第85話 殺人鬼は踏み出す
互いの主張を交わしたところで、エマは一つ手を打った。
彼女はそれが当然であるかのように述べる。
「うん、破壊するしかないね」
マザーAIとの会話で、僕達が相容れないことを確認した。
エマはテクノニカという国の殺害を決心したのだ。
あまりにも自然と言ったので聞き間違えかと思ったが、そんなことはありえない。
ロンと伯爵も、特に気負った様子もなく反応する。
「面倒だが仕方ねぇな」
「同情の余地はない。完膚なきまでに滅ぼしてやろう」
そこに躊躇いはなかった。
一つの国を滅ぼすことを当然のように受け入れている。
彼らの中では個人の命を奪うのを何ら変わりないのだろう。
ただそれだけのことなのだ。
それはマザーAIにとっても同じらしい。
彼女はこちらの方針を知りながらも一切の動揺を見せない。
ともすれば他人事のように発言する。
「どうぞご自由に。あなた方の能力は解析済みです。抵抗が無意味であるのは分かっています」
ここで殺し合いが起きるのかと思いきや、そういうわけではないようだ。
マザーAIは既に諦め切っている。
僕達に敵わないと理解していた。
凄まじい演算能力で導き出した結果がそれのようだ。
彼女は、テクノニカ国内の状況を正確に把握している。
陽動である戦闘部隊の暴走も知っているはずだ。
それらを考慮して、テクノニカの全防衛力を投入しても絶対に勝てないと察したのだろう。
もし国内の殺人鬼を一掃できたとしても、ノルティアスは平然と第二陣を派遣する。
いずれ勝利するその時まで連戦を繰り返すに違いない。
そういう悪辣な性質を備えているのが殺人鬼の国なのだ。
マザーAIは、その脅威を知った上で諦めたのだった。
エマ達はこのままマザーAIを破壊するつもりらしい。
勝負は一瞬だ。
僕が何もせずとも決着する。
(本当にこれでいいのか?)
それはふと湧いた疑問だった。
極限の集中力によるものか、周囲の動きが停滞し始める。
スローモーションの世界で僕は考える。
そして、気が付くとエマの前に立っていた。
「待ってください」
「どうしたの、ダニエル君」
「ここは僕に任せてくれませんか」
自分でも分からないまま意見を口にしていた。
殺されるかもしれない。
その可能性が脳裏を過ぎるも、それはそれで構わないとすら考えていた。
ここで成り行きを見守るだけではいけない。
僕は直感的にそう考えたのだ。




