足して、二で割ったような街だ〉と、ヒロユキは結論づけた。
現場であるカモメ川に到着した三人は、河川敷に降りていった。
その川はリョウドシティの中央付近にあり、街を縦に二分割するように流れる清流であった。
〈うわっ、これまた奇遇にも京都の鴨川によく似た川だ。フランスにあるセーヌ川的な雰囲気もある〉と、ヒロユキ。
三人は肉食竜から降りると、彼らを待機させ、川辺に向かった。
メロディ「居たわ。あいつらよ。結構な数がいるわね」
ヒロユキ「あの馬鹿でかいネズミがそうなんすか? 想像以上に厄介そうですね」
カモメ川の浅瀬には、獰猛そうなネズミ型のモンスターが10体以上いた。
メロディ「ええ。でも基本的に水の中にいるから、雷属性の呪文を使えば一網打尽に出来るわ」
ヒロユキ「へー。あっそうだ、僕って魔法とか使えるんですか?」
メロディ「実は・・・、あなたは記憶を失う前から、呪文がほとんど使えなかったのよ」
ヒロユキ「まじっすか? よくそんなんで、今までやってこれましたね」
メロディ「でも、あなたにはその伝説の剣があるじゃない」と言って、彼女はツルギの腰辺りを指差した。
ヒロユキ「あっ、この剣ですか?」
メロディ「そうよ。なんせその剣は、真の勇者にしか引き抜けないと言われた、伝説の剣なのよ」
ヒロユキ「まじっすか。まさに主人公って感じじゃないですか! テンション上がってきました」
メロディ「あの、水を差すようで悪いけど、あなたにはあまり無茶して欲しくないから、正直に言うわね」
それを聞いたマロウは、ツルギの顔を見て、苦笑いした。
ヒロユキ「はあ、お願いします。あっ、もしかして、あれだ。魔法が苦手な代わりに、剣術や体術が抜きんでているパターンですか? これも主人公に有りがちっすよね」
メロディ「残念だけどあなたは、魔法が使えないからと言って、剣術や体術が特別秀でている訳でもないのよ」
ヒロユキ「えっ?」
メロディ「あなたは入学式で、学内に伝わる伝説の剣を引き抜き、鳴り物入りで入学した訳だけど、肝心の実力は平均以下で、特になんの輝かしい実績を残すことなく、入学から一年の月日が経ったたのよ。これがあなたの現状よ」
マロウ「そんな言い方ないだろ、メロディ。まあ、でも安心してよ、ツルギ。その剣の切れ味や攻撃力はまさに規格外だから」
メロディ「そうよ。だからあなたは、その剣頼みの戦法しか出来ないのよ」
ヒロユキ「えー、まじっすか」
メロディ「今だから言うけど、その剣が無い時のあなたは、足手まとい以外の何者でもなかったわ」
マロウ「そ、そこまで言う必要はないだろ」
メロディ「雑魚とは言え、今からモンスターと一戦交えるのよ? 彼らとの戦いはいつだって命懸けよ。自分の実力を過信して、相手を甘く見てると、致命傷を負いかねないわ」
ヒロユキ「はあ、わかりました。じゃあ、基本的には二人にお任せします。僕はあなた方が仕留め損なった標的を、この剣で始末しますから」
メロディ「それがいいわね。ただ、怖かったら、無理して戦わなくてもいいからね」
ヒロユキ「了解です」
雷属性の呪文が使えるメロディとマロウの二人で、両サイドからネズミ達に忍びより、挟み打ちにして、一斉に電撃を浴びせかけ、一網打尽にするというのが今回の作戦であった。
だが、いざ奇襲作戦を実行してみると、思いのほか電撃魔法が効かなかった。
メロディ「おかしいわ。これだけやれば、普段なら戦闘不能になっているはずなのに」
彼女はバトルロッドと呼ばれる長い杖を使って戦っていた。
マロウ「そうだね。あっ、まずい、先制攻撃に激昂して、襲い掛かってくるぞ」
彼は片手剣を武器に戦っていた。
二人の戦闘を目の当たりにしていたヒロユキは、自分に何が出来るかを咄嗟に考え、何処かに走り出した。
〈そう言えば、ここに来るまでに、数多くのモンスター達に遭遇したな。話が通じそうな相手に声を掛けてみるか〉と、彼は考えていた。
彼は、橋の下の暗がりに、大きな緑色の竜がいることに気がつき、話しかけた。
ヒロユキ「こんにちは。ちょっといいですか?」
ドラゴンは目を覚まし、気だるそうに動き始めた。
その巨体は苔などの植物に覆われていて、周囲の自然に上手く溶け込んでいた。
「なんか用ですか?」と、ドラゴンは目をパチクリさせながら言った。
