第9話 殺人鬼は襲い掛かる
僕は慎重に移動して、盗賊の真横を陣取る。
槍使いが最も近い。
距離はおよそ五メートル。
相手が動かなければ弾を当てられるはずだ。
不意打ちで射撃しようとしたその時、僕は己の奥底に衝動を覚えた。
(何だ)
心の底に燻りができて、一気に燃え上がる。
四肢をじくじくと炙っており、動かずにはいられなくなった。
鼓動が速まり、呼吸も浅くなる。
それなのに思考だけは明瞭だった。
気が付くと僕は、茂みを揺らして進み出ていた。
拳銃を片手に歩んで盗賊達の前に姿を現す。
視界の端では、ロンの驚く顔が映っていた。
(奇襲作戦が台無しになったな)
僕は他人事のように考えながら歩く。
その間に盗賊達がこちらを向こうとしていた。
各々の手には凶悪な武器がある。
戦いに負ければ、あれで切り刻まれることになる。
そして苦痛に悶えながら命を落とすのだ。
己の死を想像しながらも、僕は躊躇わずに接近していく。
「なッ!?」
槍使いが驚愕し、おもむろに槍を突き出してくる。
狙いは僕の胴体。
咄嗟の判断で当たりやすさを重視したのだろう。
これなら胸でも腹でも致命傷になる。
そこまで考察したところで、僕は異変に気付く。
極度の集中によるものか、槍の動きが遅い。
穂先の僅かな欠けを視認できるほどだ。
まるでスローモーションのようであった。
槍の軌跡がよく見える。
(これなら問題ないな)
僕は斜めに進み出て刺突を躱すと、槍を脇に退けながら前進した。
男の鼻先に銃口を突き付けて、引き金にかけた指に力を込める。
銃声と同時に、世界の速度が元通りになった。
槍使いの顔面に穴が開いている。
白目を剥いて、脳漿を散らしながら崩れ落ちるところだった。
乾いた大地に血だまりが広がっていく。
残る二人の盗賊は呆然としていた。
口を半開きにして、仲間の死に様を眺めている。
予想外の光景に思考が停止しているようだ。
「少し待ってくださいね」
僕は彼らにそう告げながら拳銃を連射する。
斧を持つ男に三発。
鉈を持つ男には二発。
無防備に佇んでいるので、落ち着いて命中させることができた。
男達は倒れて、同じように血だまりを広げていく。
「おいおい、マジかよ……」
ロンが呆気に取られている。
僕の行動は、彼にとっても虚を突くものだったらしい。
おそらく茂みの向こうから銃撃を浴びせるものだと思っていたのだろう。
僕が外した時に備えて、援護するつもりだったのかもしれない。
拳銃の空薬莢を落としながら、僕は新しい弾を装填する。
(意外と簡単だったな)
気合を入れて挑んだが、無傷で勝利してしまった。
またもた殺人衝動に襲われた。
その影響なのか、槍の刺突を楽に躱すことができた。
よく分からないが喜ぶべき結果だろう。