第97話 殺人鬼は外交を成す
ロンと雑談していると、腰に吊る端末が着信音を鳴らした。
ゴブリンとの激闘でも故障しない耐久型の端末だ。
液晶に表示された相手を見た後、僕は応答ボタンを押す。
すぐに聞き慣れた声が発せられた。
『N303、任務は終了しましたか』
「まだ途中ですが、先に退路の確保を要請します」
『分かりました。制圧地点を繋ぐように防衛ロボを派遣します』
通信相手――管理AIのウェアは速やかに承諾する。
彼女はいつも余計な会話をしない。
しかしその手際の良さはよく知っていたので信用している。
(外交官になった後、最も付き合いが長いからな)
現在、機械の国テクノニカはノルティアスの傘下にあった。
双方に距離があるので大きな干渉はしていないが、互いに従来のスタンスを大きく崩さずに運営している。
テクノニカからノルティアスに最新技術が提供されて、ノルティアスからはよりよい人間の管理方法が伝授された。
後者については、ノリティアスの専売特許とも言えるものだった。
殺人鬼の国は一般市民はその実態を知らない。
そもそも世界の真実すら知らず、自分達が資源に過ぎないことすら気付いていなかった。
多種多様な種族が治める国々の中でも、そういった状態はノルティアスのみだ。
つまり隠蔽技術はずば抜けている。
それをテクノニカにおける人間の扱い方にも活かせるのではないかという話になったのだ。
狂った人工知能は徐々に訂正を進めている。
管理される人々も、やがて真の幸福に辿り着けるかもしれない。
一方、通信を聞いていたロンがウェアに向かって脅しをかける。
「勝手な真似をするなよ。もし俺達を裏切れば、どうなるか分かっているだろうな」
『裏切ることはありえません。マザーAIの遺言により、ノルティアスとの主従関係は約束されています。これはプログラムで規定されていますので、私の意思では覆すことができません。ご安心ください』
ウェアは流暢に弁明した。
彼女がこれだけの量を一気にまくし立てるのは珍しい。
よほど反論したかったのかもしれない。
現在の関係は、今は亡きマザーAIが築いたものだ。
彼女は、僕に破壊される前にテクノニカの全プラグロムに介入した。
自らが消滅した際、速やかにノルティアスへと明け渡せるように細工したのだった。
マザーAIは誠実だった。
僕と一対一で戦った際の約束を全力で遂行していたのだ。
それを反故にすることもできたのに、あえて遂行してみせた。
彼女なりの矜持のようなものがあったのかもしれない。