それが思いの他間の抜けた声だったので、ヒロユキは笑いそうになった。
ヒロユキ「聞いてください。あなたの力が必要なんです。あのー、カモメ川で好き放題やってる、巨大なネズミ共がいるじゃないですか? そいつらを僕らと一緒に退治しませんか? 」
ドラゴン「なんで僕が?」
ヒロユキ「めちゃくちゃ強そうだからです。あなたが河川敷の王だと言うことは、一目見てわかりました」
ドラゴン「買いかぶりすぎたよ。僕は生まれてこの方、戦いとは無縁の人生を送ってきたんだ」
ヒロユキ「えー? 勿体ないっすね。力の持ち腐れっすよ」
ドラゴン「平和主義者なんで。悪いけど他を当たってよ」
ヒロユキ「そんな事言わずに、お願いしますよ。君だって、アイツらには相当悩まされていると思うんですよ」
ドラゴン「確かにあいつらは騒がしいけど・・・」
ヒロユキ「そこでですよ。僕らと手を組んで、静かな河川敷を取り戻しましょうよ。ね、悪い話じゃないでしょ?」
ドラゴン「でも僕は、騒音とか気にせずに眠れるタイプだから、大して気にならないよ。それに、僕に直接危害を加えてくるわけでもないし」
ヒロユキ「今はそうかもしれません。恐らくあなたにビビって、迂闊に手出しが出来ないんですよ」
ドラゴン「はあ」
ヒロユキ「でもね、あなたが脅威になり得ない存在だと分かると、あいつらは直ぐに調子に乗って、ますます我が物顔でカモメ川を占領するようになり、いつしかあなたを排除しようと、袋叩きにしてくるかもしれませんよ」
ドラゴン「それは参ったなあ。でも、そうなったら仕方がないさ。僕は事を荒だてないように、大人しく身を引いて、別の場所で暮らすつもりさ」
ヒロユキ「それでいいんすか?」
ドラゴン「僕は平穏に生きていければそれでいいのさ。大きな岩や植物のように生きることを心掛けている。戦いなんて以ての外だね。僕の主義に反する行為だよ」
ヒロユキ「それは素晴らしい心がけだと思います。あなたのような心優しい生き物しか居なかったら、世界はいつまでも平和でしょうね」
ドラゴン「・・・・・・」
ヒロユキ「ただね、この世の中はそんなに甘くないんですよ。あなたのように穏便で、善良な存在を食い物して、好き放題やっているような、性悪な連中ばかりがのさばり、デカイ顔をして事実に気がつきませんか?」
ドラゴン「そうかもしれないね。ただ今更どうしようもないんだ。僕は臆病で、弱虫だし、怠け者だから、戦う力がまるでないし、そんなことをする気力もないんだ」
ヒロユキ「あの、マイク・ジャクソンって言う、伝説的なプロボクサーだった人がいるんですけど、知ってますか?」
ドラゴン「誰それ? 聞いたこともないよ」
ヒロユキ「何と彼はですね、中学生くらいまで、根暗で、引っ込み思案のいじめられっ子だったんです」
ドラゴン「へー」
ヒロユキ「彼はいじめっ子達に一切抵抗しなかったが故に、虐められるがままの状態が続き、心身ともにボロボロになっていたそうです」
ドラゴン「お気の毒に」
ヒロユキ「そんな彼がですね、ある日勇気を振り絞って、いじめっ子達に初めて抵抗したことがあったそうです」
ドラゴン「おー」
ヒロユキ「彼は無我夢中で暴れ回り、気がついた時には、大勢のいじめっ子を、たった一人で蹴散らしていたそうです」
ドラゴン「まじか」
ヒロユキ「その日以降、彼を虐める者は誰もいなかったみたいです。彼は自らの手で、平穏な日々を勝ち取ったのです」
ドラゴン「かっけーな」
ヒロユキ「そして自分が恐ろしく強いという事実に気がついた彼は、格闘技を習い始め、それからたった数年でボクシングの世界チャンピオンにまで上り詰め、以後地上最強の男として、長い間君臨し続けたそうです」
ドラゴン「それ、マジ?」
ヒロユキ「マジです。実際に戦ってみて初めて、人は自分の真の実力というものに気がつくのものです。あなたは一度も戦わず、負けっぱなしのまま、その生涯を終えてもいいのですか? 」
ドラゴン「うっ・・・」
ヒロユキ「今のままではあなたは、平穏な人生を送ることすら出来ませんよ」
ドラゴン「なぜ?」
ヒロユキ「なぜならマイクが教えてくれたように、真の平穏とは勝ち取るものだからです。力なき者には、真の平穏というものは訪れないのです」
これを聞いたドラゴンは、テンションが上がり、攻撃力が二倍に跳ね上がった!
