第94話 殺人鬼は死なない
(終わった、のか……)
僕は立ち上がって義体を見下ろす。
機械の身体が動き出すことはなく、完全に死んでいる。
マザーAIの命は潰えた。
それを殺人鬼としての感覚が捉えていた。
無表情に死体を眺めていると、背後から誰かがぶつかってきた。
振り返るとそこにいたのはロンだ。
「ダニエル!」
ロンは僕を軽々と抱きかかえると、力強く歓声を上げた。
彼は陽気に飛び跳ねながら大笑いする。
「やったな! こいつ、やりやがった! タイマンで機械の王をぶっ殺したんだ!」
「素晴らしい戦いぶりだったよ。涙無しには見られなかった」
伯爵はハンカチで目元を拭いながら感動している。
感極まったとでも言いたげな姿であった。
(倒した本人より盛り上がっているな)
僕個人からすれば、とんでもなく見苦しい辛勝だった。
何かが違えば勝敗がひっくり返っていた。
僕以外の三人なら、苦戦することなく立ち回れただろう。
エマは抱えられたままの僕に声をかけてきた。
「お疲れ様。よく頑張ったね」
「いえ……ありがとうございます」
僕が応じる間、エマが身体に触れてきた。
義体との死闘で幾度もの致命傷を負った肉体は、ほとんど死体同然である。
何かを調べ終えたエマは不思議そうな顔をした。
「生存に必要な機能がすべて止まっているね。本当に死んでいないの?」
「生きて、ますよ……たぶん」
自分でもなぜ生きているのか分からない。
痛みはあるが、それに苦しめられることはなかった。
ただの信号として認識しているようだ。
明確にどこからかは分からないものの、僕の中で何かが変わったらしい。
伯爵とロンは、今更ながら僕の身体に疑問を抱く。
「脳と心臓が潰れて、血液もほとんど残っていない。かと言って不死の種族に変異したわけではない。いやはや、人体の神秘だね」
「まあ、これが殺人鬼って奴だな。厳密には人間と違う種族さ。ダニエルはそっち側に傾いたんだ」
結局、明確な理由は分からなかったが、僕は殺人鬼として進化したようだった。
外交官になってから何度か成長し、それが土壇場で発現した。
大きな一歩を踏み出したのである。
(僕もとうとう人間卒業か……)
感慨深くなることはなく、達成感も喜びもない。
とりあえず、生き残れたことに安堵する。
こうしてテクノニカを交えた騒動は、一旦の終焉を迎えたのであった。




