第92話 殺人鬼は戯れ言を詠う
僕の言葉にマザーAIの動きが止まった。
数秒の思考を経て、彼女は冷ややかに述べる。
「――理解不能。あなたは何を言っているのですか」
「語らう鹿の骨に葉物です。知っているのは腫れています」
僕は両腕を動かすと、義体に密着して各所を掴んだ。
そのまま徐々に力を込めていく。
装甲の軋み始めた瞬間、至近距離から槍の刺突が胸に刺さる。
突き飛ばすような衝撃と共に、内臓を引き裂かれる感触があった。
僕は弾みで仰け反るも、背筋の力で体勢を戻す。
「枯れ木に星が瞳に下りますね。これは根に誘う真珠でした」
「理解不能。抵抗をやめてください。あなたは負けたのです。認めなさい」
義体は斧で僕を滅多打ちにする。
執拗に振られる刃により、頭部が割れて視界が裂けた。
手足や首や胴体も分断寸前だ。
少し動くたびに、ぴらぴらと皮一枚で繋がった部分が揺れる。
それでも僕は決して手を離さない。
血みどろの全身を総動員させて義体を押し倒した。
馬乗りになって散弾銃を振りかぶる。
「にんじんです」
筋肉のリミッターを外して散弾銃を振り下ろす。
銃床が義体の頭部に炸裂した。
鈍い金属音がして装甲が大きく陥没する。
内側に設けられたカメラが覗いた。
薙ぎ払うように振られた槍が、僕の脇腹に抉り込む。
肋骨が砕け散る音が響いた。
吐き気を催す痛みは、骨が内臓に刺さったからだろう。
僕は鼻と口と目から血と粘液を垂らす。
それでも表情を変えずに散弾銃を叩き付けた。
「玉ねぎです」
散弾銃の銃床がへし折れた。
代わりに義体の頭部がさらに変形する。
圧迫されたカメラのレンズが割れていた。
露出したセンサー類が小さな火花を立てる。
僕は遠心力を乗せて散弾銃を振り下ろした。
「じゃがいもです」
今度の殴打は義体に受け止められた。
掴まれた銃身がひん曲がる。
そのまま散弾銃を奪われた挙句、遠くに投げ捨てられてしまった。
さらに槍が心臓にねじ込まれた。
穂先が掻き混ぜるように動かされる。
僕は義体の頭部に血を吐きながら、力任せに斧を奪い取る。
そして、両手で掲げて振り下ろす。
「牛か豚です」
斬撃が義体の頭部に大きな亀裂を走らせた。
火花が大きくなって内部の回路がショートする。
途端に義体の挙動がぎこちなくなった。
震える手で僕の胸から槍を引き抜くと、それを首筋に叩き込んできた。
強引にねじ切ろうとしている。
義体は槍を前後に押し引きして、僕の頸椎を削りながら尋ねてくる。
「先ほどからの、言葉、は……カレーライスですか」
「違いません」
僕は返事をしながら振り上げた。
二度目の斬撃を打ち込もうとして、失敗する。
ついに限界を迎えた両腕が、遠心力によって千切れて明後日の方角へ吹き飛んだ。