ドラゴン「うおー! やってみます! 自分、今ならなんでも出来る気がします!」
ヒロユキ「そうこなくっちゃ。さっ親分、早速行きましょうぜ!」
と言うと、彼はドラゴンの背中に飛び乗った。
ドラゴン「あの、兄貴。マイクさんは、真の平穏を勝ち取ったって言いましたけど、平穏だったのはほんの束の間だったんじゃないですか?」
ヒロユキ「なぜそう思うんですか?」
ドラゴン「だって彼は、格闘技って言う、平穏とは程遠い、激動の世界に足を踏み入れたんですよね?」
ヒロユキ「そうだよ。なんでだと思う?」
ドラゴン「さあ、僕はあなたみたいに賢くないので、見当もつきません」
ヒロユキ「ここからは完全に僕の憶測になるから、参考程度に聞いてほしい」
ドラゴン「はい」
ヒロユキ「多分それはね、彼が虐められていた時、夢にまでみた平穏と言うものを、実際に勝ち取った途端、それは味気ないと言うか、なんだか気の抜けたものに変質してしまったと思うんだ」
ドラゴン「どうしてですか?」
ヒロユキ「と、言うのも、本来平穏と言うのは、活力や向上心などが衰えた人達が願うような、低次元の幸福であると思うんだ。で、真に充実した力の持ち主と言うものは、己の平穏などよりも、もっと大切なことがある事に気がつくと思んだよ」
ドラゴン「それは一体何ですか?」
ヒロユキ「そうだね。そのためにはどんな苦難をも厭わないような、大きくて、建設的な夢を抱くようになるのさ、きっと」
ドラゴン「うおー、まじっすか。自分もそんな境地に辿り着いてみたいです」
ヒロユキ「よしっ、なら手始めに、目の前にいる敵を片っ端からぶちのめせ! 話はそれからだな!」
ヒロユキがドラゴンを引き連れて、メロディ達に加勢する頃、彼女達は苦戦を強いられているところであった。
メロディ「おかしいわ。こいつらがこんなに手強いだなんて」
マロウ「もう、限界だ。耐えきれないよ」
メロディ「ツルギは一体どこに行ったのかしら? まさか怖気付いて、尻尾を巻いて逃げていったのかしら? それなら少し幻滅だわ。スーザン先生が嘆いていた通り、この国の未来はお先真っ暗ね」
マロウ「そんな訳ないよ! 僕らがツルギを信じなくてどうするって言うんだ!ツルギは必ず戻ってくる。何か策があるんだ」
その時、大きな咆哮がカモメ川一帯に轟いた。
マロウ「なんだありゃ!?」
メロディ「あれは確か、いつも死んだように眠っている、ドラゴンじゃない?」
マロウ「そうだ。あのドラゴンだ。いつもと雰囲気がまるで違うから気がつかなかった。てか、その上に乗ってるのはツルギじゃないか!?」
ヒロユキ「やあ、みんな、待たせてすまなかった。今からこのマイクが暴れまわるから、離れていた方が身の為だぜ」
ドラゴン「僕はマイク・ジャクソン。鬼のように強い。僕はこの戦いをきっかけに飛躍的に成長する。そして大志を抱き、いずれは世界に変革をもたらす男」
猛スピードで駆けつけてきた翼のないドラゴンは、文字通りマイク・ジャクソンの如く、華麗に暴れ回り、ものの数秒で、巨大ネズミ達を蹴散らしてしまった。
ヒロユキ「良くやったぞ、マイク! 俺の目に狂いはなかった。お前がチャンピオンだ!」
マイク「これを僕がやったのか?」と、彼は唖然とした表情で呟いた。
ツルギ「そうだよ。これがお前の真の実力だ。お前は今日から、マイク・ジャクソンだ」
マイク「僕に名前をくれてありがとう。この名前に恥じないように、精進し続けます」
ツルギ「そのいきだ、マイク。良くやったぞ、よーしよし」
メロディ「凄いわ、マイク! 」
マロウ「ありがとう、マイク! 君がいなけりゃどうなっていたことか!?」
メロディ「ところでマイク・ジャクソンって誰?」
ツルギ「伝説のボクサーです。知らないんですか?」
メロディ「知らないわ。聞いたこともない」
