第99話 殺人鬼は不死性について考える
ニムと入れ替わるようにして伯爵がやって来た。
彼はゴブリンの死体を引きずりながら僕達に挨拶する。
「やあ、調子はどうだね」
「重傷でしたが、ニムに治療してもらいました」
「それは良いことだ。彼女は活躍の場を求めている。負傷しない者ばかりだと、彼女の仕事が無くなってしまうからね」
伯爵は血だらけだが傷は無い。
いずれも高速再生で処置したのだろう。
したがって、、彼にニムの治療は不要だった。
日々、その技能を磨き上げていることを僕は知っている。
伯爵は僕と同じ系統の不死性を持つが、再生速度は彼の方が遥かに上だ。
おまけに吸血鬼の弱点を克服しているため、完全に僕の上位互換とも言えよう。
そんな伯爵にも欠点はある。
粉微塵になった状態で燃やされると死ぬし、強力な祝福を施された銀の武器で攻撃されると弱ってしまう。
エネルギーの補給ができないと能力が衰える。
その状態が続くと再生すらままならなくなり、人間と同程度の力に落ちる。
別に伯爵だけの欠点ではない。
不死性を持つノルティアスの外交官は多いが、大半は似たようなリスクを抱えていた。
誰も完璧な不死身ではないのである。
どういった形であれ、絶対に殺せないということはない。
その点、僕にはエネルギー不足という概念がなかった。
疲労や空腹は感じるものの、それが身体機能の低下に繋がらない。
むしろ肉体が死に迫るほど本領を発揮する。
燃やされたり切り刻まれるほど力が強くなるのだ。
過去に肉体性能を調べるために様々な損壊を体験してみたが、僕が死ぬことはなかった。
遅々とした速度ながらも完全に再生できてしまうのだ。
脳を吹き飛ばされても意識が途切れないメカニズムは未だ解明されておらず、僕自身もよく分かっていない。
全身が木端微塵になったとしても、僅か一片の肉や骨から復活する。
他の外交官が苦手とする状況を糧にできるからこそ、僕は不死身の代名詞となっていた。
伯爵はゴブリンの死体を素手で解体しながら話題を切り出す。
「ところで君の戦闘を眺めていたよ。見惚れるような迫力だったね」
「皆さんと違って泥臭いと思うのですが」
「いやいや、とんでもない。殺人鬼らしさが好きなのだよ」
伯爵は嬉しそうに言うと、引き千切ったゴブリンの片腕を僕に差し出してきた。
断面からは血が滴っている。
「ほら、君も飲むかね。味は最悪だが栄養価は抜群だ」
「すみません、遠慮しておきます」
「それは残念だ。あまり好き嫌いするものではないよ。再生能力はなるべく促進させておいた方がいい」
伯爵はゴブリンの血を啜りながら助言を述べる。
吸血は彼の生命線だ。
たとえ味の悪いゴブリンでも絶やさずに行うべきなのだろう。
僕は高速再生にあまり興味がない。
今のままでも困ることはない。
それよりゴブリンを食べることに抵抗があった。
さすがに遠慮したいところだった。
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