夢幻の調律師 苗木咲夜
2話目です。文字数このぐらいが良いんですかね?Twitterのフォロー。感想等お待ちしておりまーす。
何かが激しく燃えている音が聞こえ、ここがいつもの夢であることを理解した。
「やっとお目覚めかい?坊や」
「お前は……」
振り向くとそこには駐輪場で話しかけてきた中性的な顔立ちの男がいた。いつもは自分以外誰もいないはず夢に何故こいつが出てきたんだ。
「混乱してるね坊や、心配はいらない。さっき挨拶を交わしたばかりの仲じゃないか」
一方的に捲し立てる男。さっき挨拶を交わしたなどと言うが、学校でも今でも一方的に話しているだけで会話が成り立っているとは思えない。
「あぁ、しまった。一人で喋りすぎてしまった。しかし、僕にも時間がないんだ。多少不審者めいているかもしれないが少しだけ私を信用して欲しい。さもなくば、君には死が訪れる。」
何を言っているんだこいつは。いきなり夢の中にまで出てきた上に俺が死ぬ?とりあえず、会話を長引かせて美咲が起こしてくれるのを待つのが最適解だろう。どうせこれは夢なんだから。
「待ってくれ、俺が死ぬ?いきなり話を進めないでくれ。頭が追いつかないし、疑問しか残っていないんだ」
「ハハハッ、残念ながら待つことはできない。いや、僕が待つことは可能なんだが、君の後ろにいるソイツが待ってやくれない。もう一度言う、僕を信じろ。さもなくば君は死ぬ」
訳がわからない、男からは気楽な口調が鳴りをひそめ、最後にはとても鋭く真剣な空気が漂っていた。
「落ち着いてきたかな?混乱に次ぐ混乱を招いてしまったことは謝罪するよ。ただ、死にたくないなら早く僕の後ろに来ると良い。ソイツもそろそろ我慢の限界のようだから」
そいつ?俺は男が顎で指している方向に振り向いた。その瞬間冷静になりつつあった頭が考えることを放棄した。
「あ……あぁ……」
声にならない声が漏れる。振り向いた先には、目と鼻の距離には黒い大型の獣のようなものがいた。何かに形容しがたいそれと目があってしまった。
“ガゥ……グルルル"
「あちゃ〜、これは間に合わないね」
「な、ぃが……」
軽薄そうに言う男に、何が間に合わないのか問いただそうとするも声がうまく出せない。蛇に睨まれた蛙を素で行っている状態になっていた。
「おぉ、この状況で声が出せるなんて君センスあるよ。死ぬセンス♪最高じゃないか」
男が何を言っているのか分からなくなってきた。走行しているうちにも黒い獣は下衆な笑みを浮かべながら距離を詰めてくる。
“クゥーン”
急に子犬のような声がした途端、黒い獣は視界から消えた。それと同時に自分の後ろからキィィンいう金属のぶつかった音が聞こえた。慌てて振り向くとそこには消えたはずの獣の爪が男の持っているナイフサイズの刃物に弾かれていた。
「君が僕の後ろにくるのが遅いからね。僕から守りに行くことにしたんだ。残念ながら僕は戦闘タイプの調律師じゃない、この程度に負けることはないだろうが、君を守りながら戦える自信はない。腕の一本くらいは我慢してくれよ。坊や」
爪を弾かれたことで狼狽えていた獣だったが、次第に冷静さを取り戻しているように見える。夢の中だから死んでしまえば目が覚めるのではないかと一瞬期待したが、余裕がなさそうな男を見る限りここで死ぬと本当に死んでしまう気がした。
「ラッキーなことにアレは狙いを君から僕に移したようだから。君は死なないよ。余計なことをしなければ」
男が話すのをやめた。その瞬間静寂が訪れる。獣は下衆な笑みを浮かべるのをやめ、男からはあの獣とは比にならないほどの殺気を感じる。
「何が…起こって……」
獣と男が目の前から消えると、すぐに次は左から、その次は右、後ろ、前と至る方向から先程の金属音が聞こえて来る。
「2秒後には片付くよ。もう勝ちが見えた」
男の声が聞こえてきた。すると勢いよく何かが落ちて来る。ドスンという音がなると砂埃が舞う。
「いや〜久しぶりの戦闘だったし、こりゃ明日は筋肉痛確定だな」
砂埃の中からヘラヘラとした口調の男が歩いて来る。視界が晴れてくると男の輪郭が浮かび、その後ろには完全に伸びている獣の姿が見えた。
「お前は一体何なんだ」
「僕は僕だとしか言いようがないんだけどなぁ…….。そうか。僕が何者か、哲学的な話になりそうだねぇ」
助けてもらった相手とはいえ、この状況でヘラヘラとしている男に腹が立ち、つい声を荒げてしまう。
「茶化すなよ。お前は何なんだ。なんでそんな力を持っている。そもそもここは何なんだ。夢なのに死ねば死ぬ?おかしいだろうが」
「とりあえず落ち着こうか、冷静にならなきゃ話ができない。とりあえず時間の問題は解決した。ゆっくりと話そうじゃないか、君が知りたいこと。僕が知っていること。あぁ、自己紹介がまだだったね。僕は《苗木咲夜》という。
《夢幻の調律師》をやっている。というよりも世界に役割を押し付けられている。この点で言うと君の先輩になるね。とりあえずはこれからよろしく頼むよ。夢園 律君」
テスト期間中の現実逃避も兼ねて