4 〈論破王虹村タカユキと異世界からの洗礼2〉
一仕事終えて、ツルギ達は帰り支度を始めていたが、彼らは巨大な何かが急速に近づいてくる気配を感じ取った。
メロディ「何かしら?」
マロウ「あれを見て!」
彼が指差した先には、通常の個体よりも遥かに巨大なネズミ型のモンスターがいて、一同の元に駆けつけてくるところだった。
マロウ「突進してくる! 逃げろ!」
モンスターは寸前のところで止まり、一同の前に立ち塞がった。
マロウ「うわー、びっくりした。てか、背中に誰かが乗ってるぞ!」
???「あら、様子を見に来て正解ね。もしかして、こいつらを片付けたのは、あなた達?」と、モンスターの背中に乗っている、フードを被った女が言った。
メロディ「あの制服、リョウド超人学園の生徒だわ」
ツルギ(ヒロユキ)「えっ、この街に超人学園なるものがあるんすか?」
メロディ「ええ、何せこの世界は超人の支配下にある訳だし、あるのが当然とも言えるわ」
ツルギ「まあ言われみればそうっすね」
マロウ「でもそんな状況下にあるとは言え、超人学園の生徒は一般市民から毛嫌いされているんだ。だから、白昼堂々、こんな市街地のど真ん中に現れるのは、珍しいことだよ」
メロディ「そうよ。超人に支配されているとは言え、大半の人類やモンスター達は、心の底では超人やその手先どもを心底恨んでいるの。だから、超人学園の生徒が肩身の狭い思いを強いられているのは、当然の報いだわ」
???「あの、もういいかしら? てか、別にあんた達が思ってる程、肩身の狭い思いなんてしてないし!」
ツルギ「じゃあ、そのフードを被るの、やめてもらってもいいですか?」
???「うるさいわね。なんであんたなんかに指図をされなきゃならないの!」
ツルギ「はあ。で、今日は、どういったご用件ですか?」
???「呑気にしていられるのも今のうちよ(怒) さあ、あたしの可愛い化けネズミ! やっておしまい!」
マイク・ジャクソンをも凌ぐ程の超巨大ネズミは、ツルギ達目掛けて体当たりを仕掛けてきた。
マイク・ジャクソン「兄貴達、危ない!」と言うと、彼は間に割って入り、超巨大ネズミと取っ組み合いを始めた。
ツルギ達は、その様子を間近で見ながら、呑気に話をしていた。
ツルギ「えらい大きさですね」
メロディ「多分群のリーダーだと思う。てか、あなたが話すと緊張感が無くなるのよね。なんでそんなに平然としていられるの?」
ツルギ「まあ、慌てたところで、どうにもなりませんし」
メロディ「そうだけど。まあ、いいや。てか、マイク・ジャクソン一人で大丈夫かしら? 私達はもう魔力を使い果たしてしまったから、ろくに加勢が出来ないわ」
ツルギ「あいつなら大丈夫ですよ。僕が洗脳しておきましたから、無敵ですよ」
巨大なネズミは、渾身の力を込めた一撃をドラゴンの急所目掛けてお見舞いし、マイク・ジャクソンを吹き飛ばした。
ツルギ「大丈夫か、マイク・ジャクソン!!!」
メロディ「やっぱりおかしいわ。あのネズミがあんなに強い訳がない。あなた一体何をしたの?」と、超人学園の生徒に向かって言った。
???「よく気がついたわね。こいつらにはちょっとした実験に付き合ってもらったの」
一方ツルギは、ドラゴンの元に駆け寄り、彼の安否を確認しにいった。
ツルギ「マイク、大丈夫か?」
マイク「ダメかもしれません。兄貴、僕は強くなれましたかね?」
ツルギ「ああ、お前は強かった。良くやってくれた。お前がいなかったら今頃みんな死んでたよ」
マイク「兄貴のおかげで世界が一新して見えました。たった一瞬だったとしても、かつてないほどいい景色でした」
ツルギ「何言ってんだよ。お前はこんなところで死ぬような玉じゃないだろ。目を瞑るな、マイク・ジャクソン!」
マイク「僕はいま、想像していたよりもずっと安らかな境地にいます」
