第80話 殺人鬼は侵入を始める
ロンは遠くで展開される虐殺劇を眺めていた。
彼は煙草をくわえながら苦笑気味にぼやく。
「一方的な展開だな。何もかもぶっ壊すつもりじゃねぇかな」
ロンがそう言うのも納得の有様だった。
ノルティアスの戦闘部隊は圧倒的な暴力を以て、テクノニカの兵器を薙ぎ倒していく。
無差別かつ容赦ない破壊だ。
そこに外交官達も加わって混沌が増していた。
優れた機械文明を持つノルティアスは、為す術もなく蹂躙されるままである。
(あれがノルティアスの本気なのか)
僕は虐殺劇を前に何もできなかった。
自分一人では無力感を覚えた相手が、性質の悪い冗談のように粉砕されている。
殺人鬼の国という意味を痛感させられた。
何も言えずに眺めていると、エマが静かに補足する。
「ノルティアスにはまだまだ色んな殺人鬼がいるよ。状況次第ではさらに強力な部隊が派遣されるね」
「まったく恐ろしい国だぜ。いつか世界を滅ぼすとすれば、間違いなく殺人鬼がやるだろうな」
ロンの言う通りである。
ノルティアスの保有する戦力は過剰だ。
扱いを誤れば、何もかもを殺し尽くすのではないか。
それは今回の戦闘部隊にも言えることである。
外交官になるだけの理性が足りずに兵器として運用している存在だ。
そんな彼らを、戦いの後に止めることができるのだろうか。
心配する僕に、伯爵はエマを見ながらこっそりと教えてくれる。
「彼女も別格とされる殺人鬼の一人だ。諸々の後始末はできるはずだよ」
「……何か言った?」
「いいや、他愛もない話さ。気にしなくていい」
エマの追及に、伯爵は涼しい顔で応じる。
暫し沈黙が流れるも、それを破ったのは外の戦闘音だった。
竜の体当たりで正門が完全に破壊されたのだ。
ロボットを踏み越えて殺人鬼達が前進するところだった。
エマは手を打って注目を集めると、荷物を持って車両の外へ出ようとする。
「さて、正門は間もなく占拠できそうだね。私達もそろそろ動こうか」
「どこから侵入するのですか?」
「もちろん正門だね。戦闘部隊のどさくさに紛れて一気に動こう」
僕達はそれぞれ装備を持って車両を降りた。
無惨な光景を晒す正門へと歩いていく。
その途中でエマが説明する。
「私達の目的はテクノニカの支配者――マザーAIの機能停止だ。それでこの国は崩壊する」
「戦闘部隊を囮にして突っ込むってわけか」
「うん。テクノニカの防衛力は侮れないからね。最も確実な方法で進もう」
マザーAIを狙うということは、やはりこの国を殺すつもりらしい。
殺人鬼達は一切手を抜くつもりがない。
その発端が自分であることを、僕はどこか他人事のように感じていた。