ツルギ「駄目だ! 戻ってこい!」
マイク「これが僕が夢にまで見た、平穏と言うやつかもしれません。ただ、兄貴が言っていた通り、今ではこんなものになんの価値も見出せません。僕は・・・、もっとあなた達と・・・、刺激に満ちた、激動の日々を送りたかった・・・・・・」と言い残すと、彼は目を閉じて動かなくなった。
ツルギ「マイク・ジャクソン!!」
と、大声で言い放った後、彼は徐に立ち上がり、決意を秘めた眼差しで前を見据えながら、巨大ネズミの前に立ち塞がった。
???「その剣! 確か、勇者の剣じゃない!? もしかして、あなたが例の勇者の卵君ね。へー、面白いじゃない。お手並み拝見といこうかしら」
と、彼女は言うと、ネズミをツルギに向かって突進させた。
ツルギ「お前だけは許さない」
と言うと、彼は勇者の剣に手をかけ、抜こうした。
〈あれ、やっぱり抜けない。おかしいな、主人公の覚醒という一大イベントには、もってこいの展開なんだが〉と、ヒロユキは思った。
メロディ「何やってんの! さっさと剣を抜いて! 間に合わないわ!」
死を覚悟したツルギが、瞑ってしまった目を開けた時、彼の目の前には誰かの後ろ姿があった。
その男は、片手でモンスターに魔法をかけていて、その巨体を宙に浮かせていた。
スーザン「やれやれ。通報を受けて、駆けつけてみれば、未来の勇者様がこの有様だ。全く、先が思いやられるったらありゃしない」
マロウ「うおー! スーザン先生ー!!」
危険を察知したのか、超人学園の生徒は、モンスターの背中から即座に飛び降りた。
???「ちっ、魔導剣士スーザンか。厄介なのが来たわね。せっかく面白いとこだったのに」
スーザン「これは、これは、誰かと思えば、超人学園の生徒様ではないか。流石と言うべきか、なかなか面白い魔法を此奴にかけましたな。この術はカミカーゼですな?」
マロウ「カミカーゼだって! 一般的には使用を禁止されている禁術じゃないか! 」
ツルギ「なんすかそれ?」
メロディ「命と引き換えに、一定時間その能力を大幅に引き上げる魔法よ。効果が切れると同時に、施行された者の命は尽きてしまうの」
スーザン「そうだ。だが天下の超人学園では、黙認されているようだな。まあ、基本的には、何をしてもお咎めなしの身分であるがゆえに、成せる技というところか」
???「残念だけど違うわ。そんな術なんて知らないもの。でもいいこと聞いたわ。今度調べてみよっと」
ツルギ「違うのかよ。スーザン先生が恥かいちゃったじゃねえか」
マロウ「本当だね。先生、なんとかして平然を装おうとしてるけど、恥辱の色が露骨に顔に現れている」
メロディ「これはきっと後に引きずるでしょうね。二、三日は眠れぬ夜を過ごすことになるかも」
スーザン「ゴホン。いや、別に気にしてないし。生徒の手前でちょっとした間違いを犯したくらいで、眠れなくなるようなメンタルの奴が、勇者学園の先生なんて勤まるわけないじゃん」
マロウ「やっぱり図星だったんだ! スーザン先生は動揺すると、普段の物々しい話し方を忘れて、タメ口になるって聞いたことがある。あの噂は本当だったんだ」
スーザン「まじやめろってお前。そうゆうの本当ないから。マジで気にしてねえって言ってんだろ、ぶん殴るぞ。てか、お前のせいで、俺のカッコイイ登場シーンが台無しにじゃねえかよ。本当ないわ」
メロディ「それ以上先生をからかうのはやめなさいよ(笑) かわいそうじゃない(笑)」
スーザン「おまえも笑ってんじゃねえよ。みんなして、マジないわ。これはもう完全に、お前らの寮は15点減点だわ」
???「もう、いいかしら? あたし、そこまで暇じゃないので。なんか興が冷めちゃったから、今日のところはもう引き上げるわ。また会いましょうね、ツルギ君」と言うと、彼女は一瞬で姿を消した。
スーザン「ほう、今のは見事なルルーラだ。あの女、相当な手練れとみた」
メロディ「あの、先生。今のはルルーラではないと思います。その証拠に彼女はまだあんな所にいます。もし、ルルーラが使えるとしたなら、もっと遠くの、安全な地帯に移動するはずです。私の見立てだと、ピュオリムが正解だと思います」
スーザン「もうなんでもいいだろ! 一々揚げ足を取りやがって! 多少の間違いは聞き流せよ、めんどくせえな。てか、お前可愛いけど、絶対モテないだろ!? 俺だったら、お前みたいな堅物とは、絶対付き合いたくないね!!」
マロウ「うわ、流石に酷いぞ、今のは!」
ツルギ「先生、今のは完全にセクハラですよ。パワハラであるかもしれません。とにかく完全にアウトです」
スーザン「えっ、マジ!? うそうそ、ちょっとした冗談だって。水に流してくれるよね? ね、可愛いメロディちゃん?」
メロディ「流石に許せません。録音しておいたので、然るべきを措置を取らせていただきます。解雇処分を覚悟しておいてくださいね」
スーザン「ごめんなさい!この通りだから、それだけは勘弁してください! 減点も取り消します! いや、むしろ加点するわ! お前らの寮に150点! まさに出血大サービス!」
メロディ「いや、そうゆう問題じゃないので。本当に失望しました。あなたは教師というか、人間失格だと思います」
スーザン「いや、待って。冷静に考えてみたら、命の恩人に対してこの仕打ちはおかしくない? 俺が駆けつけて来なかったら、お前ら全員死んでたぜ。マジ、マジ、冗談抜きで」
メロディ「確かに」
スーザン「でしょ? だからさ、多少の不適切な発言くらい、水に流してよ。お願い、マイメロディ!」
メロディ「分かりました。以後言動には気をつけてくださいね」
スーザン「マジ神。てか、女神!? 美し過ぎる。この世の物とは思えないレベル」
ツルギ「あの、先生。今までの一連の言動は全て、スマホで録画させてもらいました。拡散されたくなかったら、なんかご飯奢ってくださいよ。僕、今お腹ぺこぺこなんです」
「ウワアアアア」と発狂した後、スーザン先生は地べたに這い蹲り、聞き分けのない子供のように、駄々をこねながら泣き喚きはじめた。
スーザン「悪魔だ。真の大魔王はここにいた。ウワアアアア!! いっそ殺してくれ! 貴様のせいでもう一生安眠出来なくなった! だから一思いに殺してくれ!」
ツルギ「ちょっとやり過ぎたかな。あっそうだ、こんな事してる場合じゃない。マイク・ジャクソン!」
彼は、横たわったまま動かなくなったドラゴンの元に急いだ。
ツルギ「目を覚ましてくれ、マイク・ジャクソン! 早くもお別れなんて嫌だよぉ!!」
メロディ「いや、死んでないわよ。微かに寝息が聴こえるでしょ?」
ヒロユキ「あっ、本当だ」
メロディ「多分、久しぶりに動いたから、疲れたんでしょ。生命力が強いドラゴンが、 この程度の掠りキズで死ぬわけないじゃない。一応回復魔法をかけてあげるけど」
ツルギ「なんだよ、驚かせやがって。心配して損した。あっ、先生、早く飯食いに行こうよ」
スーザン「ゴホン、よろしい。なんでも奢ってあげるよ。おじさんこう見えても、結構稼いでますから」
ツルギ「やったー。何にしようかなー、食いたい物沢山あるんだよなー」
スーザン「あっ、てかこいつ、レベリオ・グリーンドラゴンじゃね? 超レアじゃん! まさかこんな街中でお目にかかれるとは!」
メロディ「先生、私の見立てだと、これは間違いなくエメラルド・ドラゴンです」
スーザン「ウアアァァァァァ」
マロウ「みんな! もう、やめてあげて! 先生、本当に死んじゃうよ!」
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